手紙〈Letter〉
徹夜した彼は静かに二階の自分の部屋から郵便ポストへと向かう。そういう気分だったから。どういう気分だよ
だがそんな気分行動が彼の初めてを奪うことになる。電気代ご使用量のお知らせや会員様優待券、料金後納郵便が二つに宅配ピザのメニューなどが入っている。あとは小さい紙類に無地茶封筒に天秤の刻印が施されていた。差出人は不明。宛先はこの住所で間違いないようだった。
裏を見ると〔哀れな貴方への救済書〕と書かれていた。彼は直感した。紛れもなく自分のことだと。この家庭内において惨めなのは自分だと自覚できるほどには虐げられていた。
理由は明確かつ単純。
我が家は歳が二つ離れた兄弟の4人家族だ。ちなみに俺が弟
兄は文武両道でかなりのイケメン。圧倒的なカリスマ性に都内の一流大学に通っていて嘱望されている。しかも休日には家に彼女を連れ込んで青少年保護育成条例の内の淫行条例に反するようなことをしている。
彼女さんの声大きいよ...
父は世界を救う仕事をしていると5歳のころに聞いたのが最後だったが、家庭が安定していて、楽しそうにご帰宅なさっているので転職されたのだと思われる。
母は趣味に没頭していて兄に次いで楽しい人生を送っている。
俺はというと、学業は良いほうだが、スポーツはあまりできない。高校二年にしてボッチ。それだけならまだしもおめーの席ねぇから状態である。言っていてつらいからこれで終わり
本題に戻り手紙を手に取りじっくり嘗め回すように見分する。
改めて考えると初めてもらった手紙だった。年賀状すら個人でもらったことはない。見た目が厨二をくすぶられるものだったため早々に開けてしまった。
手紙の内容はこうだった。
『元気してる?わけないよね。だからこれを送ったんだけど...まぁいいや。
楽しい人生を送っている君にはいろいろ書きたいこともあるけどここは敢えて簡潔に。
君に希望を与えてあげるよ
この手紙に招待状を同封したから。それを使えばいい。使い方は枕の下に敷けばいい。歯が抜けたときに君たち人間は歯を枕の下に敷くだろう?小学生はもちろん生まれたての赤子ですらできることだ。今夜向こうで待ってるからね。それじゃ』
その手紙に重なるようにして同封されていたのは...なんと!金のチケットだった!...なんてそんなチョコレート工場に行くためのものなど入っておらず、薄汚い小さめの長方形の布に象形文字に似ている文字?で書かれた招待状らしきものが同封されていた。
これが招待状?正常な判断を下せる人間は手紙もろとも破り捨てるだろう。だが彼はそれをしなかった。彼が好奇心と探求心が旺盛だからではない。異世界好きのアニメオタクだからでもない。楽しい人生を送っているならリセットする必要もない。
変化という希望が欲しかった。
どんなに一縷でも救済の希望を渇望していた。
どんな人間にだって欲望はある。
金持ちになりたい。天才になりたい。勉強ができるようになりたい。運動神経がよくなりたい。仕事が欲しい。人から好かれたい。圧倒的な力が欲しい。あらゆるものを独占したい。セックスがしたい。
どんなことだっていい。自分の有していない能力<ステータス>を渇望する。
それと同様に彼も変化に貪欲だった。状況が多少違えど、ただそれだけだった。人として然るべき道を歩んできただけ。
謎の手紙に期待を寄せていたらいつの間にか太陽が少し高く昇っていた。
「身支度しなきゃ...」
体が重くなるのを感じる。
憂鬱な気分も登ってきたようだ。
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朝食は食べないので、カバンを背負い、さっさと家を出てコンビニで昼食を買う。学校内にも売店はあるが、かなり混むので俺なりの気遣いでコンビニ食で済ます。本当は人が多すぎて買えないだけなんだけど。
今日はアンパンにツナパン。いつもと変わらない重さの袋を手に提げ憂鬱ストリート(通学路)を猫背になりながらも歩む。
「今日も来てるよ。なんかキモくね?」
「ほんとなんかキモいよな」
そしていつも通りの理由のない嘲笑と悪口
今日も世界は平常運転。
そんなこんなで昇降口に到着。
授業中の質量兵器(ERASER-Piece)も制服のバリアのおかげで損害はなかった。だが体育での先生と組まされたのは甚大な被害だった。授業中も彼らの悪口は衰えることを知らない。
いつもの課程を終え、家路につくと毎日のように考える。
どうしてこんなことになったのかと
それは二年前に遡ることになる。当時俺はまだ正義感の強いお子様な中学生でお受験に追われてはいないものの若干は勉強していた頃だった。夜に自宅から最寄りのコンビニで飲み物を買いに行こうとした時の話。道中、汚い金髪茶髪の不良共に絡まれていた少女を助けたのが運の尽きだったのだろう。蛮勇で突っ込んだ俺も俺だが何より人助けをしてみたかった。かつ正義感が強かったのが裏目に出たのである。やはり返り討ちに会い、そいつらのお仲間が同じ高校だったのだ。だが少女は助けられた。だがそれだけでは終わらなかったのが現状だ。彼らの環境には標的が必要だったのだ。自分よりも優れている人間を許容できない主体的原因もあったのだろう。一年半もあいつらの相手をしていると嫌でも達観してしまう。
彼らはいつも群れを成して生きている。個性も何もない無為に過ごしているだけの典型的な屑だ。自覚しているなら変化のしようはあるが、自覚をしていないのである。だから人を痛めつけ蔑み一時の優越に浸っているのだ。屈辱だな。だがそれを思うのもバカバカしい。いつだって楽観的でいれば溢れ出るものも静まる。いつだってそうやって生きてきた。
そんなことを考えているとお家に到着。
考え事をしていると、時はティファールの如くあっという間だ。
さっさと風呂に入ってすっきりしよう。風呂は命の洗濯だもんな
風呂は毎日この時間に沸かせておくようにお母さんに言ってあるので沸いているはず。
そう思いラッキースケベを期待しつつ脱衣所の引き戸を勢いよく開ける
案の定誰もいない。心に寂寥を感じつつ浴槽の扉を開ける。
すると...目の前には美しく光を反射する水面に黙々と湯気が立っているそれは見事なお湯が沸いていた。
おいおいおい、美少女どこ行ったんだよ。普通なら脱衣所にいなかったら風呂場にいるのが常套だろ?まったく何やってんだか・・・あれ...湯気が目に染みて涙が...
気を取り直して、髪を洗い体を洗い顔を洗い入浴剤を投入した乳白色のお湯に足から浸かる
まだ冬ということもあり体が冷えているのか少し熱く感じる。おかげで滞っていた血流も活性化し、思索できる。
そして今の今まで忘れていた招待状を思い出す。
そういえば今夜だったな。何が起こるかわからないし今日は休んでやりたいことやればよかったなと少し後悔
でも過ぎたことを思っても何も変わらないしな。飯を食ったら少し散歩しよう。
気づけば体は火照りのぼせる寸前だった。急いで上がろうと立ち上がると、立ちくらみが襲ってくる。
「クラクラする...」
少し休むために風呂イスに腰を下ろす。
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この人生最後になるかもしれない夜の散歩を終え、自部屋のベッドに転がる。忘れずに枕の下に招待状を敷く。のぼせかけた為か、疲れがどっと出てくる。
「やばい...ちょー...ねむい...」
意識が底へと沈んでいく。そうして彼は静かに寝息を立て、眠りにつく。




