ジュリアのアメリアさんの災難2 49
次の日の朝、私はお茶を飲むシャインさんにお休みをお願いした。
「今日なんですけど、シャインさんを見送った後に、一日お休みを下さいませんか?」
「………いいけど、珍しいね?」
「急で申し訳ないんですが」
シャインさんはカップを両手で覆うようにしながら、私を少しだけ上目遣いで見た。いつもの椅子に座って足を上げ、膝を抱えるように座ってる。
最近になって思うの。
確かにシャインさんは、私といると安らぐのかもしれない。
だって、こんなに無防備なシャインさんを他では見たことないもの。
歳は上だし、能力も、容姿も、全部が上のシャインさんが、とても可愛く見える。
口には出さないけどね。
「昨日、アメリアさんが一緒にお買い物に行こうと誘って下さったので」
「ああ……彼女と出かけるのか」
本当は彼女の相談を受けるのが目的なんだけど。
——後生だから、他の人には言わないで。
彼女にそう頼まれてしまったので、シャインさんにも言えない。
買い物をしようっていうのは本当だし。
嘘をついてはいないけど、少し居心地悪いな。
シャインさんはカップを置いて立ち上がると、私の前に来て顔を覗き込む。
ああ、なんか、不審に思われてるかな。
彼は勘がすごくいいし。
「あのね、ジュリア」
「……はい」
「君は僕のメイドである前に、婚約者なんだからさ」
「……はい」
「休みをもらうのに、いちいち、そんなに申し訳なさそうにしないでいいんだよ?」
シャインさんは、そう言って私を抱きすくめると頬に軽くキスをする。
「あ……あの」
たぶん、私が赤くなってしまったからだろう。
彼は小さく笑って、機嫌良さそうに私の髪を撫でた。
「楽しんで来るといい」
「ありがとうございます」
彼は少し目を細めて続けた。
「ただし、気をつけて行ってくるんだよ? 町にはいろんな奴がいるんだから。粧し込むなって言いたいとこだけど、それは無理かな。なるべく目立たない服装で出かけて欲しい。知らない奴には絶対についてったりするなよ?」
この人、私を幾つだと思っているんだろうか。
少し過保護な気がするんだけど。
「………分かりました」
☆
シャインさんを送り出して、私は急いで夕飯の仕込みをしてから着替えた。
「……目立たない格好って」
タンスを開けてしばらく悩む。
いっそメイド服でとも思ったけど、それだとアメリアさんに悪いしね。
ミュートに持って行った濃紺のワンピースにしよう。
これなら派手じゃないからいいよね。
私は少し考えて、シャインさんに貰ったネックレスをつけた。
……飾りが少ないから。これくらい、いいよね。
鏡を見ながら、シャインさんが首につけてくれたのを思い出す。
ああ、なんか、顔がニヤけてるな、私。
でも、胸元にヒンヤリと冷たい銀の感触を感じると、彼が一緒に居てくれるみたいで安心する。
纏め上げてた髪を下ろして、首の横から一本三つ編みを垂らし、結び目に黒い細いリボンを結ぶ。今日は深めの帽子を被るから、これでいいかな。
帽子をメイド帽からグレーの秋冬用の帽子に替える。細いピンクのリボンが二重に回してあって可愛いし、鍔が広いから顔が見えにくくなる。目立たないでっていうシャインさんの要望もあるしさ。
「あ、そろそろ行かなきゃ」
濃いグレーで裾の長い襟付きマントを羽織って、これもグレーのバッグを掴んでバタバタとモンテール家を出る。出かける時に、庭にいたパスカルさんに声をかけたら。
「ジュリア。いくらお相手が女性でも、それでは味気無さすぎますね。あなたは若い娘さんなのだから」
彼は少し目を細めてから、側に咲いていた小さなピンクのバラを切って私の帽子に挿してくれた。
「いいでしょう。程よい感じに華やかになりました」
その言い方がパスカルさんらしくて、私は思わず笑ってしまう。
「ありがとうございます」
「気をつけて行ってらっしゃい」
☆
待ち合わせのお店はテラスもあるカフェ、お茶が美味しいのが売りだそうだけど、マフィンやサンドイッチなどの軽食も出すんだって。さすがアメリアさん、お洒落なお店を知ってるよね。
家族以外と待ち合わせなんてした事がないから、それだけで気分が高揚してる。
兄のフィアンセなんだから、準家族みたいなものだけどさ。
お店に行くと、テラスに座ってるアメリアさんを一目で発見できた。彼女は燃えるような赤毛の美人だから、目立つんだよね。
焦げ茶色のツーピースを着こなしてて、襟元のオレンジのスカーフがアクセントになってる。フンワリしたスカートの裾から茶色の編み上げブーツが見えた。
「お待たせしました、アメリアさん」
「待ってたわ、ジュリア」
彼女は艶やかに微笑んで、ウェイターに私の分の飲み物と軽食を発注してくれた。
「ジュリア。紅茶はミルクとレモン、どちらがお好き?」
「私はミルクティーで」
「ではミルクティーを一つとプレーンマフィン。あとレモンティーのお代わり」
「茶葉は如何しましょう。本日は質の良いアッサムが入っております」
「レモンティーはアッサム。ミルクティーに合うのはどれかしら?」
私は思わず横から口を出してしまう。
「ダージリンでお願いします」
ウェイターさんが愛想よく微笑んでくれる。
「畏まりました。マフィンにはジャムかクリームをおつけします。本日のジャムはプラムになっておりますが、いかが致しましょう」
アメリアさんが、どうするって視線で聞いてくれる。
どっちも捨てがたいけど……。
「クリームをお願いします」
「承りました」
注文が済んでホッとアメリアさんを見ると、彼女は口元を綻ばせた。
「ごめんね、呼びつけちゃって」
「いいえ。こういう待ち合わせって初めてで、面白いです」
「あら、近衛兵長とはデートしないの?」
こういう問いかけって、なんとなく気恥ずかしいな。
「同じ屋敷に住んでますから」
「あ、そうか。……そう言えば、彼には?」
「買い物に行ってくると言いました」
「ありがとう」
彼女は綺麗な自分の指先を見て、モジモジっと指を動かす。
「私さ、変な意味じゃないけど、シャインさんは苦手だから」
「え? そうなんですか?」
軽く瞬きをした彼女は、首を傾げる。
「彼は魔法の軌跡が見えるでしょ? いつ、どんな魔法を使ったか分かる人だもの。自分に強い魅了の魔法を使ってるとか、身体強化の魔法で血色を上げてるとか、ね? みんな分かっちゃう。それって、せっかく下着で補正したドレスの中身を見られてしまうような感じよ」
私は少しキョトンとしてしまう。
そうだった。
最近はモンテール家の人とばかり接してたから、自分が変わってるって忘れがちなのよね。
「私には分からない感覚ですね」
「変な意味じゃないからね? ただ、ほら。私が得意にしてるのが幻術魔法だっていうのもあるし」
「えっと、それって、どういう魔法なんですか?」
ここで、お茶とマフィンが運ばれて来て、紅茶の良い香りに包まれた。
「幻術っていうのはね。パターンは色々あるんだけど。そうだなぁ、白昼夢を見せるような感じ」
「夢ですか?」
「似た感じのものよ。感覚を操作して、幻の世界を見せるの」
「……なんか、すごいですね」
彼女は照れたように笑ったが、その後で大きなため息をついた。
「実はね、相談ってその事で。少し前に仕事で幻術をかけた人が居るんだけど。どうも……魔法にかかりっ放しになってるみたいなのよ」
「アメリアさんの魔法って、強力なんですね」
「………困ってるの」
眉を下げた彼女は、心の底から疲れた溜息を漏らした。
三連休なので、いつもより本数を多くあげてます。それにしても、寒い。ブックマーク、評価をありがとうございます(^^)心が温まります!




