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シャインのジュリアと二人旅 2 36

 部屋は思ってたより綺麗だったし、広さもあった。


「疲れましたね。黙って座ってるって、思うより疲れる」

「……ああ」


 彼女は荷物を置くと、珍しそうに部屋を見て回る。


「着替えはハンガーに掛けられるんですね。あ、ちゃんとブラシもある。ランプも大きくて明るいですね。お湯が沸かせそう。後でお茶煎れましょうか。あぁ、シャワー室がある。私、シャワーって見るの初めてだ」


 楽しそうでいいけどさ。


「ジュリア。取り敢えず着替えたら? 食事に行くよ」

「あ、はい」


 ソファーにトランクを乗せた彼女は、ワンピースを出して——。


「ストップ! ストップだ、ジュリア。陰で着替えるんだろ。そこで脱ぐな!」

「あ、ご、ごめんなさい。シャインさんが兄と思えって言ったから」

「君はツリッチャキの前で着替えるのか?」

「最近はしないですけど、小さい頃はしょっちゅう」

「最近のバージョンでやってくれ!」

「すみません」


 ……疲れる。


「お食事は下の食堂ですか?」

「そうだよ。……ジュリア」

「はい?」

「着替えながら話すな。淑女らしくない」

「……シャインさん、兄貴より煩いですね」


 大きなお世話だ。

 喋りながら衣擦れの音を聞いてるコッチの身にもなれ。


「お待たせしました。これでいいですか?」


 彼女は薄紫の長袖のワンピースに着替え、三つ編みを結い直して細いリボンを巻いていた。腰の下の方に切り替えがあって、贅沢にシャーリングを寄せてるデザインだ。


 前に見たドレスワンピースとは違って、襟がキッチリしまってて喉元も隠れている。上品で清楚なデザインは、彼女にとても似合ってる。


「ああ、いいね。スミレの花みたいだ」

「ありがとうございます」


 彼女は少し照れたように赤くなった。


「さてと、行きますか」


 僕が肘を出すと、彼女は僕の腕に手をかけて嬉しそうに見上げた。


「実はお腹がペコペコです」

「途中で軽く食べただけだもんな」


 食堂の料理も、まあまあ、美味しかった。

 さすがにジュリアに触ってもらう訳にもいかないから、魔法の軌跡は消せなかったけど。代わりに、ジュリアのお喋りが聞けたからいい。


 旅に出てるっていう高揚感があるんだろう。

 彼女はいつもより、よく喋ってて、機嫌も良さそうだった。


 ☆


 食事を終えて部屋に戻り、僕は少し緊張する。


 ——問題はここからだな。


 ジュリアは全く警戒する様子がない。

 少しくらい意識して警戒して欲しいもんだが。


「美味しかったですね。どうしましょ、シャインさん、先にシャワーを浴びられますか?」

「……いや。君が先に使うといい」

「え? そうですか?」

「ああ」

「では、お言葉に甘えまして」


 彼女は不思議そうに僕を見たけれど、着替えを持つとシャワー室に向かった。


 ——どうするか。

 思わずシングルのベッドを見てしまう。


 いや。

 ないだろ。


 同じベッドに入ったら、何もしないで一夜を明かす自信はない。

 ソファーで寝るしかないよな。


 ベッドから毛布を引き抜いてソファーに置いておく。

 馬車で疲れてはいるけど、ジュリアよりは旅に慣れてる。

 ここでも眠れるだろう。


 黒眼鏡を外してるから、部屋の魔法の跡がハッキリ見えるけど、ジュリアが触れて回った場所は綺麗になってる。ソファーも彼女が座ったから魔法の跡はない。


「シャインさん。シャワー室が空きました」

「ああ」


 振り返って、ちょっと衝撃を受ける。


 解いた髪が濡れてるし、ネグリジェ的な物を一枚着てるだけだ。

 いや、これから寝るんだから当たり前だけど。


 ただ——こんな姿は初めてみるし。

 髪を解いて降ろしてるってだけでも妙に……くるものが。


 くそっ。

 本当にジムにはペナルティだ。


「入ってくる」

「行ってらっしゃい」


 一人でシャワーを浴びながら、頭がグルグルしてくる。


 あの娘は歳の割に男女ってものに疎すぎないか?

 自分が可愛い娘だって自覚がないんだよな。

 そりゃ、派手なタイプじゃないが。


 白い滑らかな肌をしてるし。

 頬とか柔らかそうで、唇はふっくらしてる。

 艶のある髪は真っ直ぐで綺麗だ。


 体のラインだって、少し細身だけど、そこがまたいいと……。


 ……ダメだ。


 たっぷり時間を掛けてシャワーを浴びた。

 一人きりになれる重要な時間だ。


 シャワーを出ると、ジュリアはソファーで眠ってた。

 髪もそのままで、白い足の指が毛布の端から覗いてる。


「……ジュリア、風邪を引くぞ」


 そばによって声をかけても、一向に目覚める気配はない。

 慣れない馬車の旅で疲れたんだろうな。


「それにしても、ここまで無防備だといっそ清々しいな」


 僕は溜息をついて、彼女を抱き上げてベッドへ運んだ。

 ランプの明かりにジュリアの寝顔が照らされる。


 手を伸ばして、指で彼女の唇に触れる。

 柔らかい唇を撫でて、僕はもう一度溜息をつく。


 ——こっちの気持ちも、少しは察して欲しいもんだ。


 布団を被せて額の髪を退け、おでこに軽いキスをした。

 このくらいなら、許されるだろ。


「おやすみ」


 ランプの灯りを落としてソファーに横になると、彼女の髪の香りが漂う。

 ハーブのような、スパイスのような、少し甘い香りだ。





 

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