第四話
「ささ、そちらにどうぞ」
「へーこんな時間に学生さん?もしかしてママ拉致って来たんじゃないの?!」
「馬鹿言ってんじゃないよ、あんたがコーヒーしか頼まないから気を利かせてきてくれたんだよ。ねぇ?」
「は、はぁ。失礼します」
店主に促されて、カウンター前のスツールに腰掛ける。
店内は常連と思われる中年の男性以外はめぼしい客などはいなかった。
「ささ、メニューはこちら。後君、勿論ここに来たってことはジャズに興味があるんでしょ?
リクエストはこちら、一曲百十円で選び放題だよ」
ニンマリと笑いながらジャズと思われる曲目が掛かれたファイルを眼前にずいっと突き付けられる。
御国はジャズの知識はないがそれでもそのレパートリーは凄まじい物であることは明白だった。
「よし、ママ。この学生さんは俺がいっぱい奢るよ。学生さん、何でも好きなもの頼んでいいよ」
「聞いたぁ?!何でも好きなものだって!
じゃあもちろんコーヒーの一番下、ほらこのエメラルドマウンテンスペシャルっての。ハイ決まり!」
(う、マジか?!)
御国は値段を見て驚愕する、エメラルドマウンテンは桁が違っていた。
「はあ?!なんでママが決めてんの?学生さん、こんな人はほっといて、ミックスジュースでも頼みなさい。
うまいって評判だよ、俺は飲んだことないけど」
「まあ、それじゃ、その、ミックスジュースで」
「はいよ、ミックスね。曲はなんかリクエストある?」
「あの、その、実は皆さんよりかあんまり詳しくなくて」
尻込みする御国を見て待ってましたと言わんばかりに二人が身を乗り出す。
「じゃ、これで決まりだな。2001年の記念すべき年に誕生した名曲---」
「何爺臭い物選んでんだいっ!ジャズって言ったらこれだろ、90’sを代表するーーー」
二人の論争が過熱しそうだったので御国は慌てて間に割って入る。
「すみませんっ、そのエレクトロスウィングってやつはありますか?!」
御国の勢いに思わず目を点にし、顔を見合わす店主と常連。
「・・・あるよ、とっておきの」
二人して声をそろえていった。
おすすめのベストミュージックが終わり、どういう訳か三人は不思議な一体感に包まれていた。
「やっぱいいね、ブリキお嬢様の曲は」
「たまにはこっちもいいもんだね。これから週で決まった曜日はエレクトロスウィングにしようかしら。
僕、どうだった?ご希望には添える事はできたかね」
御国はジュースを飲みほして、一呼吸着いた後に率直な感想を述べる。
「なんていうのか正直に言うと、新しいような古いような感じですね・・・」
「まあ、元々そういうコンセプトもあるからね。でもどうしてまたエレクトロスウィングなんだい?」
「それなんですけど実は・・・」
三好から言われたこと、そして三好自身、何とか元に戻ってもらいたい一心で少しずつ理由を説明し始めた。
「ふむ、”探せ”ねぇ。探せって言ってもこのジャンルだってジャズには劣るものの無数に存在するよ?」
「違うよママ、お気に入りの曲をプレゼントしろって言ってんの。乙女心が解らんのかねぇ?」
「なんだいそれは!乙女に対する挑戦かい?」
「いやあの、なんかその、すみません」
二人が再び論争に発展するか否か、火花が散り始めたその時後方から再び来店を知らせるドアベルが鳴る。
「いらっーーあら、火付け役のお出ましかい」
「よっ!お、 やっぱり来てたね、どうだいお目当ての物は見つかったかい?」
来店してきたのは楽器店の店長であった。
聞けば店を閉めた後、気になって尋ねに来てくれたらしい。
「それが、やっぱり漠然としていてはっきりとは」
「ふむ・・・」
楽器屋の店主は上唇のふくよかな髭をゆっくり撫で考え込んだ。
「ま、年頃の女の子はね、無意味に色々困らせたくなるもんなんだよ、解っておやり」
「いやあのそんなの解りたくもないですよ・・・」
御国は思わずため息をついた。
「あ、そうだ常連さん、あれ知ってるあれ?!昔よくやったやつ」
「あれあれって言われても、あ、もしかしてむかしよくやったやつって”あれ”か?!」
「なんだい二人して”あれあれ”って気持ち悪いねっ!」
二人してなにやら外野には理解しがたい事を言い出す。
「そうだよ、俺まだ持ってるよ!学生さん、ちょっと待ってなよ」
そういって常連は傍らにあったコートを掴み店を飛び出す。
「ちょっとあんたそういってまた金ごまかすんじゃないよっ!」
「わーってるって!」
飛び出す常連の背中を一同は見つめていると楽器屋の店主は御国の肩を叩き笑った。
「大丈夫、きっと間違いないよ」
「で、見つかったの?」
「見つかったも何も・・・最初から具体的に言ってくれよ」
「詳しく聞かなかった自分が悪い」
(勝手な事言って・・・)
そういって御国は三好にあるものを手渡した。
「っ!あなた・・・よくわかったわね」
「意外だったよ、でも何でこんなものを?」
御国が手渡したもの、それはかつてカセットと呼ばれたTVゲームをするためのソフトウェアが入ったもの。
タイトルは”エレクトロスウィングス”
三好はそれを見つめたままただ呆然と立ち尽くしていた。
「たぶんそれだよね、間違いなく。一つ聞いていい?なんでそれなの」
三好の質問が入っているのかいないのかは不明だが三好はそれを見つめまままだ一言もしゃべらなかった。
やがて。
「ううぅ・・うう・・・・」
「お、おい、そんなっ」
三好からは大粒の涙が次々と零れ落ちる。
慌てて駆け寄り、思わず彼女の肩を抱く御国。
そんな二人を夕暮れだけが黄金色に二人を染め上げていた。
「うっ、ううっ、うううう」
彼女からは大粒の涙がこぼれ落ちてきた。




