第三節 上陸
「みな、聞いて欲しい」
「そろそろ韓国に上陸する。上陸した後の我らの動きについて、改めて確かめておく」
「はっ!」
「まず、我らは韓国の南端にある邑に上陸する。ナシメ殿の話によらば、その邑には倭人が多く住むという。まずはこの倭人を調略する。邑の長から韓国の地形、邑の位置と兵の配置、その他の情報を得ること叶わば、後に利となろう。さらば、邑の長とは、儂が直に話をする」
「はっ」
「次に、フツ殿」
「はっ!」
「そなたは馬にて長躯、帯方郡にある張政殿に我らの上陸を報せるとともに、女王より預かりし文書をお渡しせよ。文書には援軍の要請が記されておる。親魏倭王の印も徴されてあらば、張政殿も無碍にはできぬであろう。合わせて、張政殿の持つ韓国に関する情報を入手せよ」
「分かり申した」
「邑の長との話が終わらば、我らも進軍する。長や張政殿の情報だけでなく、韓国の地形、地勢を自らの目で見、自らの足で進むことによって初めて分かることもあろう。願わくば敵と遭遇することなく韓国の絵図を作りたいものじゃが……」
「恐らくは……」
「うむ。叶う限りこちらの損害を減らしつつ敵の戦ぶりを見届けたいものじゃな。まぁ、そのための援軍要請でもある。例え韓国の兵が我らを迎え撃とうとも、背後から魏国の兵が迫らば、敵もそちらに兵を回せねばならぬであろう。それゆえフツ殿、我らの行く末はそなたの遣いにかかっていると言えよう。心してかかって欲しい」
「はっ! 張政殿に急ぎ知らせ、また、必ずや援軍をお願いして参ります」
「また、ムナカタ殿には、みなの上陸後も船に残っていてもらいたい」
「それは構いませぬが……我が主フミ様よりはタケ殿のお役に立つよう言われております。されば、我らも連れて行ってもらいとう……」
「うむ、ムナカタ殿のまごころ、礼を申す。されど、船に残って頂くには他に考えがあってのゆえ」
「お考えが……?」
「恐らく我らは、上陸直後から敵に偵知されることになり申そう。されば、我ら五百の兵では韓兵には抗うこと能わず、いずれは急ぎ撤退することになるであろう。しからば、いつでも敗兵をまとめ倭国に戻れるよう、ムナカタ殿には予め船を用意しておいて欲しいのじゃ」
「分かり申した。されどそのようなことには……」
「うむ、叶う限り敵に悟られぬようにありたいものじゃ」
「それと……すぐに戻るとなると、風の向きがようありませぬ。韓国から戻るには、あと三月ほどは風を待たねばなりませぬ。風の向きが悪ければ、恐らく倭国に戻るにも……」
「流される船も多くあろうな……」
「恐れながら……」
「ムナカタ殿には申し訳ないが、お心積もりだけはしておいて欲しい」
「よう分かりました」
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「トヨ!」
「父上、何用であろ?」
「うむ、此度、女王にお目見えして参った」
「何、女王様に?」
「うむ、かつて儂が女王様にお仕えしておったのは知っておろう」
「うん、前に父上がそう仰せであった」
「儂はかつて女王の師であったのじゃが……」
「師?」
「さよう、師じゃ。師とはそう……女王にいくつか知をお授けしておったのよ」
「父上が女王様に……」
「此度、女王は久方ぶりに儂の知を聞きたいと仰せでのぅ……」
「そうか……父上はお偉いのじゃなぁ……」
「いやいや……その際、女王はそなたのことを気にかけられてのぅ」
「妾の?」
「さよう……女王にはそなたがいくつになるか、とお尋ねであったゆえ、十になり申すとお答え申したところ、ひとたびそなたに会うてみたい、と」
「妾も女王様にお目見えできるのか?」
「そなたは女王にお会いしてみたいか?」
「うん、妾も女王様にお会いしてみたい!」
「そうか……さらば、いずれお会いできるよう、儂から女王にお願い申し上げるとするか」
「まことじゃな? まこと、妾も女王にお会いできるのじゃな?」
「うむ、まぁ、お願い申し上げようぞ」
「きっとじゃぞ、父上。きっと女王様に会わせてたもれ」
「女王にお会いするには、そなたはもっと学ばねばならぬぞ。学びの足りぬ者は女王にお会いする能わず」
「うん、妾ももっと学ぶであろう。されば、きっと女王様に合わせてたもれ」




