表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/73

ジュリアのモンテール家の朝 6

 モンテール家に雇って頂いて、そろそろ十日はたったかという頃。


 メイドの仕事というのも様々で、メイド長の下で家のこと全般をする者もいれば、個人に着いてお世話をする者もいる。モンテール家では、メイド長はアンジュさんだけど家付きメイドは木偶が担っている。


 アンジュさんの木偶たちは、物凄くよく働く。

 台所仕事は勿論、各部屋の清掃から水回りまで、ほぼ全ての清掃を木偶たちがこなしている。


 木偶たちのエネルギー源はアンジュさんが注ぎ込む魔力だ。数日でアンジュさんの真似はできないと思い知らされたよ。私の狭い見識の中で、これだけの魔力量を持つメイドさんは見た事がないもの。


 アンジュさんの真似はできないけど、私は私のできる事をしていかなければ。

 個人付き特価型のメイドだって、きっと何処かに需要はあるよね?

 ……ね?


 シャインさん付き、というのがモンテール家における私の仕事なので、まずはシャインさんの日常と好みを覚えることが重要だ。シャインさんが心地よく過ごせるようにするのが私の任務だからね。


 彼の朝は思いの外に早い。

 七時には起床する。


 シャインさんの朝は濃いお茶から始まる。

 定番はミルクティーで甘めがお好みだ。


 食堂へ降りる前に自室でお茶を飲むので、煎れたてを彼の部屋へ運ぶのが最初の仕事となる。


 ノックをしたら返事は待たないで、そのまま部屋に入る。

 そうしてくれって言われてるから。


 眠ってたら起こして欲しいって言われてる。

 まぁ、だいたいは起きていらっしゃるけどね。


「おはようございます」

「……おはよう」


 それにしても、シャインさんは寝起きですら絵になる人だ。


 起き抜けのままで椅子に座っている事が多いんだけど、寝癖のついた髪でさえ柔らかそうに踊っていて、整った顔にかかっている姿は一枚絵のごとし。


 眠そうに目を細めてる事が多くて、パジャマにガウンでボンヤリしている姿には色香さえ漂うというありさまだ。素顔を平然と見られる人でないと、というのも分かるな。これに耐えられないと、彼のお世話はできないものなぁ。


 私が耐えられてるのも奇跡に近いかな。

 まあ、雲の上の人すぎるからね。

 お姿拝見は眼福ってことで終われる。


 それよりも、仕事、仕事。

 テーブルにお茶をセットして、カーテンを開ける。


「シャインさん。今日は雨模様ですよ」

「……春は雨が多いよな」

「そうですね。冷えるといけないので、長袖の肌着にして下さいね」

「ああ」

「着替えを手伝いますか?」

「いや。自分でできる」

「では、私は下がります」


 そのまま部屋を出てキッチンに降りて朝食の用意。

 朝は軽食が多いから楽なんだけどね。


 シャインさんは体つきに似合わず、甘いものがお好きらしい。

 パンケーキに蜂蜜、果物を少し。

 これも定番のメニューだ。


 食卓をセットし終わる頃に、当主であるノワール様が降りてくる。

 彼のお世話はパスカルさんかルーランの仕事なので、私は挨拶だけする。


「おはようございます」

「ああ」


 実際、ノワール様もキラキラしいお方だ。

 シャインさんとは方向が違うけれど、氷の美貌と称されるのも頷ける。


 早朝だというのに髪も服もキッチリ整っていて、お髭の一本も見当たらない。兄弟揃って色素が薄めなので、プラチナブロンドの髪は陽に透けて眩しい。瞳も淡い。シャインさんよりグレーに近く、ブルーグレーの淡い瞳は氷を連想させる。


 そんな御仁が優雅に椅子に腰掛け、長い足を組む姿には軽い威圧感すら感じる。

 まだお若いのに伯爵家当主の貫禄がにじみ出てる。

 その貫禄を兄にも少し分けて頂きたいくらい。


 パスカルさんが、香ばしいコーヒーを運んでくる。

 ノワール様はコーヒー党だ。


 実は私もコーヒー好き。

 朝の食卓は香ばしい匂いがするのでコーヒーを飲みたくなっちゃう。

 今は我慢。自分の食事の時にね。


  朝食の片付けをする前に、玄関まで行ってシャインさんに上着を渡す。今日は雨模様。春の雨は冷えることもあるから、シャインさんへ淡い藍色の薄手のスカーフを渡す。


「襟元だけでも温めて下さい」

「ああ、ありがと」


 ふっと横を見ると、ノワール様がシャインさんのスカーフを見ていた。ノワール様の襟元は少し寒そう。玄関横には帽子やマフラー、手袋などを入れてある細い物入れがある。私は小走りでそこへ行って、ノワール様の薄緑のスカーフを持って来た。


「ノワール様。もしお邪魔でなければ、襟元だけでも」


 そう言って差し出すと、ノワール様が微笑んでくれる。

 普段が無表情だから、微笑まれると破壊力が抜群だ。


「ありがとう、ジュリア」


 パスカルさんも眉を下げて褒めてくれた。

「よく気がつきましたね。確かに今朝は少し冷えますね。よい判断です」


 褒められて、少しご機嫌。

 私は満面の笑みで二人に頭を下げる。


「行ってらっしゃいませ」


 シャインさん達を送り出した後で、自分の食事をする。使用人の食事時間は決まっていないらしくて、各自が手の空いた時に食べてるみたい。洗い物は、その後でまとめてね。


 私は、よくルーランくんと一緒になる。 ルーランくんは朝が苦手らしくて、起きてもキッチンでボンヤリしてることが多い。よくアンジュさんにホットミルクを作ってもらってる。


 朝食はシャインさんに焼く時、一緒に焼いておいたパンケーキを食べるのが普通。ノワール様はパンに卵、果物少しが通常メニュー。だから、ルーランくんもそうかなって思ってたけど、彼はパンケーキが好きらしいので多めに焼いた分を一緒に食べる事が増えた。


「おはよう」

「ああ」

「パンケーキ食べますか?」

「食べる」


 朝の会話はこれだけ。


 彼は本当に無口で、黙々と食事をするんだけど、慣れてくると無言が心地いいのよね。朝は特に静かな少年と過ごすのは楽だから好き。たまにアンジュさんとバンタムさんと一緒になると、二人の食事量やお喋りに圧倒されちゃうからね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ