第二話
「あー鬱陶しい」
三好は職員室を出るなり大きく伸びをしてそう呟いた。
まるで先ほどまで指導を受けていた生徒とは思えぬほどの太々しさだ。
「三好、今日も呼び出しされたの?」
「御国・・・あんたまた待ってたの?私に何で構うのかなぁ、早く帰るなり部活するなりしなさいよ」
職員室から出てきた三好の姿を見るなり駆け寄って来た御国と呼ばれた小柄な男子生徒。
彼は少し周りの目を気にしてか小声で三好に声を駆ける。
「それともひょっとしてまた家の母さんの差し金?だったら言っといて、ご近所だからってこれ以上迷惑ーーー」
「いや、それに加えても変わりすぎでしょ。三好。いったいどうしたんだよ?昔はこんなーーー」
御国がいつもの調子でぶつぶつ呟きだすので三好は鼻を鳴らして踵を返した。
「ちょっと、あ、先生さよなら・・・あ、待って」
ずかずかと昇降口へと向かっていく三好の後を御国はいそいそと追いかけていった。
帰り道。
御国は後を追いながら自分よりも背の高い彼女の背中を眺める。
容姿端麗、才色兼備、頭脳明晰。
彼女を表すにはこの三つの四文字熟語で事足りる。
そうついこの間までは。
今では必ずその説明の前に”性格上難がある”と言われても誰しもが納得する振る舞いになっていた。
「高校でなんかあったの?」
「なにが?」
「何がって・・・中学校の時はまるでアイドルだったのに」
「別に、今までが異常だっただけで正常に戻っただけ」
相変わらずの返し文句にぐうの音も出なかった。
彼女の周りに対する反応はとても高校生相応とは言いずらい。
挨拶は無し、すれ違う相手は必ず睨みつける、気のない返事、ケンカ腰の台詞、協調性皆無、
挙動不審、人間不和、深夜徘徊・・・何より全身からにじみ出る生気の無さ。
唯一救いなのは身なりはきちんとしている所だろうか。
風呂に入っているかどうかは不明だが。
「ねえ、コンビニでアイス買わない?」
「そういってこの間、僕にレジさせている間に先に帰ったでしょ?
おかげで食べたくもない溶けそうなアイス二つも食べたんだよ」
「今度はちゃんと食べるし金も払うわよ」
そういってこっちの了解も聞かずに近くのコンビニに入っていった。
「これにしなさいよ」
アイスの入ったケースの前に着くなりガラス戸を開けるとおもむろに丸く白いゴムボールのようなものを取り出す。
「これ、爆弾アイスじゃん・・・嫌だよこんなの」
「違うわよ、おっぱいアイスよ。ほら下の方乳首みたいになってる。こういうの好きなんでしょ?」
三好も御国も思春期であるが三好の容赦ない台詞に御国が羞恥心を通り越して呆れを見せる。
「何言ってんだよっ女子がそんな事言うなよ・・・」
「男はおっぱいが好き!!」
「ちょっと馬鹿!!」
御国は意表を突かれた台詞に三好の口をふさいだ。
周りを見渡すと幸い客は少なく驚いた顔をしたオジサンと目が合い、軽く会釈をし苦笑いをした。
「何言ってんだよ・・・いい加減にしろよ」
「いい加減にするのは貴方の方。私はほっといてってずっと言ってるのに」
「こんな状態でほっとけるかよ、家もすぐ隣なんだよ?この間夜帰ってこないって言われて俺まで駆り出されて・・・
ああもういいや、ほらそれ貸して買ってくるから」
御国は持っていたチョコレートアイスとおっぱいアイスを持ってレジへと持ってゆく。
苦笑いをしてバーコードを通すレジの初老のおばさんが御国には痛々しかった。
帰り道、脇道に逸れると港町を一望できるなだらかな丘の公園まで行くことが出来る。
コンビニによると決まっての寄り道コースだ。
「私ね・・・悟りを開いたの」
「はい?」
港町が一望しながら乗ることが出来るブランコを漕ぎながら三好が言い放った一言に唖然とする。
暫くの思考停止ののち、慌てて我に返る。当然尋ねるのはこの質問しかない。
「もしかして宗教?宗教入ってからおかしくなったとか・・・」
「違う、宗教も神も仏も関係ない」
「じゃあ一体何だってんだよ・・・」
もはや取り付く島もない御国に三好はブランコを勢いよく漕いでシュタッと飛び降りた後、
沈みゆく太陽を一心に受けながら答える。
「私は・・・未来に行ってきたの」




