ジュリアのシャインさんの出張 2 24
いつも通りに目が覚めて、支度を整えて台所へ行ったけど。
今朝はお茶の用意はしなくていい。
「……パンケーキ焼いとこう」
シャインさんは居ないけど、自分とルーランの分があるし。
メレンゲを作って、卵黄と粉と重曹と少しのバニラ。
お砂糖とバターと蜂蜜。
今頃は馬車の中なのかな。
シャインさん、朝ご飯はどうするんだろ。
どこかで……魔法の軌跡が見える食事をするのかな。
「おや。もう少し眠ってても良かったんだよ? 今日から休みだろ?」
アンジュさんが面白そうに私を見る。
「なんだか落ち着かなくて。それに、今日はまだシャインさんのお部屋の掃除もあるので」
「あんたってば、貧乏性だね。休める時には休むもんだよ」
「はは。まったくです」
貧乏性……確かになぁ。
パンケーキを焼きながら、木偶達に魔法を注ぎ、忙しそうに働きだすアンジュさんを見てる。
何か手伝いたい気はするけど、私が触ると魔法が解除されるし。
邪魔にならないようにしてないと。
「アンジュ。ノワール様が降りていらっしゃいます。おや、ジュリア」
「おはようございます。パスカルさん」
「おはよう。朝食ですか?」
「えっと、はい」
パスカルさんは小さく眉を揺らし、台所に入って来てノワール様のコーヒーを煎れ出す。
「あの、私、やりましょうか?」
「いいえ。今日は私が煎れましょう。ジュリアは休みだと聞いています」
——なんか、落ち着かないなぁ。
忙しく立ち働く二人が台所を出て、木偶たちが無言で作業を進めるのをジッと見てた。
と、ボンヤリしたルーランが台所に入って来て私の前に座る。
「おはよ、ルーラン」
「おはよう」
「パンケーキ、食べる?」
「食べる」
やっと私にも出来ることがあって、少しホッとしながら彼の前にホッケケーキを置くと。
「ジュリア」
「なに?」
「……焼き過ぎじゃない?」
山盛りのパンケーキ。
だって、手の流れでシャインさんの分も作っちゃったんだもん。
「いいの。余ったらお昼に食べるの」
「自分のなら、いいけど」
「ミルク飲む?」
「ああ」
小鍋でミルクを沸かしてると、紅茶の缶が目に入った。
ダージリンはシャインさんの好きな銘柄。
アールグレイやアッサムもあるんだけどね。
やっぱり、ミルクティーにはダージリンだって笑ってた。
「!! ジュリア!」
「え?」
「ミルクが噴いてる!」
「あ!」
いけない。
ボンヤリしてた。
すっかり目が覚めた顔のルーランが私を見つめる。
「ジュリア。大丈夫? 火傷してない?」
「大丈夫……ごめんね」
「いいけど、気をつけて」
「うん」
なんだか、調子が出ない朝だなぁ。
☆
シャインさんのお部屋でシーツを替え、洗濯物を持って洗濯室に行く。
今日はルーランはいないみたい。
洗濯を終えて、シャインさんのお部屋を掃除する。
窓を開いて、掃き掃除と、拭き掃除と。
ベッドメイキングしてると、シャインさんの残り香がした。
「……」
なんだか、ため息が出る。
なんなんだろ。
お昼を食べに台所へ降りると、アンジュさんが笑った。
「ジュリア。冴えない顔してるね?」
「はぁ。なんだか、気が抜けてるみたいで」
彼女は少し面白そうに微笑む。
「ああ、いい豚の骨が手に入ったんで、骨髄を絞るよ。ジュリアも使うだろ?」
——骨髄、あ、ゼラチン!
「はい。使います!」
「良い返事だ。何度か濾さなきゃならないし、出来上がりは明日だよ」
「はい」
やった。
これで、また、マシュマロが作れる。
スープをゼリー寄せにして冷やしておくのもいいな。
最近は暑いから、シャインさんが喜ぶかも。
——と。
居ないんだった。
今日も、明日も。
明後日の帰りも何時になるか分からない。
冷蔵室に入れて置けば持つかな?
食べさせてあげたいな。
今頃、何処にいるんだろ。
まだ馬車の中かな。
ふいに腕を叩かれてビックリする。
アンジュさんが呆れたような、笑ってるような、不思議な顔で私を見てた。
「……あ、あの」
「ジュリア。あんた、どっかに飛んでたよ」
「飛んで?」
「心ここに在らずってね」
「す、すみません」
「いいさ。おおかた、南の方へ飛んでたんだろ?」
——あっ。
私は自分の顔が熱くなってくのを感じた。
彼女は優しい目で私を見る。
「そういう時はね。その人の事を考えながら、その人に関わる事をするのさ」
「え?」
「そうさね。ああ、良いことを思いついたよ。屋根裏を掃除しておくれ」
「屋根裏ですか?」
「そう。あそこはね、物置になっちまってるから滅多に掃除しないんだ。埃が積もってるかもしれない。坊ちゃん達が子供の時に使ってた物とか、ご両親の思い出の品とかがしまってある」
……子供の頃の。
「急ぐような仕事じゃない。時間をかけて構わないよ。明日まで掛かったっていい」
「はい。ありがとうございます。やる事ある方が落ち着きます」
「ふふ、初々しいねぇ。あたしも若い頃を思い出すね」
「へ?」
アンジュさんはバチンとウィンクして笑った。
なんか、すごく、勘違いされてる気がするんだけど。




