1-41 悪巧み5
アルトリウスは自室で歯噛みして怒りに震えていた。パウルにアルムスを捕縛するように告げてから3日が経過したが何の報告もなく此方の呼び出しにも応じない。私兵に命じて両名を探させてみたもののアルムスもパウルに至っても見つからない。それだけでも十分に腹立たしい事なのにここ数日は上納金を納めに来る貴族すら顔を出さない。
「何故、誰も来ない。お前たちは何か知らんのか?」
アルトリウスの言葉に召使は首を振るだけで誰も答えることが出来ない。ここまでくればアルトリウスですら何かの企みがある事は感じ取っていたが、だからと言って街の衛士に明確な罪状のない貴族を捕えさせるわけにもいかず苛々が募るばかりとなっていた。
「屑共が、この俺の手を煩わせおって。謀反など起こそうものなら即座に防衛部隊で殲滅してくれる。守備隊長に警戒を強める様に言っておけ。」
老齢の召使が返事の代わりに頭を下げ、アルトリウスの伝言を守備隊長の元へ届ける為に部屋から出て行った。周囲に控えている侍女たちに当たり散らすが、それでも気が収まらないアルトリウスは執務室へと移動し他の貴族共を言いなりにさせる方法に頭を悩ませた。貴族相手に下手なことは出来ないが奴らが子飼いにしている商人や領民ならどうとでもなる。ここ最近の苛立ちを解消すべく私兵に命じてアルムスと繋がりのありそうな商人を連れて来させることにした。
「おい、ローギッド家と関係の深い商人を家族ごと攫って来い。そしてどんな手を使ってでも企んでいることをすべて吐かせろ。」
先ほどとは別の召使が私兵の待機する部屋へと伝言を届ける為に部屋を出て行った。
パウルは考えた末にアルムス側に付くことに決め単身でアルムスの潜伏先に訪れた。
「正直な話、アルムス様に全幅の信頼を持っているわけではございません。ただアルトリウスよりましと言うだけです。」
パウルの正直な気持ちを告げられたアルムスは嫌な顔一つせずパウルの目を見て話を続けた。
「別にそれで構いませんよ。あと敬称も結構です。本音で話しませんか?年下に敬語ってのも気持ち悪いでしょう。」
「爵位も立場もアルムスが上だから仕方ないと割り切ってるが砕けてもいいならそっちの方が楽だ。有難く呼び捨てにさせてもらうぜ。」
「僕にしたって領主の座を狙って行動を起こしたわけじゃないですし、それに今後領主になる人物は苦労すること間違いなしですからね。ちなみに今の領主のまま放置しておくと近い将来アッシュさんがこの街の為政者を処分する為に兵を率いてやって来ることは確実です。放っておいても問題ないんですが流れる血は少ない方が良いですからね。」
「そのアッシュってのは何者なんだ?アルムスの父親の仇じゃないのか?」
「正直な所、あの男が殺されたのは自業自得です。自分の都合の良いように好き勝手に他人を犠牲にするからアッシュさんの逆鱗に触れたんです。ちなみにアッシュさん本人はただの冒険者だって言ってますが力も魔力も尋常じゃないですし、はっきり言って人かどうかも疑わしいところですね。パウルさんもくれぐれも無礼な態度を取らないで下さいね。貴族然としてあの人に接してたら僕みたいに腕を失う羽目になりますよ。」
笑いながら話すアルムスだが会話の内容はパウルの顔を引きつらせるのに十分だった。アルムスとパウルが手を組んだことによってアルトリウスを領主の座から引きずり下ろす計画の最大の障害が取り除かれた。アルトリウスが自由に動かせる衛士部隊の隊長がアルムスに寝返ったことで商人や貴族は街の衛士に邪魔される事なく活動できる。ただアルトリウスが個人的に雇っている私兵が残っている為油断はできないがアルムスとしても詰めを誤ったりはしない。アッシュが汚れ役を自ら買って出てくれているのだから。




