ジュリアのアメリアさんの災難4 51
とりあえず、彼はアメリアさんの後をついてくるという話なので、町中でぶつかってみようという話に落ち着いて、紅茶を堪能してマフィンを平らげ、既成事実を作るための買い物をすることになった。
「先日の顔合わせの時、ナイン家のメイドのリリアに聞いたんですけど」
「最近できた紅茶専門店ね。知ってるわ」
「良かった。好みに合わせたブレンドを作ってくれるらしくて」
彼女は私の腕をガッツリ掴んで笑った。
「シャイン兵長は紅茶好きですものね」
「ご存知ですか?」
「王宮の貴婦人方には有名ね。コーヒーのノワール様、紅茶のシャイン様って」
——ははは。
アメリアさんに連れられて入った紅茶店は、外出の目的を忘れそうになるくらい素敵だった。微妙に色や香りの異なる茶葉がたくさんあって、私はミルクティーに向く紅茶のブレンドと、フルーティーな紅茶ということで柑橘の香りをつけた紅茶と二種類購入した。
もう、ほくほく。
缶もすごく可愛らしいデザインで——。
アメリアさんも兄と父のために紅茶を買うということで、私は先にお店を出て待ってることにした。店内が混雑していたから。
そこで、さっき姿を確認した黒ずくめの男性が近寄って来るのに気づいた。
——これってチャンス?
ボンヤリして見えるようにフラッと彼の前に出た。
案の定ぶつかって。
「大丈夫か?」
思っていたよりずっと低く、深い声で言われた。
——この人、物凄く良い声。
一瞬、本気でボヤッとしてしまったくらい。
「すみません」
慌てたふりをして、彼の手に触れると強く握り返される。
——え?
「やっと会えたな」
「え?」
彼はそのまま私を店先から通りに引っ張ってゆく。
「あ、あの! 離して下さい!」
「暴れるな」
逃げようとする私の腰を捕まえると、そのまま担ぐようにして止めてあった馬車に押し込んだ。
——え? え? 何?
馬車の扉を閉めると、大きな声で御者に言う。
「やってくれ!」
「ちょ、待って、下ろして!」
「ジュリア嬢、落ち着け! 話がしたいだけだ」
「な、なんで私を知って」
店を飛び出して来たアメリアさんが何か叫んでるのが見えたけど、私を捕まえたままのマーカーライトさんは気にも止めてない。
馬車はどのくらい走ったんだろう。
町を離れ、郊外へ向かっているのは確かだ。
ずっと腰を掴まれてて、すごく居心地悪い。
「離してくれませんか? 逃げませんから」
「どうかな? 信用していいのか?」
「信用して下さい」
彼は私の腰から手を離すと、黒い眼鏡を取った。
右目と左目の色が違う。
薄紫の右目と金に近い茶色の左目。
——この人、ルーランも真っ青な美形じゃない。
量の多い黒髪に、端正な作りの顔、思いの外に肌の色が焼けてる。
妖精のようなルーランとは対照的だけど、彼は動物的な美しさに溢れてた。
「君がナイン家の小鬼だな?」
その端正な美形は、少し皮肉な笑みを浮かべて私を見る。
「小鬼じゃありません。ジュリア・フーロラ・ナインです」
「俺はマーカーライト・ホルス・アイアンだ」
手は離してくれたけど、すぐ隣に座ってて体温を感じるくらい近い。彼からはアメリアさんへのラブレターから香ったものと違う香りがした。もっと焦げたような、強い苦味に薔薇に似た花のような香りが混ざった、複雑な匂いがした。
「どこに行くんですか?」
「俺の住まい」
「……なんで?」
「話がしたいと言っただろ?」
「それで、拉致になるんですか?」
「モンテール家に申し入れたって、却下されるだけだからな」
この人、私がモンテール家で働いてるのを知ってるんだな。
「それとも、絵のモデルになってもらいたい、とでも言って欲しいか?」
「冗談はやめて下さい。絵のモデルなら、アメリアさんの方が向いてるでしょう」
「そうかな?」
「彼女の方が見栄えがいいですから」
彼は少し目を細めて、ふーんっと言って私の帽子を取った。
「ちょ、何するんですか!」
「帽子とって、髪を解けば、あんたの方が見栄えする」
「返して下さい。帽子!」
「聞いてたか? 髪を解いてくれ」
「嫌です!」
「俺に解いて欲しいのか?」
——なんで、こんな事になってんだろ。
私はムッとしながら髪を解いた。
触られるのは嫌だからね。
「いいでしょう? 帽子返して」
「ああ。その方がずっと綺麗だ」
そう言って、彼は不思議な笑みを浮かべると私の頭に帽子を被せた。
読んでくれる人がいるだけで嬉しいのに、評価もつけてもらうと舞い上がります。ありがとう! 思わず投稿数が増えるという現象に見舞われてしまってます。大丈夫か、私。




