買い物しようそうしよう
とりあえずの現状把握が終わった俺は、現在買い物中である
当然の如くメリアも一緒だ
右も左も分からないこの世界で、買い物程度とは言え一人で行動するのはまだ早い
メリアと言えば
「ゴトウ殿が行くところならば、どこであろうと付き従う所存でござるよ!」
と無駄に元気についてきた…甲冑姿で
…あん時俺を跳ね飛ばしたのお前だったんかい!
それはともかく買い物だ
買い物するにも先立つ物が必要なのは当然なわけだが
金はあるのかって?
大丈夫、問題無い
ゴトウさんのキャッシュカードを拝借してきた
そう、便利なことにこっちの世界にもキャッシュカードがあるのだ
科学によるものではなく、理法とかいう魔法みたいな技術の産物らしいんだが
通常使用されている通貨は硬貨のみしか無いそうなんだが
いちいち重い硬貨を持ち歩く人も少ないそうで
普通の店ならどこでもキャッシュカードが使えるらしい
このキャッシュカードがあるせいで、偽造の容易な紙幣が発達しなかったとか
鶏が先なんだか、卵が先なんだか、良く分からん話だな
ちなみにこのキャッシュカード、本人しか使えないはずなんだが
普通に俺でも使えた
何故かドヤ顔のメリアが「ゴトウ殿でござるから当然でござるよ」とか
根拠の無い納得をしてた
理法ってのは便利なもんだな
メリアも余り技術的なことについては詳しくないようだが
簡単に聞いた話からすると、科学と魔法の良いとこ取りな技術に思える
そんな風に便利な技術の第一人者がゴトウさんだったらしく
国の宝とか言われてるのも納得である
あっちの世界風に言えば、ノーベル賞各部門総なめにした人、みたいな扱いなんだろな
「ゴトウ殿~、夕食は何が食べたいでござるか?今日は野菜が安いでござるし、野菜炒めでどうでござるか?」
「なんでもいいよ」
「全く、ゴトウ殿はいつもそうでござる…作る人の身にもなってほしいでござるな。そんないい加減だと椎茸入りにしてしまうでござるよ?」
「椎茸だけはやめてくれ」
「ふふふ、わかってるでござるよ」
買い物中のメリアは随分と機嫌が良い、甲冑で表情は見えないが、声で分かる
買い物と言っても、ゴトウさんの家に日用品は揃っていたし、食材だけだ
まぁ、食材なんて買っても、産まれてこの方自炊なんてしたことない俺には意味が無いわけだが
メリアが作ってくれるんだそうな
というか、元々ゴトウさんとメリアは同居してた…らしい
らしいばかりではっきりしないのは自分でも分かってる
しょうがないだろ、だってそこんとこ細かく聞いて「実はゴトウ殿とは護衛対象であり友人関係であり、男と女の関係でもあったのでござる」
とか言われたら、俺立ち直れないよ
そりゃ、会っていきなり恋しちゃいました…みたいなガキっぽい話じゃないのは確かだが
この世界で唯一頼れる相手で、やたら美人で性格も…ちょっと変ではあるが良い女が
自分と入れ替わりになった男とそういう関係だったとか
なんというかやたら微妙だ
嫉妬みたいな妙な気分でもあり、なんもしてないのに寝取ったような罪悪感というか
そもそも、先ほどからメリアは、俺をまるっきりゴトウさん扱いだ
「いつもそうでござる」とか「わかってるでござる」とか…
ゴトウさんも椎茸嫌いなんだな、ってか、こっちの椎茸ってあの椎茸で合ってるんだろか?
その晩の夕食はカレーでした
どことなく、母ちゃんのカレーを思い出す味だったが、母ちゃんのカレーはハ○スバー○ントカレーだしな
よくある味なんだろう
飯の後、一人で食後の一服を楽しんでいると
風呂上がりのメリアが酒を持ってきた
酒は普通のウィスキーみたいな味だったが、焼酎派の俺には善し悪しが余りよく分からなかった
黙って酒を飲む俺を、何が楽しいのかメリアはずっとニコニコ笑顔で眺めていた
今まで、女と差し向かいで呑んだことなんて、キャバクラくらいしか経験の無い俺は
ただただ笑顔のメリアに対して、気の効いた話題を振れるはずも無く
終始杯を重ねることになった
あげく、酔い潰れてしまったらしい
ゆっくりと目を開けると、目の前には微かな寝息を立てるメリアの顔
膝枕というやつか
窓から差し込む7つの月明りに照らされて、眠るメリアは美しかった
時折呟く寝言は
気づけなくてごめんなさい
帰ってきてくれてありがとう
もう、どこにも行かないで
俺に向けた言葉じゃない
無性に煙草が吸いたくなったが
もう少しこのままで居たかったのと
手持ちの煙草は残り少ないことを思い出し
まんじりともせずメリアの寝顔を見上げ続ける
ゴトウさんよ
よっぽど疲れていたみたいだが
そっちの世界だって楽じゃあ無いんだぜ?
こっちの世界じゃ国の宝かもしれんが
そっちの世界じゃ社会の歯車がせいぜいだ
あんたは優秀だったみたいだし、うまいことやるのかもしれん
だけど、そっちの世界にゃメリアは居ないし
こっちのメリアが求めてる人は、あんただけなんだよ
なぁゴトウさん
俺はあんたが羨ましいが
交換できないもんだってあるんじゃないか?
女なんてその最たるもんだ
そもそも俺には、交換できる女なんて居なかったし
良い女の涙なんて見たくもない
というわけで、俺がこっちでやることは決まった
元の世界に戻って、ゴトウさんをこっちの世界に連れ戻す方法を探すことだ
そうと決まればさっさと寝よう、明日・・・もう今日かもしれんが、やることは山積みだ
今日くらいはこの寝心地の良い枕を堪能しても良い気がしたが
起こさないように毛布を掛けて床で寝た




