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ジュリアの初めての土地ミュート1 37

 シャインさんがミュートは山間の町だって言ってたけど、私は初めて見る景色に感動してた。


 鬱蒼とした雑木林に覆われた山々、雲が山の頂上に掛かってる景色には目を見張る。小川も水量が豊富で、道幅は狭い場所が多い。山を拓いたのであろう畑がパッチワークみたいに山裾を彩る。


 王都は平地の広がる都市だから、こんなに山が近い場所に町が拓けてるって、すごい事のように感じた。


「シャインさん、シャインさん、凄いですね。こんな近くに崖が!」

「危ないから馬車から身を乗り出すんじゃない」

「だって——うわぁ。落ちたら死にますね」

「嬉しそうに言うなよ」

「あ、嶋! あれって嶋ですよね! 図鑑で見ました!」

「ジュリア。遠足じゃないんだからな」


 シャインさんが呆れた顔で私の腕を掴んでたけど。

 珍しいものバッカリでジッとしていられない。


 小隊が駐在してるっていうケイデンス軍の詰所は、そんな山道を通り過ぎた場所に在った。町の中心部からは、ずいぶんと離れてる。大きな山の麓で、馬以外にも鶏やヤギが飼育されてた。


 私達が馬車を降りると、ケイデンス軍の制服を着た男性が出迎えてくれた。日に焼けてて、大きな目が溢れそうな人だ。彼の軍服は見慣れない物だった。父はもっと派手な制服を着ているし、兄は騎馬隊なので少しデザインが違う。


「遠いところを、お疲れ様でした」

「ああ。体調が悪い奴らの具合はどうなんだ?」

「あまり状態は良くないですが、なんとか死者を出さずにやってます」


 その会話を聞いて、私は遊びに来たんじゃないことを思い出す。

 忘れてたわけじゃないんだよ。

 ただ、珍し過ぎて吹っ飛んでただけ。


 シャインさんは御者さんに心付を渡し、荷物を下ろすと私を振り返る。


「到着してすぐで悪いが、病人を見舞うよ」

「はい」


 迎えに出てくれた軍人さんが、私を珍しそうに見てから挨拶してくれた。


「遠いところを有難うございます。私は辺境警備隊隊長のバンズと申します」

「お勤めご苦労様です。私はジュリア・フローラ・ナインと申します」


 ノワールさんと同じくらいか、少し年上に見える男性は目を瞬く。


「ナイン? もしかして、大隊隊長のご息女ですか?」

「父をご存知ですか?」

「もちろんです。赤鬼大隊長は有名な方でして……」


 口ごもらなくてもいいわよ。

 こんな所にまで、あの噂なんだろうか。


「娘の小鬼です」

「いっ! いえ、いええいえ。あの大隊長のお嬢さんが、まさか、こんなに可愛らしい方とは、ええと」


 バンズさんは、シャインさんに助けを求めるような視線を送る。シャインさんは苦笑を浮かべて黒眼鏡を取った。


「彼女は僕の優秀な助手だよ。妖精眼と小鬼が組むと、良い結果が出せる。さ、案内してくれないか?」

「はい。こちらへ」


 案内された場所には、幾つものベッドが運び込まれていて、青白い顔した兵隊さん達が唸ってた。シャインさんが、少し眉根を寄せて大きく溜息をつく。


「酷いな。呪い魔法に間違いない。手の込んだ呪いだ。ずいぶん古いが、今も継続しているとはね。術者は判別できないな」

「……やはり、そうなんですね」

「バンズ隊長。回復魔法の使い手はいるか?」

「おります。何度も試しているんですが、彼らには回復が効かないようで」


 シャインさんは、私の手を取って微笑む。


「だから、彼女を連れて来たんだ。使えそうな魔法使いは、全員ここへ集めてくれ」

「……分かりました」


 バンズ隊長は怪訝そうだったけど、動きは迅速だった。

 シャインさんが私の手を軽く引っ張る。


「さて、片端から触ってくれ」

「……了解しました」


 私達はベッドを一つ一つ回って、臥せっている兵隊さんに触れていく。軽く手を触れたり、額に手を置いたりだ。


 ——大丈夫ですよ。すぐ良くなりますから。

 ——気持ち悪いですか? 吐き気が収まりますように。

 ——熱がありますね。あとでお水を飲みましょうね。


 途中で不安になって、シャインさんを振り返る。

「解除できてますか?」

「ああ。さすがジュリアだよ。君が触れた奴らは、全員が解除されてる」


 私は胸を撫で下ろしながら、次のベッドへ進む。


「シャイン兵長。回復魔法が使える奴らを揃えました」

「よし、廊下側のベッドからだ。回復させてけ」

「了解しました」


 数人の兵隊が魔法を使いだしてから、感嘆の声を漏らすのが聞こえた。


「なんでだ…ちゃんと魔法が効く」

「これなら、助けられる」

「良かったなぁ、おい。早く元気になれよ」


 全員に触れ終わると、シャインさんは私の頭をポンポンと叩いた。


「よくやった、ジュリア。君の体調に変化はないか?」

「大丈夫です」


 そのまま、しばらく私の頭を撫でて、シャインさんはバンズ隊長へ言う。


「で、問題の箱は?」


 まるで悪戯を見つかった子供のようにビクッと体を強張らせ、バンズさんは定まらない視線のまま、早口に喋り出した。


「……あ、それ。ええと、ああ。是非とも先にお休み頂きたいです。旅でお疲れでしょう? 例の物は、少し込み入った状態になってますので、お部屋の方でお話しします。ささ、こちらへどうぞ。お前ら、後は頼んだぞ」


 バンズさんの態度を見て、シャインさんが怪訝そうな視線を私に向ける。

 私は軽く肩を上げて見せただけ。


 だって、なんでバンズさんが慌ててるのか分からないから。



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