第六節 戦端
「偵察部隊が戻って参りました」
「うむ、敵状を知らせい」
「されば、韓兵およそ三千、我が軍の前方二十里に位置し、こちらに向ってきており申す」
「うむ……兵種は?」
「歩兵二千の後ろに弓兵千でございます。歩兵、弓兵ともに、五百ずつの隊が二列縦隊で進んでおります。又、その速さは普通に歩く速さであります」
「他には?」
「別働隊として馬兵千、歩兵の左およそ十里の距離を保ってこちらに向っております」
「敵右翼はどうだ?」
「右翼には敵兵を認めず」
「なるほど……我らが川を渡りきったところを図って大軍で川に突き落とそう、と狙うておるか……更に、川を背に抗うておるところを、我が右翼から馬兵に突撃されれば……」
「我が兵は総崩れになることでありましょう」
「されば、渡河は中止じゃ。川の手前に陣を張り、逆に敵の渡河を狙って矢戦をしかける」
「馬兵はどのように? 恐らく敵は、我らが川の手前で陣を張っていると知らば長躯迂回、川の上流で渡河して我が方に攻めて参りましょう」
「そなたの申す通りではあるが、いずれ矢を交わさねば韓兵の強さも知れぬ」
「されど……」
「さよう……されば、五里ほど戻ったところに丘があったであろう」
「先に兵を休ませた丘でありますか」
「うむ。あの丘ならば右手と後背は崖と川で塞がれておるゆえ守り易い。また左手は林ゆえ、敵馬兵も自由が効くまい。さらには水も沸くゆえ、しばらくは籠ることも叶う」
「仰せの通り、あの丘であらば守り易かろうとは存じますが……されど敵は大軍なれば丘そのものを囲まれ、いずれ我が兵は退路を失いましょう。韓の地にて籠るは我が利薄しと」
「その通りじゃ。されど敵は馬兵だけでも千と申す。例えここから撤退しようと、いずれすぐ追いつかれるであろう。されば一戦し、敵の隙を見て脱する方がよいのではないか?」
「分かり申した……」
「それに……儂らが籠ってうちに魏国が援軍を出さば、韓兵も戦略的意義を失うであろう。魏兵が後から迫っておるとせば、我らを追うは却って利少なし」
「仰せの通りで」
「されば、まずは荷駄隊を先行させる」
「荷駄隊を……」
「荷駄隊は進みが遅いゆえ、いざ丘まで後退の際、敵に追いつかれ易かろう」
「されば先に退かせる、と……」
「それだけではない。荷駄隊には先に丘に参り、車を用いて盾を設ける」
「狗邪国の長から頂いた車でありますか……あれは荷を運ぶに易く、まこと倭国にはないものでありますが」
「うむ。その車じゃが、荷を降ろして倒せば戦場における盾となろう。丘の上り口に車を立てれば、敵の矢を防ぎ、馬の突撃を妨げる盾となるであろう」
「なるほど……」
「いわば、防御陣地の構築じゃ。無論、長く保つものではあるまいが、魏国の援軍が来る、あるいは迫っていると韓兵に思わせるまでくらいの時は稼げるであろう」
「さらば、急ぎ荷駄隊には丘まで戻り、陣地を構築させましょう」
「うむ。あとは敵の馬兵の動きが気になる。いずれ川の上流から渡河して参ることではあろうが、敵の馬兵の未だ来たらざるに歩兵のみ認めるの時に矢を交わすが望ましい。されば、今一度我が馬兵を出して敵の動きを偵知せよ」
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「なるほど……倭軍は川の前で停止しおった、と。敵もまるきり馬鹿ではない、ということか……されど、退く様子はないのじゃな?」
「はっ、そのようで……恐らくは、逆に我が渡河を狙って攻撃をしかけるつもりでありましょうが、数は我が軍が圧倒的に有利」
「敵は五百と申したか? とうてい守りきれるものではあるまいが……敵将は一体何を考えておる?」
「恐らくは威力偵察か、と」
「一線して我が軍の戦を学ぶ、か……さらば我が軍の情報を持ち帰らせるわけにはいかぬ」
「承知」
「あの川は、上流二十里ほど遡れば、騎兵が渡河できる瀬があったのう」
「仰せの通り」
「さらば、左翼の馬兵に伝令を出せ。馬兵は川を遡り、渡河した後、敵右翼を急襲せよ」
「承知っ! して、本隊はいかがいたしましょう」
「とりあえずは川まで進軍し、川を挟んで倭軍と対する。敵が撤退するならその背後を襲えばよい。騎兵が急襲せば敵の乱れに乗じてこちらが渡河攻撃を敢行する。敵は五百、こちらは三千じゃ。恐れることはないであろう。よいか、敵の一兵も生きて返すなよ」
「承知つかまつりました」
「では全軍、進撃!」




