1-35 悪巧み2
ルーカスとアッシュの視線を受けたアルムスはソファーで居住まいを正しゆっくりと語り始めた。
「以前から考えていた事ですがこの街は何処かが狂っている。ただ思っていても僕にはどうする事も出来ませんでした。でも今はアッシュさんのおかげで何かを変えることが出来る力を手に入れたんです。立場的にもそうですが、あの惨劇を生き残ることが出来た今なら僕にも何かできると信じているんです。もちろん皆さんのご協力次第ですが今の領主アルトリウスには失脚してもらい次期領主に僕が名乗りを上げるつもりです。」
「俺は立場上この街のギルド代表みたいなもんだから今すぐに返事ってのは勘弁してもらいたいんだが個人的には協力は約束してやってもいいぜ。」
ルーカスは気軽に頷きながら話を聞いているがアッシュは冷ややかな目でそんな二人を見つめていた。
「アッシュさんとしてもアルトリウスが失脚すれば指名手配も消える筈ですし損のない話だと思うのですが・・・。どうでしょうか?協力してもらえないでしょうか?」
「アルムスが領主になる為に協力出来る事は力になるが領主となった後、お前は何を目指している?」
アッシュに逆に問いかけられアルムスはより真剣な面持ちで答えた。
「自由です。今この街はアルトリウス一派の貴族によって牛耳られている状態です。アッシュさんのような方が狙われたのもそのせいです。庶民や冒険者が商売を始めようにも貴族に締め上げられ結局は飼い殺しにされてしまう。医薬品・治療院・教会・輸出入商品これらを貴族が自由にしていることが庶民や信仰の弾圧に繋がってしまうのです。亜人を受け入れないのも過去に戦争をしていた事も理由の一つですが彼らの信仰が邪魔なのです。教会の権威を脅かさない為にこの街で亜人は虐げられているのです。満足に治療を受けられず亡くなってしまう者も後を絶ちません。そんな人たちの中で僕は母親と二人で生活していたんです。まだ僕は彼らを無視できるほど貴族の権力に毒されていません。」
アルムスは興奮し一気にまくしたて、それをアッシュも真剣に聞いていた。しばらくアッシュは考え込むようなそぶりを見せゆっくりと口を開いた。
「正直な話、アルトリウス等には近々この世から消えてもらうつもりでいた。俺としても準備に手間が掛かる以上、大人しくしていたんだがアルムスが代わりにドベルの街を纏めてくれるなら全面的に協力しよう。だがお前もアルトリウス同様に間違った方向に進めば俺の敵になる事を覚悟しておけよ。お前と違って俺の目標は人類の統一だからな。じゃあアルトリウスを失脚させるお前の計画をじっくり教えてもらおうじゃないか。」
アッシュの発言に度肝を抜かれたルーカスが手から酒瓶を滑り落としているがアルムスとアッシュの会話は続いていく。
「今のところ僕の所で自由にできるのは薬品関係の権利ですが準備が整い次第、価格を他の街の適正価格まで引き下げます。街中の薬品が10分の1の価格になれば教会も治療院も無視できない筈です。これはアルトリウスの直接の収入に打撃を与えることが出来る筈です。奴が好き勝手に出来るのも名前も一つの理由ではありますが国に文句を言わせないだけの税を納めているからにほかなりません。税収が少なくなれば他の手に打って出るでしょうがそこをルーカスさんとアッシュさんで邪魔をしてもらいたいのです。貴族たちからの攻撃を僕が一手に引き受けて冒険者たちをルーカスさん。庶民の皆さんをアッシュさんに纏めてもらって対抗して欲しいのです。」
「纏めるってのは簡単じゃあねぇぞ。冒険者だって長いものには巻かれてる方が楽に生きて行けるんだ。それに冒険者はこの街に固執する理由がねぇから危なくなったら他の街に流れて行っちまうぞ。それにしてもお前たちの考え方は危なすぎる。まだアルムスは陰謀ってぐらいで可愛げがあるがアッシュに至ってはクーデターを起こすつもりじゃねぇか。」
「いざとなったらクーデターと言われてもやるしかないだろ。まぁ俺としては無関係な犠牲者が出ないアルムスの提案で出来る所までいって面倒になったらゴリ押しで解決しても良いと思ってるぐらいだからルーカスも深く考えるな。アルムスの手腕に期待して黙って大人は手助けしてやろうぜ。」
ルーカスは頭を抱えてしまってるが話を聞いた以上、後戻りも出来ず落ちた酒瓶を拾いなおして一気に喉へと流し込んだ。アルムスに追加の酒を準備させて酔い潰れてしまう気らしいがアッシュがルーカスの肩に手をまわして囁きかける。
「毒を食らわば皿までだ。独立機関のギルド支部長が一国の内政に干渉しようってんだから今更細かいこと気にしたら寿命が縮むぞ。」
ルーカスはもはや受け入れるしか残されていない選択肢に涙が出そうになりながら僅かばかりの希望に心躍らされている自分に驚いていた。




