シャインのくどくってどうするんだ? 2 22
いったい、コイツはいつまで硬直してる気なんだ。
そんな目で見られ続けたら、僕だって居心地が悪いじゃないか。
「ツリッチャキ。答えてくれよ。兄のお前にしか聞けないんだ」
「……………本気か?」
「本気だ」
彼はタップリ時間を取ってから答えた。
「俺にも、そういう心算が無かったわけじゃない。お前がアイツを気に入ればいいなって、確かに思ってたけどな。まさか、本当に気にいるとは……。で、ジュリアのどこが気に入ったんだ?」
——ジュリアのどこが?
良い所はたくさんある筈なのに、改めて問われると言葉が出ない。
どれもこれも、上っ面を褒めてるようにしか思えなくて。
彼女の可愛らしい笑顔とか、仕草とか。
今朝みたいに、真っ赤になって、少しムクれたような顔も好きだし。
仕事に真面目に取り組む姿勢とか、彼女の煎れる美味しいお茶とか。
「あー。分かった。分かったから、そんなに真っ赤にならんでくれ。お前のそんな姿を拝めるとは思わなかったぜ。貴婦人方を良いように煙に巻くお前がな」
ツリッチャキは呆れたように僕を見た。
僕の顔は、そんなに赤いのか?
——まあいい。
肝要なのは、どうやったらジュリアに好意を持ってもらえるかだ。
「で、どうすればいい?」
「分からん」
「………は?」
友人は軽く首を竦める。
「実際な、アイツの好みは謎だ。お前の所へ頼む前だって、何度か友人を会わせてみたんだ。親父が煩いし、気の進まない男に嫁がせたくないからな。だけど、アイツは顔が良くても、剣が強くても、性格が良くても、全員に同じような態度しか取らなかった」
先に会わせた男ってのが気になるが、今はそういう場合じゃない。
「同じ態度って?」
「ウチのメイド長、ビビに仕込まれた態度だよ。控えめで出過ぎない、当たりは柔らかいが、それだけだ。関心がない時の態度さ」
僕は軽く頭痛がしてきた。
「モンテール家にいる時も、そんな感じだ。もう少し、打ち解けてるとは思うけど」
「ああ。メイドとしてはプロ並みに仕上がってるだろ」
「全く文句のつけようもない」
彼は小さく嘆息する。
「お前の顔を見れば、女ならヨロメクと思ったんだけどな」
「失礼なこと言ってないか?」
「いや、マジだよ。まさか、綺麗な御尊顔ですけど、と、くるとはな」
「望み薄いみたいに言うなよ」
思わず口を尖らせた僕を、ツリッチャキが面白そうに見る。
「お前も男だったんだな」
「おい」
「分かんないんだから、普通に口説いてみるしかないだろ」
「普通って?」
彼は僕の肩を抱いて引き寄せると、小声で女性指南を始めた。
「女ってのはな。側にいて楽しませてくれる男に弱い。いつも側に居て、なるべく笑わせるんだ。あとは、押しだ。強引な男にも弱いからな。押して、押して、押し捲ってみろ。飲み屋の女なら、これで一発だ」
どういう神経してたら、自分の妹を飲み屋の女性と一緒にするんだ?
「あの類の女性は、金をばらまく男が一番好きだろ」
「分かってるじゃん。金を使えばいいんじゃないか?」
「お前に聞いた僕が馬鹿だったよ」
「酷ぇな。真面目に答えてるのに」
彼は僕の肩を離すと、眉間にシワを寄せる。
「あとは貴金属? ブレスレットとか、ブローチとか」
「お前、どんだけ飲み屋の女性につぎ込んだんだ?」
「違うよ。贈り物をしたのは、婚約者だ」
「……!! 婚約? お前、いつのまに」
ツリッチャキは、それこそ真っ赤になった。
「いや。つい最近に決まったことで、まだ正式な手続きが終わってないんだがな」
「誰だよ。次期ナイン男爵夫人は」
「大隊の医療班に所属してる……アメリア・アンジュ・ナーブ」
「ナーブ男爵家の御息女か?」
「ああ。ナーブ家の長女だよ」
僕は少し目眩を覚えた。
コイツが口に出した女性は、魔法兵団の一人だ。
幻術魔法が得意で、赤毛の魔女の異名を持ってる。
「一目惚れでさ。白衣の天使っていうの? 彼女に怪我を治療してもらって、お礼にプレゼント送りまくった。ラブレターも二桁は送ったんだぜ。ここに来て、やっと、その、デートらしきものを承諾してくれて。婚約までたどり着くのに半年以上はかかったな」
……まあ、異名は異名だ。
アメリア自身は、職務に忠実で仕事に誇りを持つ立派な職業婦人だしな。
「ジュリアは知ってるのか?」
「まだ知らないよ。アイツは家に居ないしな」
「そう。まあ、僕の口から言うのは止めとくよ。お前が自分で報告してやってくれ」
「そうするよ。未来の義姉だしな」
ツリッチャキは自分で言って、さらに赤くなってる。
もう、好きにしてくれよ。
「時間取らせて悪かった。まあ、それなりに、参考になったよ。で、今の話だけど」
「分かってるよ。ジュリアには黙っとく。まあ、頑張れ、未来の弟」
「——そういうこと言ってると、殺すよ?」
「怖ぇな。でも、あれだろ? お前のとこ、兄貴もジュリアに心酔してるだろ?」
「知ってるのか?」
「親父から話を聞いたって言ったろ」
——ああ。
普通にあの話を聞いたら、気付くよな。
「兄貴には、僕の気持ちは話してあるよ」
「シャイン」
ツリッチャキは、ちょっと困ったような顔で眉を寄せた。
「恋心ってのは、こうだから、ああって決まるもんじゃないぜ」
「どういう意味だ?」
「お前の兄貴だって、ジュリアの気持ち一つで、立ち位置が変わるだろ?」
——痛い所を突くんだな。
それはそうだ。
僕や兄貴の気持ちより前に、ジュリアの気持ちが大切だ。
「だからな、あんまり悠長に構えないで押してけ。俺はお前を応援してるから」
「押し方が分かんないんだよ」
ツリッチャキは、底抜けに明るい笑顔で言った。
「心から出た行動や言葉なら、アイツはちゃんと受け止めるさ」
僕は少し眩しい気持ちで友人を見た。
そうなんだよな。
コイツのこういう所が、僕にはなくて、友達やってんだ。




