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ジュリアの甘い朝 47

 今朝からはシャインさんもお城へ出勤。

 日常が戻ってくるね。


 私はメイド服に着替えてレース付きの帽子を被り、自分に気合を入れ直す。

 婚約することにはなったけど、仕事を辞めるとは言ってないもの。


 シャインさん付きのメイド仕事を辞めるつもりはない。

 冷静になれば、結婚したら独り身に戻らないなんて、誰にも断言できないじゃない。


 人生は何が起こるか分からないんだから。

 備えあれば憂いなしというもの。

 ノワール様が解雇しない限り、私はお給金をもらって貯金を作る!


 パンケーキを焼いてから、お茶のセットを持ってシャインさんの部屋へ向かった。


 彼はベッドから起きだして、椅子でボンヤリしてた。

 カーテンを開いて、お茶を煎れてシャインさんへ持っていく。


「おはようございます。だんだん、木の葉も色づいてきてますね」

「……うん」


 私が渡したお茶を受け取って、目をショボつかせながら啜る。

 こういう時って、本当に可愛いのよね。


「長袖の下着がいいかな。そろそろベストも必要ですね」

「……うん」


 メイドの仕事は、お仕えする方の滞りない日常だもの。

 季節の移ろいには気を使わなきゃね。

 風邪でも引かせたら大変だし。


「着替えを手伝いますか?」


 ボンヤリしてるシャインさんに聞くと、彼は紅茶をサイドテーブルに置いて頷く。


「手伝って」

「分かりました」


 パジャマを脱がせてシャツを着せて。


「下は自分で着替えるから、髪を結んでくれないか?」

「分かりました」


 私が立ち上がってブラシを取りに行こうとしたら、彼は腕を引っ張った。


「ジュリア」

「ダメ!」


 口付けしようとする彼の唇を手で塞ぐ。

 拗ねたような目で私を見たシャインさんは、軽く眉を上げた。


「……なんで?」

「シャインさん。約束はしましたが、私たちは、まだ正式には婚約すらしてません」

「すぐ正式になるけど?」

「今はなってません」

「固いな」

「常識です」


 そのままブラシを取りに行って、彼の柔らかな髪を梳く。


「キスしてくれないと目が覚めないんだけどな」

「熱いお茶をもう一杯飲みますか?」


 髪を首の後ろで纏めて結んで、ブラシを戻しに行ってる間に、彼はズボンを履き替えてた。


「では、私は朝食の準備に……」

「戻る前にキスして行ってくれ。額でいいから」


 椅子に座りなおした彼は、じっと甘えるような目で私を見る。


 ——もう。


 彼の前髪を上げて、そっと額に唇を寄せる。


 自分から唇を寄せるって、すごく恥ずかしい。

 私はたぶん真っ赤になってしまったに違いない。

 顔がすごく熱い。


 唇を離すとシャインさんも赤くなってて、目を瞬かせた。


「……自分で言っといてなんだけど。これって、けっこう照れるな」

「こっちは、もっと恥ずかしいですから!」


 私は速攻で彼の部屋を出て、扉の前で深呼吸する。


 まさか、こんな朝が続くの?

 ……私の心臓は婚約まで持つのかな。


 食堂に降りてきたシャインさんはいつも通りで、パンケーキをパク付きながらノワール様と仕事の話をしていた。


 今朝は窓を開かなかったけど、部屋の温度自体が下がってきてると思う。

 きっと外は秋の空気になってるんだろうな。


 軽く羽織る物があった方がいいかな?

 まだ襟元のスカーフだけでも大丈夫かな?


 シャインさんを玄関で見送る。

 上着を渡してスカーフを首にかける。


「秋めいてますから、きっと風が冷たいでしょう。暖かくして行って下さい」

「ああ、ありがとう」


 スカーフを上着の中に仕舞いながら、シャインさんが微笑む。

 カバンを渡して、玄関を出ていく彼を見送る。


「行ってらっしゃいませ」

「行ってくるよ」


 シャインさんの眼差しが私に注がれると、皮膚がザワッとするみたい。

 恥ずかしいような、嬉しいような、変な気持ちだわ。


 ——行ってらっしゃい。


 出ていく彼の背中に、心の中で、もう一度呟いた。


 食器を下げてキッチンに行くと、ルーランがホットミルクを飲んでた。


「お帰り、ジュリア」

「ただいま。留守の間はどうだった?」

「パンケーキを温めるのは上手くなった」


 私たちは目を合わせてクスクス笑った。


「でも、焼きたて食べたい」

「さっき焼いちゃったんだけど」

「冷凍よりは焼きたてだろ」


 少し焼き直してバターとハチミツをタップリ、最近は背が伸びてるルーランの為に茹で卵か、スクランブルエッグをつけてる。


「スクランブル?」

「スクランブル」

「あ、お土産あるんだ。後で渡すね」

「へぇ。ありがと。そういえば、ジュリア。シャインさんと婚約するって?」


 私はフライパンを落としそうになった。


「は、早耳だなぁ」

「パスカルさんが嬉しそうだった。早く子供がみたいってさ」


 ——やめて。

 本当にフライパンを落としそうになったじゃない。


 ルーランは面白そうに私を見ると。


「ま、良かったね。ジュリアはシャインさんが居ないとポンコツだから」

「どういう意味よ」

「言ったまんま」

「失礼だなぁ」


 彼の前に食事を置くと、嬉しそうに笑った。


「それに、ジュリアがここへ嫁ぐなら、毎朝パンケーキが食べられる」

「それはそうだね」

「売れ残ったら、僕がもらっても良かったんだけどね」

「そういう言い方はないじゃない」


 ルーランは少し真面目な顔で私を見た。


「本当にそう思ってた。まあ、僕じゃジュリアが困るだろうけど」

「ええ? 困らないよ? ルーランは綺麗な子だし、きっとすっごいハンサムになるもん」

「顔なの?」

「顔は大事じゃない?」


 彼は小さく笑った。


「確かに。シャインさん、顔が良いもんね」

「だよね? 本当に私でいいのかな」

「顔って話なら、どうかな」

「ルーラン、可愛くないわ」


 少し大人びてきた顔を綻ばせ、彼は笑って私を見た。


「ねぇ、お土産ってなに?」


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