表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/73

シャインの二人の夜道 32

 そりゃ、可愛い娘だとは思ってたさ。

 けど——今夜のジュリアは反則なんじゃないだろうか。


 ベージュ色のドレスワンピースは、胸の下に切り替えがあって女性らしい。踝まで隠れるスカート部分は、タップリの布地でドレープが作ってあって、軽い布地が動く度にサラサラと揺れる。


 襟ぐりが広く開いたドレスで、首に巻かれたチョーカーが彼女の綺麗な首を強調する。結い上げられた髪から、柔らかそうな後れ毛が溢れてて。


 ……僕の送った帽子を被ってる。

 そりゃ、彼女に似合う物を選んだツモリだったけど。


 リボンが面白い形をしてて、後ろから見ると蝶が羽ばたいてるみたいに見える。彼女が動くと合わせて揺れるから、つい目がいって、そのまま彼女のうなじを見つめてしまう。


 馬車の中の仄かな明かりで、ジュリアの瞳が揺れて見えてる。

 細っそりした顎とか、柔らかそうな頬とか。

 艶のある唇が花びらみたいだ。


 おまけに、いつもより甘いパフュームが彼女の体臭に混ざって香る。


 ——僕の理性が揺らぐ。

 手を伸ばして、引き寄せたい。


 でも、本当にそうしたら。

 彼女はびっくりして逃げるんだろうな。


 焦れるような気持ちでジュリアを見つめたら、彼女は軽く目を伏せる。

 何かから逃れるみたいに話し出した彼女を、僕はずっと見つめ続けてた。


 レストランでは人が多かったし、ツリッチャキも婚約者のアメリアもいたから、そこまで気を取られないで済んでたのにさ。ツリッチャキの奴が余計なことを言うから——。


 レストランを出てアイツと並んで歩いてたら、急に首を捕まえて僕を引き寄せて小声になる。


「シャイン。俺はあんな妹は見たことがない」

「あんなって、何だよ」

「赤くなったり、口ごもったりさ。アイツ、お前のこと、ちゃんと意識してるじゃないか」

「……こっちは、それどころじゃない」

「バカ。押してけって言ってんだよ。アレは脈ありだ」

「本当かね」

「兄貴の俺が言うんだ。間違いない」


 なんてことを言うから。


 少しその気になって軽く肩を抱いた。

 嫌がられはしなかったけど、彼女は少し身を固くした。


 押してけって、どうすればいいんだ?

 とにかく、二人でいる時間を引き延ばすか?


「僕らはどうしようか? 馬車を拾ってくる? 月が明るいから散歩がてら歩いて帰る?」


 歩いて帰ろうって、なぜ言えないんだろうな。

 でも、今日は服装が違うし、あんまり歩きたくないかもしれないじゃないか。


 彼女はふいっと空を見上げると。


「そうですね。涼しいし、歩いて帰りましょう」


 そう言って微笑む。

 本当に、今夜の彼女は綺麗だな。


 僕は彼女の肩を離して、手を……繋いだ。

 ジュリアは不思議そうに繋いだ手を見つめる。


 軽口を叩きながら、その手を引いて歩き出すと彼女は黙ってついて来た。


「そうだ、シャインさん」

「ん?」

「アメリアさんて、魔法兵団の人なんですね」

「あぁ。気づいた? 彼女はね、幻術が得意なんだよ」

「そうなんですね」


 ジュリアは少し弾んだ声を出す。


「彼女も嫌がらないで私に触ってくれました」

「ああ。そうだね」


 アメリアくらいの魔法使いになると、解除されてもすぐに魔法をかけ直せる。呪文もいらない。僕の目には、彼女が使う魅了の魔法が何度も見えた。


 ま、それが普通だし。

 ツリッチャキがメロメロになってるのは、魅了のせいじゃなさそうだしな。


 黙っとこうか。

 ジュリアの機嫌がいいし。


「あんな人が兄の奥さんになるなんて、世の中は不思議だな」

「苦労したらしいよ。プレゼント攻撃して、ラブレターの山を作ったらしい」

「はは、兄貴らしいな。それが良かったんでしょうかね。私なら引きますけど」


 ……引くのか。

 そういうもんか。


「今夜のレストランも見栄を張ってたし。ふふ。面白い」

「面白いかい?」

「はい。身内の知らない一面を見た気がします。好きな女性の前で見栄を張るとか、兄も普通の男性なんだな」

「アイツは結構な見栄っ張りだろ? 君にだって見栄を張ってるよ」

「そうかな?」


 ジュリアを振り返ると、彼女は上目遣いで僕に微笑んだ。

 ——可愛いな。


 思わず僕も笑顔になる。


「兄貴面しないといけないからね」

「ははは、確かにそういう所はありますね」


 彼女の小さな手を引いてると、まあ、今のままでも悪くはないかと思える。僕らの歩く道の先には、月の光でできた二人の影が伸びてた。手を繋いでる影が——。


 今はこれくらいでいいかな。

 ジュリアに嫌われたくはないし。


 ゆっくり、ゆっくり。

 彼女の歩調に合わせて歩く。


 そんなのも楽しいよな。
















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ