表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/73

ジュリアのアメリアさんの災難3 50

 彼女はハンドバックから封筒の束を出してテーブルへ置いた。


「読んで見て」

「いいんですか?」

「そのつもりで持って来たのよ」


 手紙の束からは、ほんのり甘い油のような香りがした。

 香油を使って居る人なのかもしれないな。

 そして内容はというと——。


「熱烈なラブレターですね」

「……そうなのよ。それがね、花束と一緒に連日のように送られてくるの」

「アメリアさんが兄と婚約してる事を知らないんでしょうか?」

「いいえ。正気の彼なら知ってる筈なの」

「なるほど」


 このラブレターを書いてる彼は、正気ではないと。

 名前を見ると、マーカーライト・ホルス・アイアンとある。


 ……アイアン?


「あの、アイアン公爵家の方なんですか?」

「それが少し複雑なの。縁者ではあるけど、現公爵家とはあまり仲良くないのよね」


 ……公爵家に現と現じゃないものがあるんだろうか。

 私の疑問に気づいたアメリアさんが、微苦笑を浮かべる。


「今のアイアン公爵は、王弟でいらっしゃるでしょ? アイアン家の血筋ではないもの」

「はい。でも、奥様がアイアン家の方なのでは?」

「血筋ではあるのかしら? でも、直系ではないのよ」

「複雑ですね」


 アメリアさんが溜息混じりに紅茶に口をつける。


「それでね。アイアン家って国王殿下と関係が良くないでしょ? マーカーライトの立ち位置を確認するのが、私の任務だったのよ。それで、恋仲であるって幻術をかけて話を聞いたんだけど……」

「解けなくなってしまったと?」

「そうとしか思えないのよ」


 彼女は少し泣きそうな顔になった。


「マーカーライトって言う人もね、シャイン近衛兵長に負けずとも劣らぬ変人で。あ、ごめんなさい」

「大丈夫です。続けて下さい」

「悪い意味じゃないからね? えっと。マーカーライトは人嫌いで有名なの。アイアン公爵家の縁者というのもあって、資産家でね。今、仕事らしい仕事はしてないんじゃないかな。自称、絵描きだそうだけど」


 ……絵描き。


「確かに相当に変わった人に聞こえますね」

「でしょう? その彼が——私を付け回してるのよ」

「……え?」


 彼女の華奢な手が私の手を掴む。


「今も、居るわ」

「……え?」

「貴方の斜め後ろの席に座って、新聞を広げてる」


 すぐに振向こうと思って思いとどまった。

 今にも泣き出しそうなアメリアさんの様子から、危険なものを感じたから。


 私はハンドバックからコンパクトを掴み出して、髪型を確認する仕草で後ろの人を写す。


 ——本当だ。


 短い黒髪を撫で付けて、黒づくめの格好をした若い紳士が新聞を広げていた。シャインさんじゃないけど、黒い眼鏡をかけているので顔は確認できない。


「後ろめたい事なんかないんだけど、ツリッチャキに知られたくない。彼は真っ直ぐな人だもの、傷つけてしまうかもしれないし。それに、魔法兵団の仕事を説明するわけにいかないじゃない? 勘ぐられるのは悲しいわ」


 私は少し考え込む。


「シャインさんに見てもらうわけに行きませんか? 彼なら一目で魔法がどうなってるのか分かりますから」


 アメリアさんは困った顔で眉を下げた。


「彼はツリッチャキの友達じゃない? 知られたくないし。これって魔法兵団の一員としては大失態に入るの。隠密に事を進めなきゃいけないのに、派手な花束を連日送られたりして。婚約者の居る身でって、家の者からも冷たい目で見られるし」


 ——そうか。アメリアさん、兄貴に知られたくない気持ちが強いんだな。

 兄貴なら心配ないと思うけど。


 ああ、でも、マーカーライトさんをブン殴り兼ねないか。

 アメリアさんを、こんなふうに追い詰めちゃった男を許すわけないな。


「無理を言ってるのは分かってるんだけど。あの人が私を付け回すなんて、絶対に普通じゃない。……お願い。彼に触ってみてくれない? 本当に申し訳ないと思うわ。でも、私……」


 アメリアさんの目から小さな雫が溢れた。


「本音を言えば、すごく、怖い。あなたを巻き込んで申し訳ないと思うけど、魔法省を通すとタイムラグが起こる。もう、耐えられないの。すぐに終わらせたい」


 私はポケットからハンカチを出して、彼女の頬に当てた。


「分かりました」

「!! 本当? いいの?」

「でも、約束して下さいね。私が触れて、まだ付き纏われるようなら、必ずシャインさんと兄貴に相談するって」

「……分かった。約束するわ」


 魔法解除の小鬼と呼ばれても、恋の魔法だけは解けないからね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ