書いてみた15 (ちょっと、拗ねてみただけだから)
このストーリーも終わってません!
年一回この学校では、各学年の交流会と称してダンスパーティーのようなものが開かれている。国、王の直轄地であるこの学校は、才あるものなら卒業後国の内政にあるいは王の護衛騎士団に配属されるものも多い。なのでその時に社交の場に困らないようにこういった模擬社交会が開かれるのだ。この日このときだけは殺伐とした力飛び交う場ではなくそれぞれが着飾り、魅せあう、いつもとは違う雰囲気となる。
3日後に、交流会が開かれる。
4学年寮塔時計の塔にて、アイリは頭を抱えていた。そして、例の二人を前にしてしばらくの沈黙のあと、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「毎年のことなんだけどさぁ」
「なんだよ、アイリ」
「悩みがあるなら言ってみろ?」
「ぼくの悩みは専らあんたらのことだよ!」
時計の塔に持ち運ばれた色とりどりのドレスの数々。今年もこのときが来たのだ。女子として、本領を発揮する舞台が。
しかし、目の前にいるこの幼馴染みどもは。
「なんっっで毎年反対されんのに、そんな着ぐるみを持ってくるかな?」
「だってこれ着たいんだもん。顔隠れるしさ、絶対楽だと思うんだよね」
「そうそう。中は蒸れるかもしんねぇけどさ、色んな人と馴れ合うのしんどいんだよな」
「わかるー」
「だろー」
「だからアイリ!今年は私たち、これで出るから!」
ふわふわしたその猫の顔をした着ぐるみを抱えて、キサラは得意気な顔をする。その隣でユーリが不細工な犬の着ぐるみを抱えている
「バカじゃないの?バカじゃないの!ほんとあんたたちのその見た目で女の子の自覚ないってどうなの?!」
「かわいいかっこする女の子なんか、いっぱいいるだろ?あたしらは奇をてらうんだよ!」
「てらわなくていいよ!」
アイリは鈍く痛みを訴えてくる頭痛を押さえ込みながら、じとっと、二人を睨んだ。
「ひとまず、それは、絶対、だめ」
いつにないアイリの迫力にいかな二人と言えども頷くしかなかった。
二人を自室から連れ出して、強制的にドレス選びに参加させる。また、あの着ぐるみを持ち出して説得してこようとしたユーリを一睨みに伏し、100着もあるドレスを保管している談話室のその下の階にむかう。途中、何か眩しい光が見えると思ったら、ルシアンだった。となりにはマッカーサもいる。女の子らしいその姿に、二人も見習ってほしいものだとため息をつきながら、その背中に声をかけた。
「ルシアンー、ドレスは決まったー?」
「まだよ。中々いいのが見つからなくて……」
「ルシアンは金髪だから、白とか!」
「白いローブはいつも着てるもの、飽きちゃった」
「確かにそうだね」
「毎年のことだけど、今年も二人のお尻叩いてきたの?」
「しゅんってしてるでしょ?」
「してる。それになんだかめんどくさそう」
「むきー。めんどくさいのぼくなんだけど!」
「うそ、楽しんでるくせに」
まぁね、と言いながら二人の方を見やる。案の定興味なさげにドレスの束を適当に流していた。
「ちゃんと選んでねー」
「へいへい」
「ユーリ?!はいでしょ!はいは一回」
「ふぁーい……………あ!ルシアンはこんなのがいいんじゃねぇ?どうよ。」
「それいーね!かわいーよルシアン!」
「自分の選べって。」
明るい色の少し肩が出ているタイプのドレスをキサラとユーリが差し出してくる。アイリが眉をぴくぴくと、痙攣させて二人を睨み付けている。ルシアンの身体にあてていたそのドレスをマッカーサが遮る。
「る、る、ルシアンのは!俺が選ぶから…………ふたりとも……………だま…………って………ください。」
「ほんと?!マッカーサが、選んでくれるのだったら何でもいい!何でも着るわ!」
きゃーっとルシアンが嬌声をあげ、マッカーサに抱きつく。当のマッカーサはというと、すごい目付きで睨んでくる二人から視線を反らすので一杯だ。
「おれ、ルシアンには、あんまり肌露出してほしくないから………これ。」
マッカーサが選んできたのは、深いワインレッドの長いドレス。腰辺りから下が薔薇をかたどったような同じ生地の花がさいており、大人っぽい落ち着いた印象を与える赤が、ルシアンの美しい金の髪によく映える。確かに彼女の雰囲気にはぴったり、だが。
「かた、剥き出しじゃん」
ユーリがそれを見て、一言。確かに先の言葉に反している。
「うん、だから…………これどうだろう?」
「マッカーサ、あんたなかなかセンスがいい。」
肩から薄いベージュのショールをかける。こうすれば、肌が目立たないし、なおショールのラメがきらびやかでゴージャスに見える。
「キサラ、ユーリ!マッカーサに負けてるんじゃない!二人もぴったりの探してきなさい!」
「あ、あいあいさー!」
アイリの剣幕に圧されて二人がドレス選びに散っていく。3日なんて直ぐだと言うのに、二人はまだドレスさえ選べていない。これから城に出入りしているテイラーにお願いして、ドレスをその身体に合うように調節してもらったりなどしなくてはいけないのに。
「そういうアイリは決まってるの?」
「もちのろんだよー。ぼくはわりと最初から準備してたからね」
「どんなの選んだの?」
「教えなーい。レオにも言ったんだけど、当日の楽しみにしてて!」
「アイリは可愛いからドキドキしちゃうわね」
ルシアンとアイリがそんなことを話している奥の方で、騒がしい声がした。
「キサラったらなんてこと!そんな地味なドレスを選ぶなんて」
「何でだよーあんまり目立たなくっていーじゃん」
「なんてこと!ちょっとアイリ?!いるのでしょう?あなたどんな育て方をしたの?!日頃から思っておりましたが、レディーとしての自覚にかけていますわ」
「あぁーレベッカも選びに来てたんだー」
声から誰だか分かる。何かにつけてはキサラをライバル視するその女の子は甘栗色の髪に、美しい空の色の瞳を持っていた。
「わたくしのライバルとして、そのドレスは絶対に許容出来ませんわ!即刻選び直してくださいな!」
「えーダメ?ちゃんとドレスっぽいよ」
キサラが抱えているのは、ブラウン生地で、大きなリボンがひとつ付いているだけの確かに他に飾り気のない地味なものだった。
「あー、ごめん、レベッカ。これはぼくが悪いや。キサラに選ばせた時点で」
「え」
「ぼくがちゃんとしたの選ぶからさ。なんなら手伝ってよ」
「なぜ、ライバルであるキサラのドレスなんてわたくしが選ばなくちゃいけないのですか?」
「ま、ま!そういわずにさ。ね?お願いだよ。レベッカのセンスならこんなキサラでもお姫様に大変身、でしょ?」
「そ、そりゃ、わたくしのセンスは流行の最先端をいっておりますが、でもキサラは………」
「あ、それ助かるわー。レベッカちゃんお願い」
「ら、ライバルからお願いされては仕方ありませんね!ライバルとは時にお互い協力し、切磋琢磨してこそその絆は深くなると言うものです。仕方ありませんが!このわたくしがお手伝いさせていただきますわ。仕方ありませんけどね!」
「わーありがとーレベッカ」
「感謝なさい、キサラ!おほほほほ」
高笑いしながらドレスを1枚1枚選び出すレベッカに雛のごとく後ろにくっついていくキサラ。アイリは微笑ましげに二人を見送ると、ルシアンのもとに戻ってきた。
「キサラとレベッカ?」
「そう。相変わらずだよ」
「レベッカったらほんとキサラのこと好きよね。」
「だからもう、キサラ預けちゃった」
毎年二人の選ぶの本当に大変なんだよねー。ふぅ、と肩をすくめる。自分を飾るために何かを選ぶなんてことをしてこなかったために、とくそういった服の好みがなく、またふたりともスレンダーな体型のためなんでも入るし、大概のものはなんでも似合う。
「ユーリだけになってくれたら、苦労も半分だからいーわー。」
「逆だったらよかったのにね」
「?」
「男の子と女の子」
「男になったら、二人とももうただのタラシのイケメンだよ。ほら、レベッカが真っ赤になってる。どうせキサラがまたなんかいったんだろうねー」
さて、とアイリがその、反対側に散っていたユーリのそばにいく。その、隣に人影があった。ユーリはそれに気付いてか気付かずか、一緒に並びながら興味なさげにドレスを見るともなく見ていた。
「あ、ツィツィーリアだ」
「誰に話しかけてって…………え?!はぁ?!うそお前いつからいたの?!」
ユーリは飛び上がり、いつの間にやら隣でたっていた背のすらりと高い少女を見上げた。ひとつに結わえられた飴色の髪に、橙の瞳は無表情に二人を見下ろしていた。
「ツィツィーリアもドレス選びに来たの?」
「…………………」
「そうなんだ。決まった?」
「…………………」
「うーん。ツィーは本当にきれいな子だからね、なんでも似合うと思うよ」
「…………………」
「照れてるの?やだ、本当に可愛いなぁーツィーは。」
「…………………」
「ぼくが可愛いって?ありがと。でも、ツィーのが何倍も何倍もかわいいよ」
「いつも思うんだけど、お前ほんとにツィツィーリアのいってることわかんのか?」
「分かるもなにも、ツィーちゃんと喋ってくれてるもん。ね?」
「…………………」
「なんなんだ…………」
耳を澄ませても、口元を見ても会話をおよそしているとは思えないツィツィーリアと、何故かそのいっていることが分かるアイリ。これは何を言っているか理解しているアイリが凄いのか、アイリにだけ分かるようにしているツィツィーリアが凄いのか。
「そうだツィー!もしドレスが選べて手が空いたらさ、ユーリのドレス選ぶの手伝ってやってくれない?」
「…………………?!」
「はぁ、お前、何言って………」
「無理じゃないよ!ツィーならきっと素敵なドレスをユーリに選んでやってくれるって思ってる。だってほら、ユーリって見た目こんななのに、ガサツでしょ?まともなドレス選んでくれなくて。でもぼくもオトコノコだからさ、そろそろ女の子にどんなドレスを選んであげていいか分かんなくて………。その点、ツィーなら綺麗だし可愛いしセンスもいいから安心だよ!ね、お願い。こんなことお願いできるの、ツィーだけなんだ」
「………………、………………………っ」
「おい、ツィツィーリア、断れ、断ってくれ。あたしはあんたと意志疎通ができ、」
「わぁーありがとう!ツィツィーリア。こんどお礼に一緒にお茶しようね!」
「アイリ、このくそやろぉぉお!」
わめくユーリをその場に残して、アイリはまたルシアンのもとに戻った。ルシアンは先ほどマッカーサが選んだドレスを脇にかかえ、彼と共に部屋を出るところだった。
「決まったの?」
「やー、ツィツィーリアがいたから任せてきちゃったよ」
「それでユーリの絶叫が聞こえてきたのね。」
「なんであんなにいやがるかな?」
「うん、多分アイリにだけはわからないわ」
ルシアンと一緒に部屋を出ながら、アイリはいつになく朗らかな気持ちで伸びをする。
「二人のドレスを選ばなくていいなんて、なんか夢みたい」
「毎年、本当に大変だったのね」
「まぁねー。でも、何より嬉しいのはさ。今年はこれで、二人のドレス姿を心から楽しみにできることだよ」
へへへ、と照れたように笑うアイリが、その時は年相応の男の子のように見える。ルシアンはマッカーサと目を合わせ、微笑んだ。マッカーサは見た目に違わない優しそうな瞳で、
「なんか、あれだね。ちょっとお父さんみたいになってるよ」
「え、なにそれ。フケたってこと?!」
やだー。お肌のお手入れもっとちゃんとしないとー。なんて言っているアイリのそばをすり抜け、試着室に向かう。
「見た目の話ではないんだけどな」
「照れ隠しよ」
そんな台詞が聞こえてきて、アイリは気まずげに唇をとがらせ宙を見上げ、ルシアンの反対側を歩いていった。
「さてさて、ここまできたのだがマチちゃんや」
「なんだい、にぃちゃん!」
4学年の試着室の前。そのふたりの生徒は、仁王立ちをして部屋のプレートを睨む。一人は男子生徒で、一人は女子生徒だ。ふたりの顔つきは全く一緒で、着ている制服と身長だけが違うという出で立ちだった。双子と言うやつだ。そして、この学年で双子は一組しかいない。栗色の髪をもち、それをポニーテールにした女の子の方は、自分よりも小さな位置にある男の子を覗きこむように身体を屈める。
「えぇい、屈んでくるんじゃない。」
「だってにぃちゃんちっちゃい」
「おまえが無駄にデカいんだよ!くそ、なんで双子なのにこんなに違うのだよ!」
「顔はそっくりだよ」
「それだけなのだよ!なぜ俺に出ない、長身の遺伝子よ」
「それはもう無理な話だな、コーディにぃちゃん」
マチと呼ばれた少女は、4学年でも一番の身長を誇る。女子の方では背の高い方に入るキサラでも頭1つ分違う。レオやラディオに並ぶ。対してその双子の兄の方は同じ栗色の髪を短髪にして、その気になる身長は160にもいかない。
「まぁ、なんでもいいのよ。さて、マチちゃんや。我らが新聞部がここまで来た、その理由は分かっているかな?」
「うん、あれだろ。気になる女の子のドレス事情、だよね」
「そうだ。俺たちはそれで1枚、記事を書かなくちゃいけないのよ」
「や部長は別に、その内容じゃないといけないみたいなことはいってなかったと思うんだけど。」
「うるさい。俺が書きたいのよ」
「結局自分の理由じゃんか」
「さて、行くか」
ディーラが大股で1歩踏み出し、その両扉のノブに触れた。後ろのマチが慌てたようにその肩を引く。
「いやいやいや!にぃちゃん、なに考えてんの!ここ女の子用の試着室ですけど」
「あぁ、分かっているよ。だからちゃんと準備はしているよ。」
肩に、おかれたマチの手を払いながら、懐から何かを取り出して頭に被る。そして制服のパンツに手をかけ、脱いだ。
「うひゃ?!にぃちゃんなにしてんのさ、こんな公共の場でパンツいっちょう!」
「バカモノ!見てみろ、パンツじゃない!」
「……………………。」
マチは、目の前の光景に絶句する。
双子の兄として、尊敬していないと言えばうそになる。ほんの少し産まれたタイミングが違うだけなのに、その魔力には天と地ほどの差があった。コーディがT級Aの実力を有しているのに、その双子の妹である自分はB級Bだった。身体は大きい分、兄よりも体術的なめんでは秀でているのだが、それでも一般に比べて、なので実質自分には何もない。だからこそ、双子の兄が羨ましくも妬ましくもあったのだが。
「ねぇにぃちゃん。」
「いいアイデアだろ」
「やー、もう好きにして?」
どこから調達したのか、制服のスカートをはいて赤毛のお下げのかつらをかぶったその姿。もう、どうして、こんな人が自分よりも強いのだろうと頭を抱えてしまう。
やけに似合ってしまうところも、なんだか悔しいものがある。
「さて、いざ出陣」
「………………………いってらっしゃーい」
意気揚々と扉をくぐっていった兄を見送り、マチはその場を離れた。
「そーいえば、課題残ってたなー」
マチが去って、しばらく。扉が再び開き何かが廊下に投げ出された。
「ばかだばかだとは思っていましたが、そこまでとは!同じT級Aとして恥ずかしいですわ」
「………………………………」
投げ出されたコーディはぷるぷると生まれたての小鹿か何かのように身体を震わせて、目の前に仁王立ちするレベッカや無言で殺意の視線を送ってくるツィツィーリアに懇願する。
「た、頼む。記事にしたいんだよ…………ドレス、みせ、ぐはっ」
「女装して女の子の試着室に乗り込んでくる無礼な輩にみせるドレス姿はありません。」
「少しでいいのだよ!記事に、魔女っ娘新聞にのせるんだよ…………」
「あぁ、女の子を見た目で評価する卑猥な新聞ですね。ならなおのことですわ。そこに転がって反省してなさいな!」
ツィツィーリアがレベッカを室内に迎え入れて、無言のまま勢いよく扉を閉めた。
誰も通らない廊下で、コーディは受けたダメージが大きいのか、まだ起き上がらない。
「お、おい…………。大丈夫か?誰だ?」
聞き覚えのある声にゆっくりと顔をあげると、まず視界にはいったのは派手な赤髪。目立つ金色の瞳。4学年が誇る最高クラスの魔術師ジャスラだ。
「お前、コーディか?!何やってんだ…………」
「ミッションインポッシブッていたんだが、任務は失敗したのだよ。今はターゲットから受けたダメージが大きすぎて動けんのよ。」
「任務って……………お前、まさか。」
コーディが、野垂れ死んでいる部屋のプレートを見て、目を丸くする。
「あぁ、敵は強大すぎた」
「やぁ、バカだろ」
「ほんと、バカよね」
コーディを助け起こしているジャスラの目の前で再び扉が開かれた。びくっと身体を二人して震わせる。しかし、そこに立っていたのはレベッカでもツィツィーリアでもない。ルシアンだった。
「もうちょっと他の手があったでしょうに」
「あぁ、ルシアン嬢ではないか。や、記事のためならどんな犠牲をも厭わんのよ。」
「殴られたところだして。……………記事のため記事のためって、たまには本当のこと言ったらどう?」
「な、なんのことだ。」
「あなた、マチのために隠し撮りしようとしてたのでしょう」
「む。」
じわじわと青くなりつつあるその左目に手を添えながら、ため息混じりに言った。
「なんで覗きがマチのためになるんだよ」
「他の女の子がどんなドレスを選んでいるのか偵察に来ていたのよね」
「……………………むぅ。」
そういえば、とジャスラはコーディを支えながら去年を思い出す。そういえば、毎回彼女はあまり目立たない地味なドレスを選びがちだった。背が高いから、もっと華やかなドレスでも似合うだろうに、と思ったのを覚えている。
「あやつは、顔こそはルシアン、貴様や素晴らしい美脚のキサラ、隠れ巨乳のユーリに敵わないかもしれない。だが、あやつは決して顔が醜いわけではないのだよ。だが、何度いっても目立つのは背だけでいいと抜かしてまともなドレスを選ぼうとせん。スタイルだって背が高い分素晴らしいプロポーションだし、胸だって美乳というやつだ。形がよい。だから何だって似合うんだと見せてやりたかったのだが、ワレではやつのドレスは到底選べない。だからこそ、貴様たちのドレスを盗み見て、選んでやろうと思ったのだが……………」
「だからって手段が突飛すぎやしないか」
握りこぶしをつくり、悔しげにそれで涙を拭く。
女装したまま。
手段がなんであれ、片割れの妹のためにしたことと思えば同情の余地もあったのだが、いかんせん、その姿格好が笑いを誘っていけない。
「コーディがそこまで言うなら、わたしが一緒に彼女のドレスを選んであげるわよ。」
「なんと!流石は神様仏様ルシアン様だな!」
「これ以上貴方に試着室忍び込まれたらたまらないから」
「むぅ。」
途端にそっぽを向くコーディにやはり妹のためにというのは言い逃れで、メインはやはり記事の方なのではないかと勘ぐる二人。
「よし終わり!それじゃ、コーディ、マチのことは任せなさい」
「や、ルシアンよ!せめて誰がどんなドレスを着るのかだけでも教えてくれんか!」
ジャスラは懲りないやつだなぁ、と言いながらも頭にキサラの姿がかすめ、自然とルシアンの次の言葉を待つ。
「ダメよ。当日のドキドキを楽しみにしている人がいるから」
だからあなたたちも、おとなしく待っててね。
ルシアンの美しいまるで聖母のそれのような微笑みをみて、見とれない人間はいない。二人はしばしその場に立ち尽くし、やがて我に返ると顔を見合わせ仕方なしにその場を離れた。
交流会はあと二日に迫っていた。
…………そこは、薄暗い校舎裏のようだった。
『あ、…………ま、って…………らめ……………ひぁぁっ』
高い声。女のようだった。艶やかなその声は溢れる快感に翻弄されているようで、まるで呂律が回っていない。腰元にわだかまるドレスが、激しい衣擦れの音を発する。
『なんだよ、嫌だっていってるわりには、びしょびしょだぜ?期待してんだろ』
対するのは、その女をひたすら責める男の声。スーツのネクタイをゆるめ、首もとと胸元をさらし、楽しげに弾む声は、女の反応を楽しむためにひたすら性感帯を愛撫する。
『そ、んなこと、ない……………ぅぅうんっ』
その影で、淫らな声をあげ、絡み合う二つの影。耳元で聞こえる低くて官能的なその声。自然と身体が反応してしまうのか、剥き出しの白い肩が闇の中でぴくぴく跳ねる。
『ナニいってんだよ。こんなやらしぃ音だしといてさぁ……………』
『ひぁぁあっやらぁ、はげしくしないれぇえっ』
一際甲高い甘い声をあげて果ててしまったその女を見下ろして、男はにやりと笑う。芝生に広がる髪を一房とり、口付けた。
『お前はもう、俺のものだ…………。』
笑う男は月明かりに照らされて、赤い髪をさらりと揺らした。
と、ここまで考えて、ヒサメは思考の糸をプツリと切って、瓶に全て納めきった。きゅっ、と小瓶の蓋を閉める。
「いやァーこんなことぉ、あのへたれな男が言うとは思わないんだけどなァこれもぉ依頼だからァ」
湖のそば。凪いだ湖面がキラキラと輝く。それを視界に入れながら陽当たりのよいベンチに座って、®指定小瓶製作活動に専念するのは、夢見部の白い魔女、ヒサメだ。
「学年が下の子達ってぇ、あんな男でもイケイケに見えるんだなァ」
たった今仕上がった小瓶にピンクのラベルを貼りながら独り言をいう。ピンクはノーマル用®指定。®指定はついているけれど、お気づきだろうか、®18ではないので、どの学年でもその小瓶を入手することができる。
「はァー依頼の分は終了ぉ。妄想するのにも疲れたしぃ、ちょっと寝ようかなァ」
ヒサメはベンチに身体を預けると、木漏れ日の隙間から空を見上げる。今日は本当に天気がよく、この天候は二日後まで続くらしい。パーティの日には綺麗なつきが拝めるだろうと天文部の人間がいっていた気がする。
「ネタ集めに出るだけだからァ、天候関係ないんだけどねぇ」
妄想瓶が自分の全て、生き甲斐といってもいい。
「ヒサメじゃん」
「アァ、イトマァ?」
空をあおいでいたのを、後ろから覗きこまれる。ちゃらちゃらした雰囲気のその男は、色気があると定評の笑みを浮かべながら、となりに座った。
「なァによぉいま、休憩中なんだけどぉ」
「あぁ、妄想瓶作ってたのか?」
「まァねぇ。」
「俺にもつくってよ。妄想瓶。小動物系淫乱女子が可愛くヤられてるのがいいな」
「まぁいいけどォ。あんたわざわざこんなの頼まなくてもォ、ヌけるじゃない。」
「…………………っ!な?何いってんだよ」
「だってぇ、女の子がのセフレなんていぃっぱァいいるでショォ?」
「あ、あぁ女か………モチロン」
「それに女の子だけじゃないんでしょお?」
「っ?!」
明らかに顔がこわばったイトマを見ながら、言葉を続ける。
生粋の女の子好きの自分が、男に迫られているなんて、考えたくないのだろう。ましてや、すでに奪われているなんて。
「やぁ、流石はイトマですなぁ。男にも女にもモテるとかぁ」
「な、そ、それは誤解で!」
「え、一緒のベッドで寝たことが、それ以外のなんの誤解をうむっていうの?」
「……………………くぅっ」
悔しげなその唇が全てを肯定していた。
「イザークは優しい?」
「あ、い、答える必要はないだろ!」
「いいじゃん答えてよォ、次回作の参考にしたいからさァ」
「俺を妄想のネタにしないでくれ?!」
女の子を取っ替え引っ替えして弄んでいた男とは思えないほど真っ赤になった顔を、ヒサメにさらす。これがかつては不敵な表情で、甘い声で、男らしくて優しい手つきで、数々の女の子をモノにしてきた人間か。それが物珍しくて、ついまじまじと見てしまう。人間、こうも変わるのかと思わせるには十分だった。
「あんた、幸せなんだねぇ」
「はぁ?意味わかんないんだけど」
「俺が幸せにさせてるからな」
またしても後ろから声が聞こえてきて、イトマに黒い影が覆い被さる。
「心も、もちろん身体も?」
「うる、うるせぇよ!だまれ、イザーク!」
黒に近い、深紫の長い髪を1つでくくって、背中に流している。かなり長めの髪なので、肩の辺りからのし掛かったイトマに流れていく。その髪を掴んで引っ張ってやる。
「なんだ?キスでも欲しいのか?欲張りさんだな。」
「うぜぇ!そんなことあるわけないだろ?!」
ヒサメは二人の会話を横で聞きながら、こいつもかわったなぁと感慨深くなる。どちらかと言うと、学年のなかでも極度の人嫌いで変人、無口、生ける人形とまで言われたこのイザーク。この4年間会話したことないっていう生徒も少なくない。確かに比較的イトマと一緒にいるな、と思ってはいたがまさかいつの間にやらくっついてるとは思いもよらず。しかも、イトマといるときだけやたらと饒舌になる。しかも、なんかウザいくらいにホストっぽい。
「我慢しろよ?夜になったらイヤってほどしてやるんだから」
「お前もう黙ってくれ」
「ちょー愛されてるじゃないですかァ」
「お前も黙ってくれ」
頬をつつかれて、うるさそうにはねのけるがイザークをどかせようとはしない。この状況に慣れているのか、許容しているようだ。
「愛されてるなァ」
「やらんぞ」
「いらなァい。でも、ネタにはほすぃ。あはァん」
こんな美味しいもの、ネタにしない方が間違っている。他の同人雑誌メンバーにも教えてやらないと。映像にして二人がいがみ合いながらも身体を繋げていく妄想に、我慢できない快感を感じる。
一人、頭の上に花を咲かせるのを、少し引き気味でかつ嫌そうに眺めてしまうのはイトマだ。イザークはなんだっていいようで、抱きついたその髪に頬刷りをしていた。
「でもォ、わたしィを警戒するよりもっとしなくちゃいけないの、いるよねェ?あ、噂をすればァ」
3人がふと、目線を前にすると聞いていたかと言うくらいのタイミングで人影が1つ見えた。
途端に、イザークが人殺しの目になる。こいつ、殺す、が言葉に出なくても瞳に出ている。
「イトマ先輩ー!」
「げ、ユリウス」
「もう、先輩!こんなところにいたんスか?探しちゃったじゃないでスかぁ」
「な、なんか用か?」
犬の耳と尻尾が生えていたら、今頃ぶんぶん千切れんばかりにふって、耳は喜びに後ろにぺたっと流れていたに違いない。嬉しげな表情を浮かべて、ユリウスと呼ばれた少年がイトマに駆け寄る。思わずおすわりと言ってしまいそうになる。
日光に浴びてキラキラと眩しい金色に近い茶髪と、その髪の色に似た瞳がイトマだけを見ていた。
イトマはユリウスの下心を知ってか知らずか、だがあまり後輩と言うものに好かれた事がないのだろう、身体を引き美味にしながらユリウスに応対する。
「いーぇ?何でもないスよ?ただ、先輩のにお、気配がしたもんだから身体が疼いて疼いて。思わず来てしまいました!」
「そ………………そうなの」
「今から二人きりで、ダンスの練習しましょうよ!今度の交流会、ぜひ先輩と踊りたいなぁ。先輩、どんなドレスコードにするんスか?スーツですか?燕尾服ですか?それとも軍服?でも、どんな先輩でも似合いすぎて可愛いくて、脱がしが……………素敵なんでしょうね」
イトマよりも頭ひとつ分もの背丈を屈めながら、その手をとろうとした。が、やはり後からその手を払うのはイザークだ。
「汚い手で、イトマに、触るな」
「あはぁー?先輩こそ何イトマ先輩は自分のモノアピールしてるんスか?見苦しいスよー」
「イトマは俺のものだ」
「えへへへぇ?身体は先に貴方が頂いちゃったかもしれませんけどー心はぁ、オレが頂きますからねぇ。」
「身も心も俺のものだ。」
「ぅはぁ、うっざいっスねぇ?イトマ先輩俺のことォ、好きっすよね?こんな先輩のこと身体しか見てないような変態さんより?」
「おま、おま………えら、頼むから、話ながら俺の身体を触る、なぁぁ!!」
二対の手が、イトマの身体をまさぐる。不本意ながらも性欲には勝てない彼はそれだけでも快感を拾ってしまって、ぴくぴくと身体を震わせる。手足で振り払おうにも、二人してその動きを封じてくるから抗おうにも抗えない。
「お、おいヒサメ!助けろよ!!」
「え、鼻血?出てないよ、気のせいだよ。ちゃんと見てるよ、すっごく美味しいよ」
「このばかやろお!ぅっひゃあ?こら、あ、も!お前らぁ」
「いーじゃんいーじゃん?先輩。このまま部屋いきます?もちろん二人っきりで。交流会のリハーサルしましょうよ。部屋で」
「お前には渡さない」
「優しくしてあげますよ?こんな人なんかより、気持ちよくし、て、あ、げ、る」
「…………………っ、ふぁ」
ヒサメの視線が釘付けになり、とうとう鼻血を止めることもせずに垂れ流しになるころ、イトマが快感に負けて叫んでしまいそうになった瞬間、彼にようやく救いの手が、差しのべられた。
「おい、ユリウス。」
「はぁ?誰なんスか…………………ち、ラディオ先輩」
「ラ、…………………ラディオぉ?」
そこに立っていたのは、氷の貴公子と名高い4学年屈指の氷の使い手、ラディオ。ユリウスも一目置いているだけに、嫌々ながらもイトマを弄る手を止めてラディオに身体を向けた。
「さっき、経済学のエヴナ先生が呼んでいたぞ。課題、てきとうに出したそうだな」
「ち、あのハゲ…………いいとこだったのに」
「ほんとよぉ!ラディオのばかぁ!いまから美味しいサンドウィッチの時間だったのに!」
「そんなこと知らん。だが、こいつを連れていかないことにはエヴナが交流会は出させん、と叫んでいた」
「なんスかそれ!くそ、あの経済学のくせに筋肉脳のバカ講師!俺とイトマ先輩の『イケない仮面舞踏会~仮面どころかドレスも脱げちゃってアハァン~』の邪魔をする気か!?」
「なにぃ?その安っぽいAVのタイトルみたいなのぉ」
「はやく行けよ。お前のせいで、ユーリが課題作成に捕まってんだから」
ラディオが髪をかきあげて不機嫌そうにそう言う。なるほど、エヴナも考えた。人質をとっておけば彼は必ずユリウスを連れてくる。
「ユーリ先輩がぁ?どんくさいっすねぇ。逃げればいいのに」
「誰のせいだ。はやく行け」
「何?ユーリくんとな?!」
「あ、兄貴」
その時、茂みからざばっと登場したのは、ユリウスの兄、クラウス。ユーリの名前を聞き付けたのだろう。
「ユーリくん!ぼくと一緒に踊ろう。そしてそのヒールでぼくを踏みにじっておくれ!あぁ、なんて甘美な!はぁはぁはぁはぁ。」
ユリウスとそっくりな爽やかなイケメン風の顔を紅潮させて、ここにはいないユーリに妄想する。ただの変態だ。
「ユーリは今ここにはいませんよ。それに、すみませんが、ユーリはもう俺と約束してるんです、先輩。」
「なに、いないのか、ユーリくん。それは残念だ。……………して、君がダンスのお誘いを彼女に受け入れてもらったと?」
「……………………もちろん」
「はっはっはぁ。嘘は行けないねぇ、嘘は!彼女がそんなこと受け入れるはずがないだろう!」
「……………………そうだとしても、あんたとはぜっっったい踊らせないので」
「ふふふふふ。なんとしてもぼくは彼女に踏まれたいんだ。悪いけど、邪魔はさせないよ」
「ユリウス、お前ほんとはやくいけ」
ラディオは妄想して荒い息をはきはじめたクラウスを無視して、弟のユリウスに苛立ち混じりにいう。ラディオが苛立ちを露にするのは、本当にこのクラウスがユーリに絡んだときだけだ。ヒサメは珍しそうにラディオを眺める。
「ち、ラディオ先輩、しつこい。だからモテないんですよ。仕方ない、この蕩けたイトマ先輩を拉致監禁してから向かいます。」
「絶対、お前の好きにはさせない」
まだ身体を撫で回されていたイトマはもう一人では治められないほどに蕩けていて、なかなか同姓ながら悩ましい表情をしていた。ヒサメはそれをしっかりと脳裏に焼き付けておく。イトマは、ユリウスと背後にいるイザークとその身体を奪い合われながら何処かに連れ去られていった。どうせ何処かの茂みのなかで致すのだろう。ヒサメは少しの間を置いて、その後ろを追っていった。
「うるさい。絶対行くんだぞ」
「わっかりましたっスー」
その背中を見送り、ラディオもその場を立ち去る。
クラウスはヒサメとイトマが寛いでいたベンチに腰かけ、足を組んでそらを見上げた。
「どいつもこいつも交流会前だからって浮かれテンなぁ」
「そりゃあ、一年に一度のもんだからね」
「けっ、こちとら仕事増えてたまンねぇんだっての」
クラウスの後ろから声がして、顔を出したのは制裁会所属、第3班班長のザラッドだ。
「いーじゃないのー。それが学生の本分ってもんでしょうが」
「てめぇはもうちょっと慎みを持つべきだナァ」
「きみは制裁会の仕事やってるときと、今となんでこうも性格が違うんだ」
背後からその頭のつむじを睨み付けながら、舌打ちと、このど変態と言葉を吐き出すとクラウスのとなりに座る。
「覚悟しとけよ、今度は絶対変質者の容疑で制裁会がしょっぴいてやんかンな。」
「ははは、きみにそんなことできるのか、見物だね、楽しみにしているよ。まぁ、せっかくの年に一度のお祭り騒ぎなんだ、たまには制裁会のことは忘れて、羽目をはずして遊んでも大丈夫だと思うよ?」
どうだろうか?と隣から腕を伸ばして髪を撫でてくる手を払い除けてやり、横目でその腕を下ろすのを確認してから、言った。
「俺は絶対、去年のことは忘れないかンなァ」
「ぼくだって忘れないよ?また、ぼくを縛ってよ」
捕まえてよ。とその耳元で囁くと、クラウスはリップ音を残し、去っていった。
「…………………どいつもこいつも、浮かれてやがんナァ」
音が残る、耳元をごしごしと擦った。
交流会まであと一日。
その部屋は、緑で溢れていた。丸い円形の談話室の真ん中に大きな太い幹が貫いている。この巨木は、塔の象徴であり、完全に貫きその上に誇らしげに葉を広げている。部屋のなかも、植物の塔の名に恥じないように至るところに観葉植物があり、その植物たちを生かす清流が塔のなかを血管のごとく走っている。談話室は最高学年である7年生が、安らかな色彩の家具と7アンティークに囲まれ、溢れた緑に心を癒されながら、ソファーに座って本を読んでいたり部屋の枝々にかけられたハンモックに横たわっていたりと寛いでいた。窓を開け放していても木漏れ日と、清々しい緑の香の風が流れ込んでくる。
なるほど、この塔で暮らす学年は必ず大人しく、他の塔の学年よりも余裕のある穏やかな学年になるのだが、それが頷ける塔の造りだった。
しかしまぁ、例外も居ないわけではないので。
「ちょっともう!あり得ないんだけど、ほんっとあり得ないんだけど!なんであんたまだドレスコード決まってないのよ!」
「う、うるせぇ!俺はこういうのキライなんだよ!」
「あんた分かってンの?もう明日よ!交流会はあ、し、た!」
「分かってるよ!だから頭下げて一緒に選んでくれっていってるんだろうが!」
「だからなんでもっとはやくお願いしないのっていってんの!ねぇちょっとありちゃんきいたぁ?!」
「ふふふふ。リヒトったら照れちゃってたのよね」
最高学年である彼らは、いわばこの交流会の主賓でもある。今年が最後ということもあり、したの学年から彼らは客という形で招かれるのだ。セッティングもその日の司会進行もなにもしなくていいので、その分力も入り、毎年凝ったドレスコードになってしまう。
ジルコニアは自分よりも背の低い相棒兼この度無事に恋人となった男をため息と共に見つめた。当の本人は不本意そうに腕を組んで、男らしい眉毛と眼力で上目遣いに睨み付けてくる。
かわいさ余って憎さ百倍とはこの事で、ジルコニアは思わず拳でその頭をごんっと殴ってやる。痛みに悶え苦しむリヒトにふん、と鼻をならした。アリスは、それをみてもとくに何も言わずにただただにこにこと笑っている。
「あんたってやつは、ほんとにもう」
「……………………っ、っ!」
「って言ってもなぁ、もうそんなに男子用ドレスコードって残ってるのかなぁ」
「スーツでいい、毎年そうしてきたからな」
ため息混じりで諦めたように、頭をなでなから不貞腐れたように呟いた。毎年ある程度趣味の悪くない小さくてもしっかりと鍛えた身体のラインが浮き出るような、スーツを着ていたような気がする。
「でも、最後ではもうちょっと違うの着たくない?」
ふふふと笑顔で聖女が迷える子羊に言う。リヒトがう、と言葉に詰まった。なるほど、彼もそう思ったからこそ、こんなギリギリまで悩んでのだろう。そしてようやく、自分の力では選べないからとジルコニアを頼ったのだ。そう思うと、なかなか可愛らしく思えてしまうのだから、いけない。
「仕方ないねぇ、今回だけだからね?」
「今年で最後なんだから、当然今回だけじゃん」
横からちゃちゃを入れてきた人物を睨む。この、生意気な言葉遣い、間違いない。見なくてもわかる。
「アベル」
「アベルくん」
木の葉の影からその長い身体を覗かせ、憎たらしげな笑みを浮かべている。その背の高い身体にとなりに並ばれたら、小さなリヒトなんてさらに小さく見えるに違いない。だからこそリヒトは少しアベルを睨み付けながら、なんのようだ、と低く聞いた。あまりそばには立って欲しくない人物なのだが。
「いーや、ちょっと突っ込ませてもらっただけだよ、気にしないで」
「気に障る言い方をするなよ」
「あら、リヒトくん怒っちゃいましたか?」
リヒトの頭を大きな手のひらでぐりぐりと撫で付ける。強い力ではねのけてやったら、笑いながらその手を擦った。少しいたかったらしいが、気にはしない。
「だって、そうだろ。俺達もうここ卒業しちゃうじゃん。今回だけだからね、とか意味わかんないだろ?そういっただけ。大体あんたらも分かんないよな、なんでこんなギリギリになって付き合ってンの?もう終わるじゃん」
「あんたねぇ、言い方しなくてもいいじゃない。なんなの?ケンカでも売ってるわけかしら?受けてたつわよ」
「俺としても、ジニーとは戦えるうちに戦っておきたいねぇ。付き合ってくれんの?」
「表にでなさいな。」
火花を散らせながら互いににらみ合う二人。魔法に特化したジルコニアと、体術、剣術においては学校でも右に出るものはいない、と言われるアベル。なるほどこれはなかなか面白いカードになりそうだ。
「こーら、ジニー?ダメでしょう。やっとこさくっついたんだから卒業したとしてもリヒトをもっと大事にすればいいだけの話じゃない。それに、アベルったらお姫様が心配だからって、みんなに当たり散らさないの。」
にこにこと、美しい笑顔を浮かべながら飲んでいた紅茶のマグカップを手に包み込み柔らかい声で二人をいさめた。図星を刺されたアベルは、むっとした顔で彼らから目をそらす。
「お姫様って、あの4学年にいる無鉄砲そうなお嬢様?」
「あぁ、いたな、そんなの。この前の地質調査の時はいなかっ、」
「そんっっな危ないのに、行かせられるわけがないだろ!」
リヒトの言葉に被せるように、怒鳴るように言葉を返すアベル。日頃からニヒルで通している彼が、まさかこんな風に声をあげるとは思わなかったので、びっくりするジルコニアとリヒト。アリスは相変わらずにこにこと笑っていたが。
「おじょーは行きたがったよ?!だけどそんなの危ないだろう?!絶対ダメだって言ってやったよ!」
「ってか、T級入りしてないやつは行けないよな?」
「でもあの、お嬢のことだ、T級入りしたら絶対いくに決まってンだ。怪我したらどうする、だれがお嬢を守ってやるんだよ、絶対あのバカのことだから無鉄砲に首突っ込んでいらんこと招くに決まってンだよぉ!それだけじゃねぇ、絶対俺がみてないと、あの女アホだから誰か知らん男に唆されたりするんだよ!そんなとこだけ純情で人を疑うってことを知らねンだから!」
いつものキャラはいずこに。一歩高いところから回りを見下ろしてにやにやと笑っているような男が、卒業が近づいたというだけでここまで取り乱している。まさかここまでとは思わずに、言葉を無くして見守っていると、はた、と動きが止まった。
息を飲んで沈黙を二人が見守っていると、唐突に頭をあげて、一言。
「俺、卒業しない」
「おぃいいい?!」
「まってまってまって!はやまらないで?!そんなことしちゃ、二度と卒業できないわよ!」
「お嬢は、おれがいないとダメなんだ!」
「バカじゃないのバカじゃないの?!この男ばかなの?!」
「いかせろぉ!俺をお嬢のそばにいさせろぉ!」
「お前はもう卒業なんだよぉ!」
「俺がいない間に、あの一見美少女のお嬢が誰か他のやつに奪われたらお前、どう責任とってくれんだよ!3年だぞ3年!!3年も俺はそばにいれないんだ!」
「知らないわよ!」
「おい、アリス、なんとか説得してくれ!」
その両腕を二人でつかんで止めて、尚もそんな騒ぎを余所に寛いでいるアリスにむかってリヒトが懇願する。なんとしてでも留年は止めねばならない。
そもそも王立であるこの魔法学校、魔力をもっていれば誰でも入学は可能だが、卒業はそうはいかない。一度でも留年すれば、王の顔に泥を塗ったとして二度と学校から卒業証書がもらえないのだ。
「あ、うーん、わかった、ありがとートリシャ。」
そんな騒ぎを余所に、本当に本当に彼女は余所にしていつのまにかそばにいたトリシャと呑気に会話していた。
「あ、アリスぅ?!」
え、呼んだ?とばかりににこやかに振り返り、暴れるアベルに必死にすがるジルコニアとリヒトという現状をみても和やかな笑顔を変えないアリス。なんて図太い、と言いそうになるのをグッとこらえる。
「あ、アベル?下にねー、レベッカちゃん来てるってー」
その一言で暴れていたのが嘘のようにぴたりと動きを止めると、大きく咳払いをして、リヒトとジルコニアを引き剥がす。
「なんだ、お嬢か?仕方ねぇなぁ。」
さも、仕える主がやって来たので仕方なく渋々いくんだという顔で歩いていくアベルに二人は唖然とするより他ない。しかもいそいそと嬉しそうにはや歩きにその場を去っていく。
「さて、そろそろ本当にリヒトの服選びにいかないといけないわね。あら?二人とも何してるのかしら?ほらほら、行くわよー」
アベルの突然のキャラ崩壊についていけてなかった二人は、またしても突然暴れるのをやめて去っていったその姿に、嵐のあとの何も残らない、一体なんだってこんな目にあったんだろうという謎の虚脱感に襲われる。
だから、目の前のことにどうにか反応しようとして、るんるんと先頭にたって歩きだしたアリスの背中と、テーブルの上の飲み終わったマグカップを見比べる。そして同時に一言。
「片付けろ!」
「ふぇ?」
きょとんとするアリスにきっと罪はないのだろうけど、一人なんの損害被害も浴びてなくて、別世界にいた彼女に少しくらい当たったって、いいだろう。
片付けが出来ないのは本当のことなんだから。
そして少し離れたところで、一連の何だかんだを見守っていた二人がいて、それをボードゲームの間の肴にする。ボニファーツとアガフォンだ。二人は顔を手元の駒をもてあそびながら、ことの次第をずっと眺めていた。
ボニファーツが駒を進めながら、口を開く。
件の三人が姿を消したあとで。
「アリスは本当になんでもできる才女だが、こと片付けにかんしてはからっきしだな」
「うん」
「この前用があって部屋を訪ねたのだが、いやはやあれは魔の巣窟だな。ちょっとまて、そこはダメだ」
「待ったなしっていった。……………だろうな」
「ふむ………………なかなか次の手が打てないな。立つ鳥跡を濁さず。アリスはあと数ヵ月であの部屋をどうこうできるのだろうか」
「しらん。」
「アベルのことだが、」
「あぁ、あれは好きだって言ってるも…………」
「いやぁ、見上げた主人思いなやつだな。おれはあまりあの男が好きではなかったのだが、なかなかどうして熱いやつだ。主のために、己が犠牲になるか。」
「…………………………そうだな」
「おれにもそんな主ができればよいのだが」
「…………………………そうだな。チェック」
「あぁ!なんと!」
ボニファーツはいかにしてこの巧妙な包囲網から抜けられるかとしばらく悩んでいたが、やがて諦めたのだろう、外を眺め始めた。つられて、彼も一緒になって外を眺める。木の葉の隙間から望むのは、噴水がある中庭。光に照らされて眩しく輝く。まばらなに何人か、本を開いている生徒もいる。
「きれいだな」
ぽつりと呟いたボニファーツの言葉に、アガフォンはちらりと視線を寄越すだけで返事はしなかった。それが肯定であることを独り言のように呟いた彼は分かっている。
この景色をきっと、折に触れて思い出すのだろう、俺たちは。
こんな時代があったのだな、と。
緩やかな時間が確かにあったのだな、と。
あと数ヵ月。7年間過ごしたこの塔をもうすぐ卒業しなくてはいけないのだ。巣立ち、旅立ち、次の舞台へ。
それを誇らしくも、嬉しくも思い、だけどやはり寂しさとどうしようも言い表せない敢えて言うならば後悔のような、様々な感情が混ざりあったものが身体のなかで渦巻いて、肌がぴりぴりとぴくぴくと疼く。
ここまで来たのだ。卒業という、学生最後の晴れ舞台。これからの未来に踏み出すための踏み台に足をかけたのだ。
あとは勢いに任せて、外に飛び出せばいいだけなのだ。
なのに、恐怖感が身体を鈍らせてくる。
寂しいと言ってくる。
これからを怖いと言ってくる。
「まだ、あと少しある。まだここ、いるんだ。」
ボードゲームの駒を片付けながら、アガフォンは言った。まるでボニファーツの不安を感じ取ったかのように。
「そうだな。」
あまり喋らなくて、必要なことしか言わない彼は、時おりきつい言葉を紡いできては喧嘩になったりもした。だけど彼が紡ぐ言葉はいつも最低限だから、必要で、大事なことしか言わない。
何度それに助けられたのだろう。
苦笑しながら、ボニファーツは駒を片付けを手伝う。
「ところで、ジルコニアとリヒトは付き合っていたのか。」
「知らなかったの」
「うむ……………………うむ。」
「多分、リヒトがネコ。」
「なん、とっ!卑猥だぁ!!!」
7学年はある意味今日も平和だ。
碧の館からの帰り道、レオは校舎裏の小さな細道を通っていた。銀色の髪が風になびいて顔にかかる。鬱陶しいと髪を撫で付けて、風に逆らうように歩く。端正な顔が、少し苛立ちにしかめられた。
この細道は本来彼の4学年『時計の塔』に行くにはとても遠回りなのだが、人通りが少なく季節ごとの花が咲き乱れるこの道を通るのが彼のお気に入りなのだ。この学校の園芸部の学生は優秀である。こんなにきれいな花を咲かせるのだから。彼は花たちを横目に見ながら、道を急いでいた。
途中、木立の奥から声が聞こえた。何学年かは分からないが、どうやら男女のようだった。
明日は交流会当日だ。予想はつく。きっと、ダンスのパートナーに誘ってるに違いない。レオは見なかったふりをして先を急いでいた。もしまたこんなところで、告白されているような場面をアイリがみたら、またあのとんでもないお仕置きをされるに決まっている。
そんな告白にも似た現場を見て見ぬふりして通りすぎた。その声もしばらくして聞こえなくなる。風が強い。髪が乱される。自分で起こした風はあんなに愛おしいのに、何故か他から浴びせられる風には愛情を持てない。だけど、こうやって風に身体を当てているのは嫌いではない。ただただ、髪を掬っていかれるのが鬱陶しい。
その時、微かな声が風に乗って聞こえてきた。
また告白タイムなのか、と見回したが、ちがう。抑揚があって、滑らかで、途切れない。木々の緑が冴え渡るような美しい声と、その旋律。これは、歌だ。知らず、彼はその歌に魅せられて木立のなかに入り込んでいた。
ぽっかりと、まるで誰かの秘密基地のような空間があった。そこだけ木々は何処か遠慮しているように、その舞台の主役に場所を譲る。そして、静かにその世界の主に敬意を表すのだ。
主は傲らない。
ただただそこに存在している。
だけど、彼らにとって大事な主なのだ。
『月は風を愛でるでしょう、夜空にひとり浮かぶ白い月は、ただ触れてくる風を手離したくないのです。月は風を愛でるでしょう。甘く甘く愛をささやくでしょう』
ひとりぼっちの月の歌を歌う。彼は引き寄せられるようにその歌姫に、その世界に足を踏み入れた。今までになく、身体が軽くまるで重力がないのように引き寄せられた。
『おいで、こちらへ参りましょう。』
手を、差し伸べられて。
「おンや、あんた、魅惑消しの薬もぅとるやん。あかんやん」
ぷつり、と歌が消えた。レオは身体が弛緩していくのを感じる。ずっしりと重さが戻ってくる。なるほど、これが。
「5学年の魅了師、歌姫カグヤさん」
「そぉやでぇ、5学年は引きこもり多いから、あんまし会わんねんけど。うちのことあんた知ってるんやな」
「有名人ですから」
「サインなら百億円でどおや?」
先ほどの、別世界の女神のような雰囲気はどこに。鮮やかな赤色の髪が美しい、だけどそれ以外は別に美少女でも何でもない、平凡な女の子が目の前に仁王立ちしている。いや、普通というにはその口はあまりに大きく、身体もどちらかというとふくよかである。美醜を問うならあまり美人ではないのだろう。
「先輩はこんなところで何してるんですか?」
「え、商売。かせいどりますー」
「目当ての人を魅了するんですね?」
「そーそー。んで、暗示かけんの。あんた、なんでそんなん持ってンのー。失敗やン」
不服そうな顔をして、カグヤはレオの懐を指差す。何か入れていただろうか?何の事だろうと思いながらら唯一ポケットに入っていた、数日前アイリから貰った匂袋を手にした。
「あ、くさ。」
すぅ、と頭が冷えてくるような鼻が通るようなそんな香り。レオはなるほどと納得する。なぜ急にアイリがこんなものを渡してきたのか謎だったのだがそういうことだったのか。
「もしかして、情報屋アイリの彼氏ってあんた?」
「そうです」
「なるほどなぁ、ぅーわ、こわ!そんなん持たすなんて、ウチのことモロバレやーん。ここで会うことも分かってたってことかい。商売の邪魔しくさって、あんときの仕返しかいな。あ、わからんって顔しとんね、あんね、この薬草ね。ただの魅惑消しちゃうんよ。この木、わかる?」
一息でなんとまぁ喋ること喋ること。前半は独り言だろうか、アイリに対する愚痴をこぼしていたと思ったら。急に話しかけられる。
カグヤはぺし、といい音をたてて、その手近にあった木をたたく。何処と無く木の幹がつるっとして白く、葉が手のひらほども大きい。今まで歩いてきた道を見返ると、少し様子が違った。この空間の回りだけにこの木は存在していた。
「これ、ウチの相棒。花粉がね、魅了薬になるんよ。」
「あぁ、だからここで歌うわけですね。」
「そゆこと。んで、その魅惑消しやけど、困ることにそれ、こいつの天敵。この花粉に反応して、拮抗する香りをだすわけ。」
「へぇ」
「大方、3年に有名な薬剤師の子おるやろ?たぶんあの子が作ったんやわ。まぁ、ええねんけどね。ウチもそんなんに負けるほど弱ないし。あんたは釣れんかったけど、他のやつらは釣れたしね各学年のイケメン、美女はゲットやで。」
カグヤはぴらっと一枚の紙を出してきて、ペンでぴっと線を引く。何をしているんだろうとのぞきこんだ。すると、線を引かれていたのは、自分の名前だ。そして、見知った名前から色々書いてある。
「それって………」
「あぁ、魅了する人間の一覧。そうそう、えっーと、あいつ、ジャスラくんとラディオくん。あいつらは釣らせていただきました。ごっつぁんですわ。ラディオくんが案外と簡単に釣れてびっくりしたで。まぁ、あんたも含めあいつらみたいなんは依頼多すぎたからな、誰々にメロメロになれみたいなん絶対出来んかったから、誰からも隠れられないってしたけど」
「なるほど、そう来たんですね」
「そうそう、そうしたら逃げられへんやろ?誰かが抜け駆けしてダンスしてるとかいう状態にならンの。イケメンと美女は皆で共有、これ、ファンの鉄則やで」
「ぅわぁ、まぁ、密かに親衛隊とか、いますからね」
「そうそう、地味に一番大きい親衛隊は生徒会のやつの副会長な。イケメン過ぎて、誰もよれん。ってか、こいつはだけはあたしも避けたわー。親衛隊の守りがキツすぎて、呼ぶもんも呼べん。」
リストの一番上にある名前にグリグリと線を引く。
この副会長、本当に本当にイケメンで、それに加えてあの『金獅子』のレシア先生でさえも、これからが楽しみだと唯一誉められた実力の持ち主。卒業すれば軍の上層部に食い込み、王直属の護衛隊に配属されることが決まっている。生ける伝説とまで言われたほどだ。本来5、6年で編成される生徒会役員のなかで、わずか3年で大抜擢のすえ、書記長、会計長を経て、副会長に収まった。実力なら学校の顔である生徒会長になるべきだったのだろうが、辞退し、2年目副会長を勤めている。
いわく、自分には向かない。だ、そうだ。
確かに現生徒会長を見ていてもそうだが、実力も学力も求められるが、何よりも必要なのがコミュニケーション能力だろう。御祭り騒ぎが大好きで、誰彼構わず関わり合いになれる、それでいて、礼儀作法がしっかり出来て、場を読み取りその時々の対応が迅速に出来る。
学内の行事すべてを一手に担う生徒会。その、長が果たさなければならない責任はとても重い。
日頃は、あんなのだけど。
「あと、制裁会も手出し出来んね。制裁会長とか副長とかマジこわやもん。5番からしたの班長クラスなら余裕やけどな」
「するんじゃないですか、手出し」
「ってか、あんたらなんで制裁会、生徒会に立候補せぇへんの?4学年のT級はほぼ全員来年度の立候補してるやんか。」
カグヤが不思議そうにそう言った。
確かに立候補すれば、今後の就職活動に非常に有効になる。王都ではなくとも、地方の重要拠点での志願が有利になるのだ。
「あはは、それこそ、向かない。からですよ」
「…………………ふぅん。そんなにあの子が大事なん?」
「………………そうですね、そんなとこだと思っていてください」
レオは顎に手をかけて少しの間をおいて頷いた。
「ぅわ、胸焼けするわ。」
「両想い、ですからね」
含んだようにそう言ったレオの言葉に気付かずに、やだやだと首を降りながら、手を払う。
「仕事の邪魔なるから、あっち行き。もうすぐ碧の館での座学終わって、次のターゲット通るはずやから。」
「あんまり、人の恋路を邪魔しちゃダメですよ」
「何言うてんねん。刺激のない恋路なんて恋と違うわ。だから、お二人さんにも言っといて、どんなに悪い状況下でもチャンスさえ逃せへんかったらえーねんって。まだあんたらは3年あんねんからねぇ」
「了解です、伝えておきましょう」
レオは頭をさげ、ゆっくりとその場を去っていった。授業終了の鐘が鳴り、俄にざわめく。まだ風は大きく吹いており、その風にのって歌声が聞こえてくる。美しく、人を引き付けるそんな声。澄んだ湧き水のような清廉さ。俗世に染まらない子供のような無邪気さ。それら全てを取り込んで、彼女の声は人を魅了する。
「刺激があってこその恋、ねぇ。」
否定は出来ないね、とレオは独りごちて心の中で他の二人にエールを送る。
雨降って地固まるはどこの国の諺だったか。
学校内はざわめきはもはや胎動と化し、蠢いている。胸腔を楽しみと言う気持ちで大きく大きく膨らまし、明日にむけて放つのだ。すると、まるで身体が弛緩するようにリラックスした状態になる。今日までの緊張感が嘘のように、のびのびと手足を伸ばして、はしゃぐのだ。学校とは、生き物なのだと改めて思い知らされる。
そこかしこから高い声音が聞こえてくる。
明日はもう、待ちに待った交流会だ。
交流会前夜。時計の塔の女子階では。
「いいですこと?!今日は絶対ぜぇったいすぐにお休みなさいな!明日はお寝坊なんてできないんですのよ」
「んぅー。わかったぁー」
「ドレスはちゃんとシワを伸ばして綺麗にかけてます?ちゃんと髪は洗いましたか?あぁ、お休みになる前に肌に潤いを保つ液をきちっとぬるのですよ」
「んー、わかったぁ」
「本当に分かっていらっしゃるのかしら?キサラはそういうところ本当に無頓着ですから………アイリも苦労しているのですね」
キサラの部屋の前で、レベッカがひとしきり捲し立てていた。明日についての注意事項と言ったところだろうか。キサラは眠そうな顔をして、生返事だ。この状態だと、明日ちゃんとできるのか、不安である。まぁ、ドレス選びの二日間は壮絶なものだった。ドレスを選べばそのヒールや小物まで。自分のものならこんなに悩まないのに、とレベッカは何度そう思ったことか。
「お化粧もしますので、悪しからず」
「え、やだなぁ」
「やだじゃありませんわ」
「レベッカがそういうならがんばるけど………呼吸できない感じが嫌いなんだよね」
「慣れます。」
「頑張る……………おやすみ」
「では、また明日ですね」
レベッカが踵を返し、通路の向こうに消えるのを見送ってから、キサラは欠伸をして、扉を閉めた。おぼろに覚えていた、保湿のクリームをぬる行為を終えながら、冷えるので分厚い靴下をはき、ベッドに潜り込んだ。レベッカからもらった保湿のクリームはとてもしんなりと肌に馴染み、この時期どうしても乾燥しがちだった、はだが深呼吸をしたのがわかり、気持ちがいい。
ちなみに、今までそんなものつかったことがなかったので、使い方を聞いたら怒られた。
冷たいベッドがゆっくりと自分の体温で温かくなる。離れがたい安息の地となる。
明日はとうとう交流会だ。この数日間いかにこの学園がうるさかったか。何処もかしこもばか騒ぎだった。生徒会の人間が、準備に右往左往し、副会長の指示がなければここまでたどり着かなかっただろう。あの会長でさえ真面目に仕事していたことは、遠くから眺めていたから分かる。制裁会はいつもより取り締まりを強化しているのか、学内の見回りの数が尋常じゃなかった。委員会は所属により色々変わったが、ここ数日学内がどこかしらキレイで、国立魔法学校の名に恥じない美しい豪奢な飾りでできていた。
何処にも所属しない生徒にも、塔管理委員会から通達が来て、準備や掃除をさせられた。
それがやっと最高潮に達するのだ。待ちに待った人にとっては。
キサラは寝返りをうった。
別に楽しみじゃないわけではない。
でも、いつも何処か切なさを感じてしまう。
自分の居場所は此処ではない、もっとほの暗くて冷たい場所ではないのか、と。
ざわりと胸が騒ぐのだ。
光に囲まれるアイツを見てしまうのが、怖い。
羨ましいとか、あそこにいたいとか、そんなことを思ってしまいそうで。
「ユーリは結局選べたんだろうか。」
友人の心配をしたのは、ベッドに入り、うつらうつらと現し世に別れを告げた頃だった。
隣にいた温もりが遠退くのを感じて、とっさに腕をのばした。指先が何か温かいものに触れて、迷わずそれを掴む。微かな悲鳴をあげて、その温もりが元に戻ってきたのを感じて、安心して抱き締めた。頭の何処かで離してなるものか、とそんな思いが浮かんでいたが、それについて考えるには寝起きの頭ではどうもその思考が纏まらない。すぐに霧散してしまって、ただただ腕の中のそれを逃すまいと強く締め付ける。腕のなかでもがくのを押さえつける。
「ちょっと苦しいよ、レオ」
「どこいくの」
「どこも行かないって」
「はなさない」
「寝ぼけてるの」
「やだ」
「しょうがないなぁ…………」
アイリはまたか、とため息をつくと目の前にあった飾りに悪戯をしかける。身動きしずらいその空間のわずかな隙間に腕を滑り込ませて、両の飾りを弄くり回した。
指先でノックをするように小突いたり、くりりと捩じ込ませたり、かと思えば乳輪ごと強くつねったり。
いつもならここで目が覚めるのだが、今日はよほど寝ぼけているのか目を覚まさない。にやり、とアイリは笑うと、布団のなかで足を絡ませて素肌を擦り合わせた。そして、舌でその飾りをにゅるりも舐めあげる。
「…………………っふ、」
ようやっと目が覚めてきたのか、ぴくぴくと目蓋を振るわせ始めた。その顔を下から眺めながら、悪戯は決してやめない。むしろヒートアップさせていく。唇にすっぽりとその飾りを収めると、ちぅ、と吸い始めた。
空いた右手が脇腹のラインを撫でながら滑り落ちる。びく、と身体が跳ねた。それに気をよくしながら、ゆるりと勃ちあがりけていたそれを優しくなでさすった。
「起きないと、襲っちゃうぞ?」
「…………………っ、あ、」
「レオったらかーわいー。みて、乳首弄っただけでこんなに、感じちゃってるんだよ?この前、開発したもんねぇ。気持ちいいんだ?」
「なに……………………」
「うん、名前呼んで?あなたの大切な人は、だぁれ?」
「……………………、あいり」
「いい子だねぇ。」
肌にキスマークを落としながら、くすくすと笑う。数日前についていたであろう場所に重ねるように濃く濃く痕を付けてやる。その間も、びくびくと身体を振るわせるレオに、アイリは我慢できそうになくて、上に乗り上げた。
ところで、睨み付ける。
「起きてるでしょ」
「バレた?」
レオがむくりと身体を起こして、むすりとした顔のアイリにキスを送る。
「よく、わかったな」
「……………!、ここまでされたら起きるでしょう普通」
「アイリは起きないぞ?」
「意識ない間になにしてくれてるのさ」
レオはその細い腰を引き寄せる。素肌の胸と胸が触れ合い、さらにお互いに感じているのだろう、その象徴が絡まり会う。端正な顔が目の前にきて、アイリは見慣れているはずなのに、その笑顔に顔を背ける。顔が火照るのがわかった。寝起きのレオはどこかいつもより幼くて、可愛らしい。首に腕をかけて、顔を背けたまま、唇を尖らせる。
「今日は準備もあるんだから、手っ取り早くね?」
「出来るかな?」
「僕はがはやくイカせてあげる。」
「心強いなぁ」
レオがくすくすと笑う。そして、首にかけられた腕の柔らかい部分に唇を近づけて、かみついた。
「いて!……………ちょっと、レオ、そこ見えるところなんだけど」
「見せてるんだよ」
咬み痕をつけた後に、舌を這わせる。柔らかい肌はとても舌触りがよく、程よく甘い。
アイリは諦めたようにため息をつくと、されるがままになる。
しばらくすると、彼の艶やかな喘ぎが廊下まで聞こえてきて、交流会で早起きの生徒たちは朝から色々大変だったとか。呆れや羨望を込めての、朝から元気だなぁ、とかそんな感想を待つものがほとんど。確かにな、とアイリは揺らされながら思う。元気だよ、本当に。
もてあました朝勃ちの処理は簡単に済んだ。
肩で息をしながら、レオを抜き去ると、心なしか物足りない気がした。うずく腰を抑えながら、先にレオにシャワーを浴びさせる。先に行けと言ってくる彼の背中を押して促した。彼がシャワーを浴びている間に、簡単にベッドを片付けている。甦るのは、よくわかったな、というレオの言葉。
分かるに決まっている。あんたが寝ぼけているときは。
「違う人の名前を呼ぶんだよ」
誰かはしらない、彼だけが知る名前を。
ひっそりとその唇に乗せて、囁くのだ。
恐らく無意識なのだろう、彼自身もしかしたらもう胸のふかくに潜めてしまった事柄なのかもしれない。
シーツのシワが延びた。何事もなかったかのように取り替えた白いシーツは二人の情事の痕を隠した。
部屋に漂う気配に反して、まるでこのベッドは今まで誰もこの上で寝ていませんでした、ましてやセックスなんて、という表情をする。
アイリはそれにくすりと笑うと、そのベッドに手をついて、キスをする。そして、身体を擦り付けてやった。シワができた。綺麗なベッドをシワにして汚していく。
「あんたはもう、共犯者だよ?」
白い内腿を伝う彼の快感の象徴に、ぞくりとして背筋を震わせた。
指ですくって、弄ぶ。ねっとりとした白いもの。
長いまつげが伏せられて、朝日のなかで、その瞳が唯一の闇のように真っ暗だった。
その言葉は果たして誰に囁かれたものだったのか、アイリ自身にも分からなかった。共犯者。美しい響きだ。罪を共に背負うもの、罰を共に受けるもの。
だけど、そう。彼は共犯者なのだ。それ以上でも、それ以下でもない。ましてや、ただの家具なわけがない。
そう、舞台なのだ。
罪を露見させる。顕現させる、演じる。そんな、舞台なのだ。
知らないふりなんて、決して決してさせない。
今日は、交流会だ。
アイリはそばにあったティッシュで内腿を拭うと、レオを驚かせにシャワールームへと駆け込んでいった。
朝。
ジャスラは眠い目を擦ってぬくぬくの楽園に別れを告げる。いつもより二時間近くはやい起床。なんだって、こんなにはやく起きなくちゃなんないんだ、とぶつくさ文句を言う。因みにいつもならまた二度寝しているところだ。夢うつつにベットの温もりを感じながら意識を手放す、寝返りをごそりとうって、枕を抱き締めて幸福のため息を漏らす。なんて素敵なことだろう。
しかし、今日は起きないことには。だって…………。
「ちょっとジャスラ?!起きてる?!もう!はやくしないと準備手伝ってやんないよ!」
どんどんどん、と早朝にも関わらず、大声でジャスラを呼ぶ人間が一人。男にしては高い声音。顔をしかめて、まだ半分寝ている頭ではぁい、と返事をする。ため息をついて、起き上がって伸びをした。
だって、今日は交流会の日なのだ。
学校全体が楽しみにしていた、心待にしていた年内行事のうちのひとつ。
この日だけは、学校の起床がとてもはやい。何処もかしこもすでにもぞりもぞりと動いている気配がする。
返事をしたのに、まだ扉が叩かれるので、仕方なくその騒音をたてる人物を部屋に招き入れた。
「朝っぱらから、うる、くぁぁぁあ…」
「おはよう、ジャスラ!拳が入りそうなでっかい欠伸はいいから!さぁ、早くかおを洗ってきなよ!」
「ねむてぇよぉ…………」
ぐしぐしと目を擦るジャスラ。それも手伝って、寝起きだからかいつもより幼げに見える。少なくとも、この前の不機嫌なジャスラよりかはこちらの方がいい。アイリはそんな彼を見つめて、はぁとため息をついた。
「はやく準備しなよ。」
「あと、10分寝かせろ」
「いま、ウラル先輩から連絡あったよ。あんたのおにぃちゃんはもう起きて、着々と準備してるってさ。」
「おにいちゃん…………」
「そ。ラスダム先輩。はやくしなよ、先越されるよ」
目を擦った体勢のまま、ピタリと動きを止めたジャスラ。
「すぐに準備する。」
ばたん、と激しく扉を閉めて、奥に駆け込んでいく気配がする。アイリはもう、と唇を尖らせる。頼んでおいて、その人を待たせるとは何事だろう、と頬を膨らませた。
あの一件以来、ラスダムはやたらとジャスラに絡むようになった。顔を会わせると憎まれ口を言って嫌味をこぼすのだが、それはどうやら前のように恨みや嫉妬から来るそれではないようだった。そもそも、それまでの彼は、ジャスラの存在自体をよしとしなかったのだ、無視をしていたのだ。彼は彼なりに思うところがあったのだろうか。あの一件の芯の発端はもしかしたら、自分のなかで何か整理をつけたかったのかもしれない。
なんにせよ、ラスダムという人物は、どうやら間接的にも直接的にも二人の間の架け橋となったキサラという存在にいたく興味を示したらしく、何かにつけて現れてくる。キサラとてまんざらでもないらしく、いやに気前よくおしゃべりしていたりする。
アイリの見立てでは、恐らくキサラの方はラスダムの持つ学内でも少ない闇の属性が気になるらしく、ラスダムの方はジャスラをキサラを通して見ようとしているんだと思う。
十中八九、恋愛とかそんなのではないのだろうが、それを教えてやるのもシャクであるので、アイリはなにも言わない。
部屋のなかでごそごそとうごめく気配がする。
「もー、ぼくも準備あるんだけどさぁ」
キサラとユーリの世話をしなくていいかわりに、ジャスラの世話をすることになった。まぁすることといったら、もうドレスコードは自分で選んでいるらしいので、メイクなどくらいなので、それだけでも楽だ。だけど、めんどくさいことはめんどくさい!
部屋の奥の、ガサガサが収まって扉が開いた。大きな袋を抱えたジャスラは、照れたように頼む、というと歩き出す。更衣室は談話室のその下の階にあった。女子の更衣室の隣だ。なぜ部屋で着替えないかというと、年に一回の交流会に必要な道具を持っていない生徒がほとんどで、大半が男子だ。なので、男子だけは特別にこの日のために必要なものは貸し出しを行っている。
「そういえば、ジャーちゃんは今年どんなドレスコードにしたの?」
階段を降りながら、アイリは後ろにいたジャスラを振り返る。ジャスラは頬を少し染めて、軍服、といった。
「軍服、かぁ……………似合わんね」
「わ、わかってるよ!!!」
「でもま、おにいちゃんとも仲直りしたもんね、将来のことなんも考えてなかったジャーちゃんが、軍に入ることを考え始めたんだねぇ。今年はおうちにも帰れるんじゃないの?」
黙りこんだジャスラ。それは肯定の意味を含むものだった。アイリは振り返ってその顔をのぞきこむ。おうち大嫌いの彼が、そんな気を起こすとは。
「そんなにおにいちゃんと仲直り出来て嬉しかったんだ?」
「あぁ!もう!なんでもいいだろ?!ちょっとした心変わりってやつだよ!」
「泣いて帰ってきたりして」
「んなこと、たぶん、ねぇよ。ってか、俺泣いたことないだろ?!」
「キサラの記憶が消されたとき、たまに目が潤んでたよ」
う、と言葉につまる。まだまだだなぁ、なんて独りごちてまた階段を降り始めた。足音が響く。静かなわけではない塔に音だけが反響する。どこか遠くで、誰かが騒ぐ声がした。
「ま、がんばりなよ」
「言われなくても」
強がりな言葉にジャーちゃんだからなぁ、というと、何なんだよ、ジャーちゃんって言うなよ、と返してくる。
そうこうしているうちに、更衣室についてドアノブに手をかける。数日前、コーディが忍び込んで殺されかけた女子更衣室と同じ造りをしていた。ちょうど、その更衣室は反対側にあって、かしましい女の子の声が廊下の向こうから聞こえてくる。
「おまえもさ、何かあったら、いえよな」
「?」
アイリは再度振り返った。そしてキョトンとする。ドアの隙間から、野太い声が漏れ聞こえてくる。
「なに?」
「や、今回は、世話になったからさ…………なんだ、その3人ともなんかあったら、手伝うからさ…………いえよなって。」
「……………………。そんな、たどたどしく言われたって、あんまり頼りに出来ないなぁ。」
「こ!これはだなぁ…………」
「考えとくよ、ありがとージャーちゃん。」
扉を開けて、彼がぶつぶつ言いながら入ってくるのを待ち構える、扉を閉める瞬間に、一言だけ呟いた言葉は幸か不幸かジャスラに届くことはなかった。
「敵に腹を見せることはしないけどね。」
ぱたん、と扉が閉まった。
交流会の舞台は、大聖堂にて行われる。行き交う人々は交流会運営委員会の人間だろうか、まだ動きやすい制服を着て走り回っている。大きな花飾りや料理をのせたサービスワゴンが行き交い、学校の人間ではない業者のものが多数出入りする。閉鎖的な学校でももちろん学生だけで成り立つ訳がないので教職員以外の人間も働いているのだが、今日この日だけはさらにその倍の人間が出入りしている。
毎年よくこんなめんどくさい委員会を担当する人間がいるもんだな、と思うのだが7年もこんなところにいるとだんだん何もしないことに飽きてくるのだ。なるほどそれなら何か委員会に入り、将来のために何かしら目的を持っている方が楽しい。
この学校にある生徒会、制裁会の二大役員会の他に、委員会がある。主に学校生活の日常諸々を請け負う委員会であり、この学校の第三勢力になる。学校でも人数と役割が多い分、一番巨大な勢力であることには違いない。
なんにせよ、今年の運営委員会はなかなか優秀である。ドレスの選定やメイク道具、小道具なんかはなかなか揃わないものが多かったりするのだが今回はそれらがあまり目立たなく、特に男の子のドレスコードに力をいれているのか毎年似たようなものばかりだったものが心機一転、様々な種類やカラーなどバリエーションに溢れていた。
左右対称、シンメトリーの建物。対になる二つの尖った槍のような塔に、その塔に守られるどっしりと大きな扉を抱えた三角屋根の建物。石造りのそれは滑らかで冷たそうに見えた。白橡色の壁の色が少しだけ親しげな表情をしてくる。碧の館と同じだけの年月を経ているであろう大聖堂は、経た年月の分人との距離を知っていた。真正面の扉の上には緻密な円形の模様が掘ってあり、いかにも王者然としていた。実際には大聖堂なので王者ではなく神聖なのだろうが、その脇に力を従えるその姿が玉座に座る王のようで、あながち間違いではないのだろう。学校に建てられたものは本家大元の王都にあるもののいわゆる縮小版になる。それでもその権力の様を見せつけるように、その大聖堂は誇らしげにそこに、建っていた。
出入りする制服の姿が減ってきたのは、お昼を過ぎて開催時間の一時間前だった。今は中を整えているからか、扉が閉じられていた。開門が開催の合図だ。
色とりどりのドレスに身を包んだ女子生徒が慣れないヒールにドギマギしながらも、文句を言わないのは着飾った自分に酔っているからだろう。
受付が開いて、色んな色がわんさと扉に集まる。
時間が近づいてきた。
先程まで閉じていた大扉が開く。
さぁ、交流会が始まる。
つづく
オールスターキャストのつもりで書いてます、
話が大きくなりすぎて、分からなくなり終わり所をどうしようかと、、、笑




