ジュリアの兄の婚約者2 31
お食事はコースで運ばれてくるもので、一つ一つが美味しそうだった。
兄貴ってば、張り込んだな。
——でも。
「……」
私が手を止めてシャインさんのお皿を見てたので、彼は小さな声で聞いてきた。
「どうかした?」
「……さすがに、ここでシャインさんの食べ物に触るのはナシですよね」
私がそう言うと、彼はクスッと笑う。
「大丈夫だよ。別に味が変わるわけじゃないんだ」
「……そうですか?」
でも、魔法の軌跡にウンザリしながら食べてるんだよね。
私や兄が美味しく食べてる横で——。
「本音を言えば、ジュリアの作った物が食べたい」
「昼間、マフィンを焼きました」
「じゃあ、帰ったら、マフィンと君の煎れた紅茶を用意してくれるかな?」
「喜んで」
兄貴が私たちを見て不思議そうにする。
「何をコソコソ話してんだ? いかがわしいぞ」
「兄さんの言葉にはデリカシーがない」
アメリアさんが小さく笑った。
「仲が良いのね」
「……?」
「シャイン兵長とジュリアさん。お似合いだわ」
「え? このキラキラしいシャインさんとですか?」
「あら、ジュリアさんだってキラキラしてるわよ?」
「そ……そうですか?」
ヤダ、ちょっと恥ずかしいな。
なんか、顔が熱い。
——と。
兄貴が口をあんぐり開けて私を見た。
「お前、赤くなるなんて芸当をどこで覚えたんだ」
「バカ兄貴。人をお猿さんみたいに言わないで」
「似たようなもんだったろ?」
私が睨むと、兄は目を瞬かせる。
「いや……へぇ」
「何よ」
「幼い妹の成長に感動してんだよ」
アメリアさんが面白そうに兄を見た。
「幼いと思ってるのは家族だけね。ジュリアさんは素敵な女性じゃない」
「……そうかい? まあ、今日のドレスは似合ってるけど」
「誰がドレスの話をしてるのかしら?」
彼女は深い緑の優しい目で私に微笑む。
「本当よ。あなたと家族になれるなら、すごく嬉しいわ」
「や……こちらこそ」
なんて魅力的な人だろ。
本当に彼女が兄貴の婚約者なのかな?
☆
食事を終えて、レストランを出ながら私は少し嬉しくなった。
アメリアさんは素敵な人だし、兄は幸せそうだし。
記憶に残る夕食になったな。
兄とシャインさんが並んで歩きながら、何か話してる。
邪魔しちゃ悪いと思って、ゆっくり歩いてるとアメリアさんが腕を組んで来た。
「……えっと?」
「ここだけの話。あなたも魔法兵団だったのね」
囁くような小声がセクシーだわ。
「まだ成り立てのホヤホヤですし、ご存知のように魔法は使えませんけど」
「あら、魔法解除が出来るでしょ?」
「体質ですから、コントロール不可です」
「上手く使えばいいのよ。魔法解除は立派な魔法だもの」
ああ、そう言ってくれるんだ。
嬉しいな。
アメリアさんが小さく笑う。
「実は私ね、少しホッとしたの。嫁ぎ先に、この話が出来る人がいるなんて幸運ね」
——ああ。そうだよね。機密事項だし。夫にも言えないんだろうしね。
「そう言えば、アメリアさん。兄の何処が気に入ったんですか?」
そりゃ、兄貴は体格良いし、鍛えてるし、喋らなきゃ好青年だけど。
彼女は少し目を瞬いて、頬を染めた。
「上手く言えないかな。でも、強いて言えば、裏も表もないところ」
「……へぇ」
アメリアさんは頬を染めたまま笑った。
すごく、綺麗。
「私にも真っ直ぐだしね」
「なるほどなぁ。兄をよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
二人で顔を寄せ合って、ひそひそ話してたら。
「おい、ジュリア。俺の婚約者を取るなよ」
兄貴がそう言って私を睨む。
アメリアさんは、ふふっと笑って私を離れ、兄の腕に自分の腕を回した。
「今夜は楽しかったわ」
「私もです」
「シャイン兵長。ジュリアさんをよろしく」
アメリアさんの流し目に、シャインさんが軽く首を竦めた。
私はシャインさんの隣に歩いて行って、兄に向かって言っておく。
「兄さん。邪な気持ちになる前に、キチンと送るのが紳士だから」
「わかってるよ。というより、その言葉はお前の隣の男に言え」
私はキョトンとシャインさんを見上げる。
シャインさんに?
シャインさんは黒眼鏡だし、夜というのもあって表情が分からない。
でもね。
「シャインさんは紳士ですよ。兄貴と一緒にしないで」
「そうかい、そうかい。まあ、いいや。シャイン、しっかり送ってやってくれ」
「ああ。言われなくてもな」
シャインさんは、そう言って私の肩を軽く抱いた。
えっと……。
これって、エスコートの一部?
兄貴達を見送った後で、シャインさんが軽く息を吐いて黒眼鏡を外す。
「さて、僕らはどうする? 馬車を捕まえようか? それとも、月が明るいから散歩がてら歩いて帰る?」
町からモンテール家までは、歩いても半刻くらいかな。
私は空を見上げてみる。
晩夏の星空は綺麗で、シャインさんの言うように月が煌々としてる。
昼間の熱気は影を潜めていて、涼しい夜風が吹き抜けた。
「涼しいですし、歩きましょうか」
「お好みのままに」
彼は私の肩から手を退けると、少し迷ったみたいに目を瞬かせて手を繋いだ。
——えっと。
「疲れたら言ってくれ。君くらいなら、抱いて帰れる」
「また、そう言う冗談を」
「冗談ではないけどね。慣れない靴だろ? それとも、僕を非力な男だと思ってる?」
「思ってません」
「よし、じゃ、行こうか」
彼は私の手を軽く引いて歩き出す。
この手は、やっぱり子供扱いかな?




