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第三話

(宗教の類の方がまだよかった)

三好は心底がっかりした。

まさか未来に行ってきたとは予想していた回答大きく裏切る斜め四十五度の回答である。

「御国は昔から知ってるから話してあげるけどさーーー」

そこから淡々と三好は語り出す。

聞けば三好は朝起きると既に成人しており自分か務める会社、家族、交友関係など全てを把握していたらしい。

軽薄な人間関係、生かさず殺さず程度の賃金、欲が先行する恋愛事情、歳追うごとに自分に依存してゆく両親、

生活を苦しめるだけの情報、苦しさの増す環境、日々不健康になる身体、何よりも変わり映えのない灰色の日々。

つまり精神のタイムリープを果たしたらしい。しかしながらーーー

「それはーーー」

それは、現状から予想できる単なる自身の将来の不安では?と口に出す前に押し込んだ。

少し興味深い事を言い出したからである。

「自分という人間に嫌気がさした時、詩人に出会ったの」

「詩人?」

「そう詩人、見た目は普通だった。でもその人は私を見つけるや否や私の思っていることの全てを当てたの」

御国は話の雲行きが怪しくなっていくのを感じた。

もしやと思い、話を遮り質問する。

「待ってよ、それってもしかして危ない人なんじゃないの?悪いけどおばさんには報告するよ?」

「御国、あんた自分の幸せって何だと思う?」

御国の質問に耳も貸さず逆に問う。

「何だよいきなり、もしかして何かされたんじゃないのか?」

「馬鹿じゃないの?今あなたの頭に思っているような事は千パーセントないわ」

御国の考えを察したのか三好は不機嫌そうに反発した。

「いいから質問に答えなさいよ!どうなの?」

「はぁ、幸せね・・・そうだな、やっぱりお金持ち・・・とか?自分の好きなことして過ごせるとか?」

「もういい、がっかりした」

三好は踵を返し、ベンチに置いていた通学カバンを担ぐとすたすたと歩きだした。

「ちょっなんだよそれ?!」

せっかく真面目に答えたのに家路に戻ろうとする三好に思わず憤慨し怒鳴ってしまう。

すると三好は再び振り向き、ずかずかとこっちに向かって歩き出したと思うと御国の眼前まで顔をいきなり近づける。

(・・・・・・!!)

息づかい、髪の香り、鼓動。

全てが近く、そして、わずか数ミリの距離。

そして。

「さがして」

「な、何を?」

唇が触れそうになる、そして。

ぐっと身を引かれて一言言われた。


「エレクトロスイング、さがして」

「エレクトロスイング?」


それだけ言うと三好はまた帰路へと戻っていった。

御国は人生で経験したこともない程の胸の高まりを感じながらただ茫然と彼女の背中を見つめていた。


翌日、昼休みの教室にて。

「なあ、エレクトロスイングって知ってる?」

「エレクトロ?スマホかなんかじゃねーの」

御国の後ろ座席の不良生徒は机でうつぶせ寝しながら面倒そうに御国の質問に答える。

「いや、それはちがーくて」

「あーねむっ、ねむっ」

不良少年はよっぽど夜更かしをしていたのか御国の声に耳も貸すことなくうんともすんとも言わなくなった。

「あーあれでしょ、確かジャズみたいなやつ。ジャズにシンセサイザー加えたような」

「なんか聞いたことあるし。なに御国、見かけによらずシブいじゃん」

直ぐ近くで雑談していた女子二人が聞き耳を立てていたのか興味津々で寄ってくる。

「いや、それは解るんだよ。でもそれって”エレクトロスウィング”なんだよね。

僕が知りたいのはエレクトロスイングだよ、”エレクトロスイング”ほら」

そう言ってスマホの画面を見せる。

画面には確かに曲としての”エレクトロスウィング”はあるもののエレクトロスイングではない。

「はあ?なに、そんなのに違いとかあんの?単なる聞き間違いじゃないの。

”スイング”に”スウィング”って・・・こっちも言いずらいわっ」

女生徒の一人は舌を出して英語の授業でも受けているかのように口をもごもごさせる。

「なに御国、マジで作曲家でも目指すつもり?とてもそんな感じに見えないけど・・・」

「・・・いや、別にネットでちょっと聞かれたから。気にしなくていいよ、ゴメン」

そういって気にも留めない様子で再びスマホに向き直ったが実際頭の中は昨日の事で一杯だった。

何よりあの夕暮れの幻想的ともいえる光景はまだ少年の脳裏には鮮烈すぎた。

(スイングって言ったらテニスなんかで言うラケットなんかを振りかぶる事だよな。

じゃあエレクトロってのは?電子を振りかぶれ?意味解らんし・・・)

唸りながら思念を巡らせる御国を先ほどの女子二人が不思議そうに見つめる中、予鈴が鳴り教師が入って来た。


放課後、結局事の発端である三好はいつの間にか雲隠れするように帰宅しまい、

途方に暮れた御国は唯一の手掛かりであろうある場所を訪れる。

御国の住む町で唯一の楽器店だ。

ネット販売が幅を利かせる一方、この楽器店は豊富な品ぞろえとマニアックなラインナップが受け、遠方からも客が来る

中々の有名店だった。

御国はエレキギターの類ではないかと一目散にエレキコーナーに向かいそれらしいものを探す。

ハードロックでエレキを振り回すところからヒントを得たが当ては外れたようだった。

(だめだ・・・エレクトロスイングなんていうギターなんかあるはずがない)

「何かお目にかなうやつは見つかりましたか?良ければお出ししますよ」

色々物色しまわる御国を不思議そうに見ていた年季の入った店員がニコニコと笑顔で寄って声をかける。

ネームプレートには”店長”の役職が。

「あ、いや、僕が引くとかそう言うんじゃなくて・・・あの」

「・・・うーん?プレゼントですか?」

御国は闇雲に探していても埒が明かないと思って思い切って店長に件の話を持ち掛けた。

「・・・うーん、”エレクトロスイングを探す”ねぇ。曲ではないんでしょう?でもその子変わってんねぇ」

「はあ、でも解らなければいいですよ」

店長はしかめ面をして少し唸った後、パッと顔を豹変させいきなりカウンターへと小走りに戻って行く。

(・・・・・・?)

カウンターを少しごそごそ漁った後、お目当ての物を見つけたのか直ぐにこちらに戻って来た。

「これ、あげるよ!たぶんここいらじゃ有名だからきっといいヒントが見つかるかもしれないよ」

そういって店長はニコニコしながら一枚の名刺を御国に手渡した。

「これは・・・ジャズ喫茶?そうか、ジャズか、ジャズから攻めるのもいいかもしれない」

もらった名刺にはジャズ喫茶の店長の名刺。裏に地図が記載されておりここからそう遠くない場所であった。


ーーー夜。

そのジャズ喫茶は開店が遅く夜20時から26時までの営業という風変わりな時間帯に加え、

人里離れた場所に佇んでいたため御国はそのたたずまいを見て思わず戦々恐々とする。

(うわ、マジかよ・・・こういう店入るの初めてだ、しかも一人だし。たかが店に入るのにここまで勇気がいるのか)

すーはーすーはーと深呼吸し、意を決して喫茶のドアノブに手を駆けた時だ。

ガチャン!

「うわっ」「いらっしゃーい、入るまでずいぶん時間かかったね。ささっ、中へずずっとお入りください」

ドンピシャのタイミングで出てきたのは年季の入った店主と思われる女性だった。

室内なのにいびつなサングラスをしている。

御国は驚き高鳴る心臓を抑えながら恐る恐る尋ねた。

「あの、その、ぼくが入るって知ってたんですか?」


「知ってるも何も店の前でじーっと棒立ちしてんだもの、さ、いいからおはいんなさいな」


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