1-40 計画実行
激昂したアルトリウスに散々詰られアルムスの逮捕まで命じられたパウルはウンザリした表情でアルトリウスの部屋を後にした。しかしながら阿呆と付き合うのもこれで最後となると思うと哀れに感じない事もなく、妙な感覚に戸惑いながらパウルは衛士詰所へと戻った。ここまでは以前アルムス邸宅の強制捜査を行った後に告げられた内容通りの展開となっていた。このままアルムスの捕縛に出ると見せかけて衛士部隊を率いて貴族連合に合流すればパウルの役目も終了となる。
単純に兵士の数だけでいえばアルトリウスが率いる都市防衛部隊と私兵を合わせると6倍以上の差があるが、アルムスに言わせればこの段階で十分に勝ち目があるらしい。それを信じ切れるならば即座に合流しても良いがパウルとしては期限ぎりぎりまでは様子見に徹する事にしていた。
今まで水面下で行動していたアルムスはアルトリウスとの面会を終えた後は大きな商家を邸宅に呼びつけると、一気に行動に出た。今まで商家に課してきた特権的な税を取り下げ薬品類に関する専売を放棄したのだ。これによってこれからはポーションなどの薬品類を誰でも自由に販売できるようになり価格競争によって次第に他の街同様の価格に落ち着くことになるだろう。アルムスの行動は他の貴族が同じく専売の権利を持つものにも影響を及ぼす。それをしっかりと理解していたからこそ十分な根回しと今後の新たな利権を餌に他の貴族を懐柔した。
もちろんアルムスの邸宅で起こったように、アルトリウスに任せておけば如何に貴族であろうともいつ何時切り捨てられるか分からないという事を実際に理解させておいたのだ。アルムスからすれば十分な餌さえ巻いておけば短絡的なアルトリウスの事だからすぐに餌に食いつく筈と踏み、連日他の貴族たちとの密会を行っていた。
新たな利権に関しての会合であれば他の貴族も怪しむこともなく屋敷の秘密通路を利用して会合に参加してくる。アルムス1人が被害に遭ったのであれば危機感を伝えることも難しいが複数人が同じ被害に遭えば話は別だ。己の利権を守る事に敏感な貴族たちの噂によってあっという間にアルトリウスの蛮行は皆に伝わる。ならば自らの優位性を保ちつつ頭を挿げ替えることに反対するものはいないだろう。自らが頭になろうとするものはいるだろうが、それはアルトリウスを打倒してからの話である為に今は結託できる。
薬品類の価格が下がれば治療院の料金も下がる。同じくして教会の寄付も自然と下がるのは明白な事実だ。直接的な貴族への実入りが減ればアルトリウスへの上納金もなくなる。残るのは領民からの通常の税収と商品の流通に関する税金だけとなる。通常の税収と言ってもギルドからの税収にもルーカスに協力してもらい今後2ヶ月は纏まった利益はアルトリウスの元には届かない。しかもアルトリウスの権限によって使用される予備兵力としての冒険者も遠征と言う名目で街から出払ってしまっている。商品の流通に関しても隣町に割り振ったり直接遠征地に向かわせたりと商家に協力してもらいながら極力制限している。教会に至っては完全なる第3勢力となっている為、こちらにも協力は得られないがアルトリウスに協力することもない。金銭面ではこれ以上ないくらいにアルトリウスを追い詰めることになるだろう。愚鈍なアルトリウスに気が付けばだが。
アルムスは追い詰められたアルトリウスの行動を予測し一番に被害に遭うであろう亜人と希望する人族の領民をアッシュの村へと送り出していた。本来であればこのような大規模な移民が始まれば衛士の目に留まる筈なのだがギルドの遠征準備として街の出入りも多く、誰にも咎められることもなく街からの脱出を果たしていた。ギルドの遠征、領民の移動、全てがタイミングを合わせて同時に行われていた。人的被害を極限まで減らすというアッシュとの約束を果たしながら自らの目標を叶える準備が整った。後はアッシュの到着を待って最後の一押しをすればドベルの街はアルムスの物となる。
アルムスは自室でアルトリウスの怒り狂った様を想像し一人で声を上げて笑った。




