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シャインのマーカライトの申し出 64

 ボラの灰を有るだけの瓶に詰める。

 必要なのは、一人小さじ一杯程度だ。

 なんとかなるだろ。


 ジュリアはジンジャー神官に灰を飲ませに行った。

 神官は、なんでかジュリアを凄く気に入ってくれてる。

 彼女が進めれば、嫌がらずに飲んでくれるだろう。


「あとの事は魔法省に依頼しよう。この辺りの森を、一度キチンと精査した方がいいだろうから」


 マーカーライトは異論を唱えずに頷く。

 なんだろな、コイツが物分かりいいと逆に不安になるな。


 色の違う二つの目で、ジッと俺を見たマーカーライトは何でもないように言った。


「なぁ、俺をお前の側付きにしろよ。王太子付きの近衛兵長には、側付きが居ないだろ」


 こんな顔で頼みごとをされると断り難い。

 だけどな——そのせいで、学生時代にどんだけ面倒事に巻き込まれたか覚えてる。


「理由を言え」

「……理由ねぇ」


 奴は頭の後ろで手を組むと、仰け反るように天井を見上げた。


「気に入らないんだよ」

「お前は昔から気にらない事だらけだろ」


 そう言ったら、ゲラゲラ笑い出した。


「はははは。違いない。まったく、馴染みの奴ってのは面倒だな」

「面倒なのはお前だ。僕を煙に巻きたいわけじゃないだろ」


 マーカーライトは生真面目な表情になって声を落とした。


「俺は世捨て人みたいに見られてるが、これでも祖国を愛してる。祖父母や両親が愛した国だ。ボラはなんでこの森に居たんだ? 魔物が出るほど辺境じゃない。誰かが意図的に種子を巻いたんだろ?」


「それは調べないと分からない」

「まあ、そうだがな。俺は——もう少し安全な国に住みたい」


 彼の両親は彼が幼い頃、奇妙な病に侵されて相次いで亡くなった。当時から、あれは病いではなく呪い魔法なのではないかと噂されていたらしいが、確証は掴めなかったと聞いてる。


 安全——それを切実に願ってるのは、僕も同じだ。


「王弟ってのは俗物だ。アレでも義理の伯父だからな。よく知ってる。賢くも慈悲深くもない。自己顕示欲の奴隷だ。とても一国の王の器じゃない。奴が治めたら国が荒れる」


 僕は黙って森を見つめるマーカーライトの言葉を聞いてる。


「前にさ、お前の屋敷を張ってたことがある」

「モンテール家をか?」

「ああ。お前のとこ、ある時期に使用人を絞り込んだろ。囲いに使われてる魔法も強固にして、まるでシェルターみたいにしてた。少し気になってな」

「……敏い人間は面倒だな」


 彼はフッと皮肉な笑みを浮かべる。


「俺は暇人なんだよ」

「話だけ聞いてると忙しそうだけどな」

「そこそこはな。で、その時に見たよ」


 色の違う両目には、二つの感情が浮かんでるように思えた。


 気遣うような優しさと。

 利に徹した冷たい感情と。


「お前の家には王太子が保護されてるな」

「ああ。明らさまにしてないだけで、隠してるわけでもないからな。気づく人間は気づく」

「そうだな。彼の容姿は独特だ。ケイデンスの宝石、そのままにな」

「それが僕の側付きとどう関係するんだ?」


 彼は首の後ろから手を外し、前かがみになって小さく笑った。


「決意表明だな」


 僕は横目でマーカーライトを見て、軽く嘆息する。


「そういうのは勝手にやってくんないか? 僕を巻き込むなよ」


 奴はケラケラ笑った。


「バカ言え。モンテール家の次男が何言ってんだ。ノワールは魔法省の長官だってだけじゃない。国王付きの近衛兵で、近衛兵団の団長だ。あの男の性格を考えたら、命を投げ打っても王を守る。その上、王太子の保護者で、弟のお前は妖精眼だ。で、妖精眼が小鬼を嫁にするって? 着々と臨戦態勢になってるな」


 皮肉な笑みが僕の横顔に注がれる。

 なんだか、その視線にヒリヒリする。


「ジュリアのことは、そういうんじゃない」

「ああ、お前が惚れてんのは分かった。だが、周りはそれだけだとは思わないな」


 ——そうだろうな。

 僕だって、始めは彼女を魔法兵団に欲しかっただけだ。


「奴らは俺を侮ってる。家族を奪ったことで、俺の牙を抜いたつもりなんだ。王都の屋敷と幾らかの資産は、自分達が温情で与えてやったくらいに考えてる。侮られるのはムカつくが、利点も多い。俺は利用しやすい駒だぜ?」


 僕は大きく息を吸う。


 マーカーライトが国王側に肩入れしてくれれば、確かに心強いだろう。

 コイツは頭も切れるし、度胸もある。


 ——その気だというなら。


「いいだろう。だが、役立たずはいらないな。お前に何ができる」


 奴は真っ直ぐに僕の目を見返して、面白そうに笑った。


「いい目つきだな。お前はそうじゃないと面白くない。俺の力をフルに使うのは、俺じゃなくお前だ。俺を使って何をするか、考えるのはお前だよ、妖精眼のシャイン」


 僕は少し目を細めた。


「人に投げてんなよ。自分で頭を使わない奴はいらない」


 マーカーライトは嬉しそうに笑って、両手を軽く広げてみせた。


「適材適所ってヤツだ。俺は幻術にはちょっとした自信がある。ご存知のように魔法に耐性があってかかり難い。伯父が得意にしてる呪い魔法に対抗して、聖魔法を取得した。大変だったんだぜ? 適性があったわけじゃねぇからな。それでも、そこそこ使えるようになった。ああ、女性の扱いもお前よりはマシだな」


 軽くウィンクして両手を下げる。

 コイツのウィンクなんか嬉しくもなんとない。


「俺を利用しろ、シャイン」


 まったく。

 芝居掛かった男だよ。


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