表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/5

第五話


「このゲームね、昔従妹が好きだったの」

「従妹?」

二人はベンチに腰掛け、海に沈みゆく太陽をただぼんやり眺めていた。

暫くして泣き止やみ落ち着きを取り戻した三好は何気なくぽつぽつと語り出す。

「私が7歳ぐらいの頃、従妹のにいさんが近所に住んでてよく遊びに行ってたの。あなたは覚えてる?

近所にあったちょっと古っぽい大きな家、今はもうないけど」

御国はそういわれて幼き日の淡い思い出をたどる、がまったく覚えがなかった。

「じゃあ引越しした家は覚えてる?何のあいさつも無しに突然引っ越したはずだから噂になってたはず」

「あ、覚えてる!町内会長してたとこだ!そうだよ、急に引っ越していなくなったんだよ」

「まあ、苗字が違ってたからね。そこににいさんが住んでた」

少し雲行きが怪しくなったのを感じ取った御国はあまり気に障らない程度でそれとなく聞いてみる。

「じゃあ、その兄さんがすきだったゲームなんだねこれ。従妹が引っ越して出来なくなったから探してたとか・・・」

「ううん、にいさん自殺したから。だからそこも引っ越していなくなったの」

ああマズったと御国は思った。

何となく話の文脈から予想はついた。だけど何となく外れてほしかったのだがそれは叶わなかったようだ。

それから三好はこの”エレクトロスイングス”にたどり着くまでの話をしてくれた。


今から数年前、三好には面倒見のいい従妹、兄さんがいた。

彼も頭が良く、体力もあり、おまけに性格も温厚で優しいという両親も自慢の息子であった。

しかし、運命は彼に容赦ない鉄槌を与えて行く。

「高校でひどいイジメにあったの。学校の連中によると羨んでの事ってらしいけど。優しいのが仇になったみたい。

その後別室での登校をしてたけど結局行かなくなった。でもね、にいさんはそんなことでくじける人ではなかった」

彼はネットでの通信教育や勉学に励み、大検も合格したらしい。しかしだ。

「そのあと、交通事故にあったの。相手はクズカップル、目撃証言もあったけど逃げて今も捕まってない。

そしてにいさんは事故で腰に大けがを負って治療が終わった後も体は大きな負担の強いられない弱い体になってしまった」

ちょうどそのころから家で療養することが多くなり、三好もよく遊ぶようになったという。

「最初は元気がなかったけど、映画とかアニメ見たり、一緒にお菓子作ったり、ゲームしたりして遊んでとても楽しかった。

まああの頃のにいさんは・・・傍から見ればニートそのものだったかもね」

三好が笑う、思えば御国が三好の笑顔を見たのは久しぶりの事だった。

「その時にやってたのがその”エレクトロスイングス”ってゲームなんだね」

そういってゲームを指差す。

「ちょっと古いゲームだけどね。かわいいキャラクターのレトロミュージックリズムでいつも競い合ってた」

三好はそういって思い出したかのように笑っていた、そして

「にいさんはそれでもあきらめなかった。大学は断念したけど、必死に資格も取って、条件に合ったところに就職する事もできた。そしてそこで待っていたのは、またイジメだった」

三好は何も言えなかった。

人生は時として、努力する人間をくじき、さらに追い打ちをかける。

「私、許せなかった。こんなに頑張ってとてもいい人なのに何でみんなこんな酷い事するのって?

言ったらにいさんはただ笑顔でこう言った」

”誰が悪い訳でもないんだよ、これは僕の問題だから”

「忘れもしなかった。そして次の日自殺したの。信じられなかったわ。ぼくの問題って何?

誰が悪いってにいさんをイジメた連中に決まってるじゃないって、なのにどうして・・・」

三好は立ち上がって拳をワナワナと震わせた。

そして、両親は失意のうちに生きる気力を失くしてしまい、事が事だけに大事にもできなくて親戚連中の

勧めもあって夜逃げ同然で引っ越していったらしい。

「虐げられ、蔑まれ、それでもあきらめなかった人間に待っていたのは絶望という鉄槌だった。

社会は、周りの人間は手を差し伸べるどころかっーーー!」

だんだんとエスカレートしていく自分にハッと気づいて我に返る。

三好は少し照れ臭そうにしながら再びベンチに腰掛ける。

御国はただ、何も言わずに三好の言いたいことを好きなだけ言ってもらえるよう聴きに徹していた。


火も傾き始め、辺りに夕闇の香りが立ち込めた頃。

「ーーーそんな社会が許せなくて、三好は性格を捻じ曲げたって事かな?」

御国はあくまで機嫌を損ねぬようにゆっくり尋ねた。

「何よ今更知ったように・・・悪かったわよ迷惑かけて」

三好は少し照れ臭そうに、しかしながら申し訳なさそうに謝罪する。

そんな少し素直になった三好を見て御国は今の彼女にピッタリの方法を思いつた。

「あ、そうだそれなら・・・来てくれよ、紹介したい人、いや、紹介したい店があるんだよ。

今の三好にはピッタリだよ!こういうのはさ、言葉で語るよりももっといい方法がある!」

御国は表情を一気に明るくして、三好の手を引いてベンチから引き離して小走りした。

「ちょっとっ・・・もう、どうしたの?!」

三好は御国の勢いに押され、いつもの調子も出せずにただ手を引っ張られるしかなかった。

それでも悪い気はせず、三好は御国の以外にも広かった背中を見つめながらやさしく微笑む。


「ジャズ・・・・喫茶?」

「三好のヒントがわかんなくってさ、巡り巡ってここに来たんだけどまあ結果オーライって奴かな」

二人して店の前で仁王立ちをして暫く眺める。

「とは言いつつも、いま、空いてんのかな?開店にはちょっと早いかも知んないけど」

「はぁ?あんたから連れて着といてそりゃないでしょっ!」

御国の頼りない顔つきに三好は思わず腹パンする。

「ふごっ!」

「あんた・・・うじうじした見かけによらず中々いい腹筋持ってるわね、驚いたわ・・・」

二人して店の前でじゃれ合っていると突然ベルが鳴って思わず背筋が伸びる。

店のドアが開いて来店を知らせるベルが鳴ったのだ。

「なんだい、うちの店は入るのにそんなに勇気がいるのかい?それとも外観がそんなにいいとか・・・」

呆れた様子で店のオーナー、ママが顔を出す。

「あ、ママさん」

「ママって何?なんなのいったい・・・」

ママは三好を見るなり、先日の出来事を思い出したのか顔をニンマリさせいつもの挨拶をする。


「どうやらうまくいったようだね学生さん。ささっ、お嬢さんも中へずずっとお入りください」

いつの間にか二人は手を繋ぎ、ママに招かれドアをくぐる。

待っていたのは試行錯誤しながらゲーム機をモニターにつなぐ常連さん。

笑顔で手を振りコーヒーをすする楽器店の店長、そしてーーー。


”エレクトスウィング”が流れていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ