マーカーライトのプルパル行き 60
仲が良いのは知ってたさ。
良いことだとも思うがね。
小鬼ちゃんにはシャインしか見えてないようだ。
「シャインさん。今回もホテルに泊まるんですか?」
「いや。マーカーライトがプルパルに別荘を持ってるそうだ。キッチンもついてるらしいから、ジュリアの作った物が食べられるな。けっこうな量の食材を持って来たんだろ?」
彼女はシャインの目を見て笑いながら頷く。
「ノワール様が良いって言ったからって、アンジュさんがイロイロと梱包してくれました。今回はノワール様の魔法で冷蔵箱も用意してくれたんですよ」
「兄貴はジュリアに甘いからなぁ」
「違います。シャインさんを思って用意してくれたんですよ。軌跡の見えない食事をさせたいっておっしゃってました。その方がシャインさん、元気だって」
シャインがふっと外へ視線をやって、彼女の肩を抱きながら外を指す。
「見てごらん、ジュリア。鷺がいる」
「あ、本当だ! 川が近いんですかね……あれ? 横にいる変なのは何ですか?」
「変なの? ああ、アレも鷺だよ。アオ鷺だ」
「え? 同じ種類の鳥? ヒゲのあるお爺さんみたいだけど」
「面白い例えをするね」
——なんかな。
思わず咳払いして自分を主張しちまう。
「……何だよ、マーカライト」
「お前ら、少しは俺を会話に混ぜようとか思わんのか? イチャイチャしやがって」
シャインは駄々っ子でも見るような目で見るし。
小鬼ちゃんは意味が分からないって顔で、思いついたようにポケットを探ったと思ったら。
「はい。マーカライトさん」
「なんだ?」
「飴です」
「ガキか、俺は」
「手持ち無沙汰な時でも、口に何か入ってると間持ちしますよ?」
そう言ってニッコリ笑う。
会話に混ぜようって気は微塵もないらしい。
「あーあー。好きにイチャついてろ。俺は寝る」
そう言って黒眼鏡をかけて腕を組んだら、シャインがククッと喉で笑った。ムカつく奴だな。小鬼ちゃんは気にもとめずにシャインに飴を進めてるし——なんだかんだ、この娘も大概だろ。
うたた寝して目が覚めたら、前の席で小鬼ちゃんが眠ってた。彼女はシャインの肩に頭を乗せて、安心しきった様子で寝息を立ててる。シャインときたら、大事そうに彼女の肩を抱いて小さな頭に自分の頬を乗せてた。
「……彼女も寝たのか?」
「ああ。昨日は準備で忙しくしてたみたいだしな」
「お前ら、結婚式はいつなんだ?」
「ツリッチャキの所が終わってからだよ。アイツが春に式を挙げるそうだから、夏頃になるかな」
——あぁ。そういや、アイツも結婚するんだよな。
「家庭持ちバッカリになるのかよ。やってらんねぇな」
「お前は?」
「相手がいねぇよ。ツリッチャキも、なんで先に彼女を俺へ紹介しないかね」
「アイツは妹思いだからな」
「相変わらず、口の減らない男だ」
ジュリアが少し眉を寄せたら、シャインが静かにしろと指を自分の唇に当てた。
——俺が煩いんじゃないぞ。
☆
俺がプルパルに持ってる別荘ってのは、あまり大きくない。祖母の療養の為に購入した物で、小ぢんまりとしている。ここに引っ込んだ頃の祖母は、もう歩けなくなっていた。家の中ならどこへでも、抱えて運べるように出入り口は広く直したんだよな。
パルプルへ着いたのは昼下がりだった。途中でジュリアの弁当を食ったけど、少し小腹の空く時間だ。腹が減ったなと思いながら、別荘に着いたからには働かなきゃならん。
シャインが荷物をせっせっと下ろし、ジュリアが持てる物から運び込む。
「マーカライトさん! お台所はどこですか?」
「入ってすぐの広間を右だ」
「荷物運びこんでいいでしょうか?」
「いいぞ」
小鬼ちゃんは薄紫のワンピース姿で、一本の三つ編みを後ろに垂らしたままだ。三つ編みが動きに合わせてゆれて、なんだか面白い。
「おい、無理すんな。運ぶから置いとけよ」
「大丈夫ですよ。このくらい、平気です」
「マーカーライト。これで全部だ」
「おう」
俺は門の外まで出て行って、御者に心付けを渡した。その間にシャインが台所の物を運んでやったらしく、戻ると二人は居間で待っていた。
「さて。部屋割りなんだがな……。ご覧の通り、小さな家だ。広間を除けば二部屋しかない。で、シャインと俺。小鬼ちゃんで使うか、シャインと小鬼ちゃん。俺で使うかだ。どうする?」
シャインが苦笑する。
「どうするも、こうするもない。僕とマーカライトだ」
「ふぅん? なら、あっちが俺とシャイン。そっちが小鬼ちゃんだな」
ジュリアがクルッと部屋を見回して目を瞬かせた。
「あの、ここって、お掃除したら怒られます?」
「怒られませんよ、お嬢さん」
シャインが荷物を持ちながら、彼女へ声をかける。
「ジュリア。荷物置いたらお茶入れてくれないか?」
「はい」
なんでか、頼んだシャインより頼まれた彼女の方が嬉しそうに笑った。
「お前と同じ部屋で寝泊まりか。寄宿舎を思い出すな」
「じゃあ、ベッドはお前が下で決まりだな」
「二段ベッドなわけないだろ。一人はベッド。もう一人はソファーベッドだ」
「コインで決めるか?」
「いいよ。お前がベッドを使え。一応は客だ」
玄関前の広間には、テーブルセットとソファーが置いてある。まあ、広間なんて名前ばかりで、ダイニングとしても居間としても使う。共有スペースって感じだ。
ワンピースにエプロンをした小鬼ちゃんが、さっそく台所で湯を沸かしてた。一つ一つの出入り口が広いから、そこに誰かが居ることがすぐ分かる。祖母は療養の時間の大半を、この居間にソファーベッドを置いて過ごしていた。
「お茶が入りましたよ」
ありがたい事に、お茶受けにマフィンが出て来た。
「嬉しいね。小腹が空いてたんだ」
「ふふ、このマフィンはルーランと一緒に焼いたんですよ」
「え? ルーラン?」
シャインが軽く目配せしてくる。
ああ、そうだったな。
彼女はあの子が王太子だって知らないんだ。
——にしても。
「男の子だろ? ……マフィンなんか焼くのか」
ジュリアが得意な顔して王太子を褒める。
「ルーランは凄く器用で、最近はお菓子作りにも興味を持って参加してくれるんです。自分で食べるパンケーキも焼くんですよ」
——王太子がねぇ。
しかも。
「美味いしいじゃないか」
ジュリアは破顔して頷く。
「でしょう? きっと、ルーランは良い旦那様になりますよ」
「……ジュリア。それは料理ができない僕に何か含んでるのか?」
「そうですね。簡単なお料理くらい、覚えておくと便利ですよ?」
「僕だってトーストくらい作れる」
シャインがムシャムシャとマフィンを頬張りながらムクれた。
コイツ——王太子にまで焼きもち焼くのか?
すでに末期症状だな。
「さてと、シャイン。茶を飲み終わったら、少し町を見て回らないか?」
「そうだな。様子を見に行ってみるか。ジュリアはここで夕飯の準備をしててくれ」
シャインに言われ、彼女は小さく頷く。
「結界を張って行くから、壁には触らないように」
「分かりました。あの……」
彼女はシャインの手に軽く触れ、小さく首を傾げた。
「気をつけて行って来てくださいね」
「ああ。君も気をつけて留守番しててくれよ? 知らない奴が来たら、玄関を開けちゃダメだからね」
「……はい」
——本当に、いつでも、どこでも、イチャつく奴らだ。




