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マーカーライトのプルパルの町 61

 散歩のような素振りでシャインと俺は町をぶらつく。

 まあ、黒眼鏡二人組みじゃあ、ガラが悪い事この上ないがな。


 町の大通りからは、荊の塔が見えた。


 石を積み重ねて作られ、明かり取りの窓しかなく、遠くからでも鉄格子がハマっているのが見える。まるで、見ている者を威嚇するかのような圧を感じさせる建物だ。


 プルパルみたいな田舎町に、なんだって、あんなもんを建てたのやら。いや、田舎町だから建てられたのか。貴族も住んでいなけりゃ、名士も住んでないからな。


「どうだ?」


 それとなくシャインに聞くと、奴は少し眉を顰めた。


「どう、と言えない。なんだろな」


 人は普通に往来を行き来してる。店も開いてるし、畑で働く人間だって見える。

 だが——。


「なんだか、白昼夢みたいだ」

「さすが、シャイン。その違和感に気づくもんな」

「褒めたって何もでないぞ。というか——」


 黒眼鏡を外し、淡い瞳を細めたシャインが首をひねる。


「魔法じゃない」

「——違うのか?」

「ああ、違うな。逆に気味が悪いくらい、魔法の軌跡が見えない。誰も彼も、全く魔法を使ってない」


 俺は足を止めて行き交う人を眺めた。

 もちろん、俺には魔法の軌跡は見えないさ。

 だが、肌で感じることはできる。


 魔法ってのは、そういうもので、シャインみたいに見る奴は希少だが、感じるだけの奴は結構いるんだ。


「……気づかなかった。どういうことだ?」


 妖精眼のシャインは、黒眼鏡を掛け直す。


「さぁ。調べてみないと分からんな」

「今回は小鬼ちゃんの出番なしか」

「まだ、それも分からない」


 シャインは酷く剣呑な雰囲気になる。


「こういう感じ、前にも体験してる気がするんだ。上手く思い出せないが、確かに似たようなケースを知ってる気がする。気がするだけだけどな」


 俺は、ただ頷いた。


 シャインというのは伯爵家の次男のくせに、一兵卒から成り上がった叩き上げに近い。ノワールが兄貴だったせいだろう。コイツはコネだと言われるのが我慢ならずに、自分から採用試験を受けて魔法省に入った。


 外見の優男ぶりに騙されがちだが、経験豊富で有能な兵士だ。そこは、風来坊の俺とは違う。信頼がおける人間だ。


「取り敢えず、日が暮れる。今日は戻ろう。明日はジンジャー神官の所へ行くんだろ?」

「ああ。そのつもりだ」


 別荘が近くなると、煙突から上がる煙が見えた。

 遠くからでも、窓の灯りに気持ちが安らぐ。


 俺は少し困ったような気分になる。

 人が待つ家になんか、もう随分と帰っていないからさ。


 扉の前に立ったシャインは黒眼鏡を外すと、パンパンと軽く自分の顔を叩いて首を回す。

 剣呑な雰囲気が消えていく。


 コイツは、こうやって、彼女の気持ちを守ってるのかもしれない。小鬼ちゃんが不安にならないようにさ。コイツの兄貴もそうだが、こういうとこは、敵わないなって思う。


 シャインが扉を開くと、中から明るい声が聞こえる。


「お帰りなさい!」

「ただいま」


 俺は、シャインの後ろについて家に入った。

 なんて言って入ればいいのか分からなかったからさ。

 そしたら——。


「マーカーライトさんも、お帰りなさい」


 小鬼ちゃんが、ニコッと笑って言うもんだから。


「あ、ああ。ただいま」


 なんだか、吊られるように答えてた。

 それに、ビックリしたのもある。


 印象は全く変わらないのに、部屋が綺麗に整ってた。


 テーブルクロスに皺がない、とか、曲がってたソファーカバーが真っ直ぐになってるとか、たぶん、そういうレベルの事なんだろうが——片付いて見える。


 台所からは美味しそうな匂いがして、彼女はシャインの上着を受け取りながら笑ってる。


「町って、どうでした?」

「なんかね。白昼夢みたいだったよ」

「白昼夢? ボンヤリしてるってことですか?」

「そうなんだよな。どういうんだか」


 そのままジャケットをハンガーに掛けると、ボンヤリ立ってた俺を見て手を出した。


「——え?」

「ジャケット下さい。皺になるから、ハンガーへ掛けます」

「あ……ああ」


 俺のジャケットを受け取った彼女は、なんでもないようにハンガーへ掛けると、シャインを振り向く。奴は椅子に座って彼女を見てた。


「おしぼり使いますか? 熱いやつ」

「うん。頼むよ」


 目を合わせた二人が微笑み合う。


 なんだろな。

 居心地が悪い。


 彼女は台所から、熱湯で絞ったんだろう、熱いおしぼりをシャインと、俺に差し出した。熱いおしぼりを目に当てたシャインは、ハァッっと息をつく。


 俺も真似してみたら、緊張が抜けてくような気持ち良さがあった。


「お食事にしますか?」

「そうだね」


 小鬼ちゃんは俺を見て、首を少し傾けた。


「え?」

「お食事にしていいですか?」

「あ、ああ」


 シャインが小さく喉の奥で笑った。

 今回はムカつきすらしない。


 俺は小声で奴に聞く。


「あの娘、どうなってんだ?」

「どう?」

「短時間で飯を作って、部屋をここまで整えるか?」

「ああ。ジュリアはメイドとして一流だよ。スーパーメイドと言えるね」

「なんでだ? 男爵家の令嬢だろ?」

「仕込まれたんだよ。彼女の乳母的人にね」


 ——人は見かけに寄らないってか。


 シャインは席を立つと、台所へ行く。


「ジュリア」

「はい」

「全部並べよう。給餌はいらないよ。どれを運べばいい?」

「そうですか? じゃあ、ここのお皿を全部と、そこのグラスをお願いします」


 俺は座りっぱなしで、なんとなく、立つタイミングを逃した。


 そんな俺の前に、シャインが小さく笑ってスープザラを置いてくれる。テーブルはすでにセットされてて、スプーンもナイフもフォークも揃ってる。中央には庭の花が飾ってあって、ランプの灯りで赤い花びらが燃えて見えた。


 魚とハーブのスープ。温野菜のサラダにチーズベースのソース。ロースト肉には甘辛いソースがかけられ、パンは薄切りにされている。俺にはワイン、シャインと自分には炭酸水を用意してあった。


 シャインが彼女にウィンクした。


「食べていいかな?」

「もちろんです。お召し上がり下さい」


 俺は思いがけない、まともな飯に戸惑ってた。

 ——と。


「マーカーライトさんも、どうぞ、お召し上がり下さい」


 小鬼ちゃんが不思議そうに俺を見る。


「ああ。その……頂きます」


 飯は美味かったし、デザートまで出て来た。

 本当に、なんだか、居心地が悪い。


ブックマーク(^ ^)ありがとございます。

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