表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/73

シャインのジュリアと二人旅 1 35

 北の町、ミュートへは一日では辿り着かない。

 そりゃあ、無理すれば行けるけど、女性連れでの強行軍は避けたいからね。


 僕らは途中の町で一泊して、二日かけてミュートを目指す。

 借り切りで付き合ってくれる馬車を手配して、早朝にモンテール家を出た。


「……で、ジュリア」

「はい?」

「なんでメイド服なんだ?」


 彼女は僕の前の席で、キョトンとした顔をする。


「男女が二人きりで旅してたら、勘ぐられますよね? 伯爵家の方とお付きメイドなら変じゃないかと」

「あのね。貴族の男がメイドを連れて二人旅なんかしてたら、メイドはソイツの愛人ってことで確定だろうな」


 彼女は、あらって言ってから笑った。

 ……笑うかな。


「そういう設定にしますか?」

「しない。ホテルに着いたら着替えて。君は僕の助手ってことになってるんだ」

「助手ですか、なるほど。そういう設定ですね」


 設定って何なんだよ。


「実際そうだろ。僕の仕事を手伝ってもらうんだから」

「了解しました。私は助手ですね」

「だから敬語も丁寧語もなしな」

「ええ? 近衛兵長様の方が助手より偉いでしょう?」

「今回は魔法省の仕事だ。面倒だから、気安く話そう」


 彼女は少し首を竦める。

「仰せのままに」

「ジュリア」

「では、兄に話すように話しますよ?」

「ああ。僕のことは、ツリッチャキみたいなもんだと思ってくれ」


 馬車の覗き窓から外を見た彼女は、小さく感嘆の声を上げた。


「あ、見て、シャインさん。すごく綺麗」

「……本当だ」


 川沿いを走る馬車からの眺めは、確かに幻想的だった。


 藍色から薄紫、淡いオレンジへとグラデーションを作る空を背景に、中洲の大きな木に止まった鳥達が起き始めてる。夜明けの薄明かりの中で、全ては黒いシルエットになっていた。枝の上に鈴なりになって身繕いをしたり、羽を広げて羽ばたく姿のものも見える。


「早起きも悪くないね」

「ですね」


 僕らは頭を寄せて、しばらく覗き窓を除いていた。

 彼女の髪から甘い匂いがする。

 たぶんオイルの香りなんだろうけど、好きな香りだな。


「長旅だからね。楽にするといい。眠くなったら、無理しないで寝なよ」

「はい。ありがとうございます」


 ジュリアはメイド帽を脱いで、肩にスカーフを巻くと襟元で結ぶ。纏め上げてた髪のピンを抜いて、三つ編みを胸元へ垂らし、頭を背もたれにくっ付けた。


 僕は黒眼鏡をかけて、そんな彼女を眺める。

 黒眼鏡は便利だよな。

 僕の視線がどこを向いてるかが隠せる。

 まあ、見るものは薄茶色に染まってしまうけどね。


 僕は腕を組んで、カバンから小さな本を出す彼女を眺めてる。

 こんな所にまで本を持って来たのか。


 ずっと、少し俯いて膝の上に置いた本を読むジュリアを眺めてた。

 少し伏せた瞼とか、頬にかかる柔らかそうな髪とか。

 思ってたより退屈しない。

 こんなに時間をかけて、彼女を見つめる機会は滅多にないからね。


 そのまま、しばらく馬車に揺られてるウチに、僕は眠ってしまったようだ。


「シャインさん、シャインさん」


 ジュリアに揺すり起こされて黒眼鏡をずらすと、彼女はすぐ目の前に顔を寄せてた。明るい茶色の目が近くて、少し戸惑う。


「馬を休めるそうですよ。人間も休憩です」

「……ああ」


 馬車を出て伸びをしたら、首がコキッと音を立てた。

 座ったまま眠ったからかな。


 太陽はすっかり登ってて、もうすぐ昼だという時刻。

 馬場の側に屋台が出ていたので、そこで食べ物を買うことにする。


「何を食べる?」

「宜しいんですか?」

「ジュリア。ツリッチャキにも、そう言う?」

「……私、揚げパンが食べたい」

「揚げパンね、他には?」

「飲み物も欲しいですね」

「あっちでレモネードを売ってるな」


 僕はソーセージとオニオンの酢漬けが挟まれたパンを、彼女は豆の粉を振った揚げパンを選び、他に味付きのチキンとレモネードを二つ買って、設えられたベンチで食べる。


「シャインさんのパン、私が一回持ってみましょうか? 軌跡が消えるかも」

「ああ、そうしてくれるかい」

「魔法の跡が消えますように」


 ジュリアはそう言って、僕のパンを両手で持って念を込めるように目を瞑った。

 ——なんか、可愛いな。


「どうでしょう?」

「あ……消えてる」


 凄いな、ジュリア。


「ありがとう」


 僕が礼を言うと、彼女は少し照れたように首を竦めた。

 それから手元のレモネードを見て首を捻る。


「でも、さすがに飲み物は無理だなぁ。直に触れないし」

「じゃあ、ジュリアが一口飲んだヤツと交換しよう。唇が触れたら消えるかもよ」

「飲みかけになっちゃいますよ?」

「構わないさ」


 彼女はピンクの唇を屋台のグラスにつけて、こくっと一口レモネードを飲んだ。あの唇が触れた飲み物ね。自分で言っといてなんだけど、少し照れるな。


「どうぞ。あ、私はこっちから飲んだから、そっちから飲んで下さいね」

「そんなの気にしないよ」

「気にして下さい。で、どうでしょう」

「お見事って感じだ」

「やった!」

「よし、食べよう」

「はい」


 並んで食事してると、周りを見回した彼女が聞いてくる。


「ここは、どの辺りなんですか?」

「キエムって町のあたりかな。ちょうど三分の一くらいの地点だ」

「へぇ。山が多いんですね?」

「木材が特産だ」

「ケイデンス王国にも、いろんな場所があるんだな」

「そうだね。ミュートも山合いの町だよ」

「楽しみだな」


 女性が旅をするのは珍しいからな。

 特にジュリアは屋敷から滅多に出なかったみたいだし。


「仕事だけど、楽しめる所は大いに楽しんだらいいさ」

「ふふ」

「なに?」

「私、シャインさんのそういう所、好きですよ」


 ジュリアはそう言って、コクっと首を傾げて笑った。

 そういうセリフを気軽に言わないで欲しいな。


 ……嬉しいじゃないか。


 少し休んだあと、僕らはまた馬車に揺られた。宿泊予定のメロリという町についたのは夕刻だった。御者に明朝の予定を伝え、僕らはホテルの受付へ。


「いらっしゃいませ」

「モンテールだけど。予約してるよね。部屋二つ」

「お待ち下さいませ」


 受付のホテルマンは、少し戸惑ったように僕を見上げた。


「モンテール様。ご予約は入っておりますが、お部屋はお一つですが?」

「……え? あいつ。二つ頼めっていったのに。ええと、空きの部屋はないかな?」

「今現在は……申し訳ございません。空き部屋はないようです」

「ない……か」


 僕の後ろからジュリアが覗き込んで言った。


「いいですよ、シャインさんと同じ部屋で」

「ジュリア。そういうことを簡単に言うなよ。仮にも嫁入り前の娘だろ」

「仕方ないじゃないですか。空いてないんでしょう?」

「着替えとかどうするんだ」

「陰に隠れれば平気じゃないかな」

「ベッドはどうすんだよ?」

「一緒じゃダメですか?」

「ダメに決まってるだろ!」


 一緒のベッドで寝る?

 僕の自制心を試そうって話か?


 ——くそ。

 ジムの奴、帰ったらペナルティをつけてやる。


 ホテルマンが困ったように僕を見た。

「如何いたしましょうか?」









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ