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ジュリアの呪い魔法解除 69

 私は、なんだって、こんな格好をさせられてるんだろう。


「……あの。これ、必要ですか?」

「必要」


 シャインさんが面白そうに私を見る。

 ——もう。


 私はルーランの提案で、彼の王子服を着せられてる。


「やっぱり着られたね。おまけに、すごく似合うよ、ジュリア」

「ルーラン。楽しんでない?」

「まさか。その格好してると、どこかの貴族の息子に見える。シャインさんが連れ歩いても、新しい近衛兵候補かなって思われるだけだ。都合がいいでしょ?」


 一本三つ編みも解かれて、首の後ろでシャインさんみたいに縛られた。シャインさんが、自分のポケットから薄い黄色のガラスが入った眼鏡を出して私にかける。


「……ジュリア。これは、これで、すごく良いね」

「何がですか」

「新鮮だ」


 私が睨むと嬉しそうに微笑む。

 マーカーライトさんが、疲れた顔をする。


「イチャイチャするのは後にしろ、シャイン。小鬼ちゃんも、少し我慢しとけ。今、王宮にはサンダー妃だけじゃなく、アイアン大公も居るんだ。面倒を避けるのは大事だろ?」

「マーカーライトさんに正論を言われると、逆に不安になりますね」

「……あんた、シャインに似てきたな」


 メグさんも、なぜか王子服を着せられてる。


「あの。大丈夫ですか? リュカオン殿下より、一回りは小さくなってしまいますが」

「良い感じだよ。少し幻術をかければ、誤魔化せるだろ」


 マーカーライトさんが目を細めて頷いてる。

 美人のメグさんは、もともとルーランの影武者だそうだし、王子服がとても似合う。


 ……私とは違うなぁ。


 軽く息を吸ったノワール様が、私達に指示を出した。


「シャインとジュリア。マーカーライトとメグ。私とルーランで王宮を移動しつつ、呪い魔法の解除を進める。解除できるのは妖精眼のシャインとジュリアの組みだけだ。他の二組は目眩ましになるように動く。いいね?」


 私は少しだけ不安になる。


「ノワール様。ルーランの話ですと、国王様は彼の魔法が必要なのではなかったですか?」


 彼は目元を緩ませて、優しい笑みを浮かべた。


「今は魔法兵が二人ついてるから心配ない。……ジュリア。申し訳ないが、王宮の魔法解除を終えたら、シャインと国王の所へも行ってもらえないだろうか?」


「むろん、構いませんが」


 ノワール様がシャインさんに目配せをする。


「分かってるよ。違ってても、そうであっても、ジュリアに触れてもらう」

「あぁ、頼む」

「ただし、その時にはルーランと兄貴も一緒に居てもらわないと困るよ」

「分かっているよ。ジュリアの解除は、完全解除だからな」


 二人は通じ合ってるみたいだけど、私には今ひとつ分からない。

 でも——。


「とにかく、今は、王宮にばら撒かれた呪い魔法の解除が先だな」


 ——だよね。

 また、メグさんみたいに強く影響された人が危ない目に合わないとは限らないもの。


 ☆


 王宮の呪い魔法を解除するのは二回目だけど、今回の方が数が多いみたい。

「なんで、こんなに呪い魔法をかけまくってるんでしょう」


 シャインさんが眉を少し吊り上げた。

「来月、リュカオン殿下の誕生日が来る。その前に、不穏な空気にしたいんだよ。それに、万が一にも殿下が呪い魔法の影響を受けてくれれば、儲けものだからね」


 ——今回、メグさんが受けた呪い魔法。

 ルーランを狙ったモノだって事なのかな。


 そんなの絶対に許せない。


「一つ残らず解除しましょう」

「むろんだ」


 シャインさんが私の頭をポンポンと叩く。


「じゃ、次は貴賓室へ行ってみようか」


 前の時と同じように、黒眼鏡を外したシャインさんが、私を引っ張って王宮を彷徨きながら、そこを触れ、あそこを触れと指示を出す。台所から始まって、応接室や大広間、中庭、今回は二階にも上がって行き、司法省、通産省、軍部と様々な執務室へ顔を出した。


 私は喋るなと厳命されていたので、全てをシャインさんに任せる。


「新しい子?」

「まあ、候補ってとこ。王宮の仕事を説明して歩いてるんだよ。邪魔しないから、少し見せてくれないか?」

「まあ、いいけど。あんまり彷徨くなよ?」

「ありがとう」


 ——そんな感じ。

 ギクッとしたのは、やっぱりロザリー妃と遭遇した時。


「兵長、仕事をサボって何をなさっているのかしら?」

「これは、これは、王妃殿下。彼に王宮を案内しているのです」


 彼女は不審な目で私を見る。

 うう、怖い。


「彼? どこのご子息なのかしら?」

「ご存知ありませんか? フェルマー家の四男です」

「……三兄弟でしたよね?」

「いえ。四兄弟ですよ、ロザリー王妃殿下様」


 ——と。


「おやおや、これはロザリー王妃殿下。御機嫌よう」


 ニヤニヤ笑ったマーカーライトさんが、メグさんを連れて現れた。

 王妃が嫌そうに顔を顰めた。


 彼女って、マーカーライトさんが苦手なのかな。


「あなた、なんで王宮にいるの?」


 彼は皮肉な笑みを浮かべる。


「なんでも何も、王太子殿下の側付きになりましてね。アイアン家を追い出されたもので、働かないと食べていけないんですよ。なんでしたら、妃殿下の側付きに雇っていただけますか? 妃殿下とも在ろうお方が、なぜか、いつもお一人だ。貴女を思うと、不安で夜も眠れなくなりますよ」


 サンダー妃は眉根を寄せたまま、嫌そうに言う。

「心にも無いことを言わないで。側付きなんかいらないわ」


 マーカライトさんは、わざとらしく肩を竦めて見せた。


「貴女を思う甥っこの気持ちを汲んではくれないんですね? まったく、寂しい限りですよ。古い屋敷に一人ですと、どうにも気が滅入って来ますからね。ここは華やかだ。今日のお召し物も、まったく豪勢ですね? いったい僕の給料の何ヶ月分なんだろうな。その一部でも、僕に払ってみようって気になりませんかね?」


 シャインさんが、そっと私の手を引いて歩き出す。メグさんが、マーカライトさんの横に立って、さりげなく私たちを隠してくれた。


「もう! 煩いのよ、マーカライト!」


 サンダー妃のヒステリックな喚き声が聞こえる頃には、私とシャインさんは廊下を曲がっていた。


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