1-34 悪巧み
酒場を出た3人は久しぶりに楽しい酒と料理を楽しんだ。アッシュも最も気がかりだったことが先に片付いたこともあって2人の快気を大いに祝いほろ酔い気分のアッシュにアルムスが思い出したように告げる。
「アッシュさんはこの後の予定は?」
「ん?宿に泊まって明日からでも職人探しをやろうかと思っているが。」
「お前なぁ、自分がお尋ね者だって自覚あんのか?普通に宿なんかに泊まってたら明日の朝起きたら衛士に取り囲まれてるぞ。」
「俺の顔なんて皆、覚えてないだろ?」
「格安、治療師アッシュって言えば庶民じゃ有名だぜ。鼻持ちならねぇ貴族をやっつけた事もあって人気も急上昇だ。おっとアルムスにゃ申し訳ないが庶民の話ってことで許してくれよ。」
「いえ、気にしてませんよ。息子の僕から見てもあの人は当然の報いを受けただけですから。それと泊まるところなら僕の家に来ませんか?部屋なら十分にありますし家の召使たちならアッシュさんを密告したりしませんから。」
「そうは言ってもなぁ。アルムスの母親と顔合わせるのは幾ら俺でも気が引けるんだが。」
「それなら気にしないで下さい。母なら貴族の堅苦しい生活が嫌になって故郷でのんびり暮らしてますから。家には僕と召使しかいませんから。」
「それなら俺もアッシュと一緒にお邪魔させてもらって飲みなおしさせてもらうかな。」
まだ飲む気なのかと呆れ気味で見るアッシュとアルムスを後目にアルムスの迎えの馬車に一番にルーカスが乗り込んでいくが、言っても仕方なさそうなので二人は黙って馬車に乗り込んだ。
アルムスの屋敷に到着し客間でくつろいでいるとアルムスが真面目な顔をしてアッシュに問いかける。
「アッシュさんは今のドベルの領主についてどう思いますか?」
「悪いが名前すら知らん。だが器が足りてない気がするな。サーシャから聞いたんだが王家の血筋だか何だかで好き放題らしいじゃないか。だからお前のおやじのような奴が好き放題出来てたんだろうがこの国では貴族なら何でもありなのか?」
「そんなことはありませんよ。もちろん貴族だって責任を負ってますし領民に対する義務だってあります。領地を持たない貴族にしたって同じです。だから僕みたいな庶民と似たような生活をしてきた者には特にこの街の異常性が気持ち悪くて仕方ないんです。」
酒を飲みながら聞いているルーカスも渋い顔で頷いている。商業の街として有名なドベルの街も一皮むけば下水の様に濁った部分が顔を出すのだろう。
「そう思うならお前が領主になれば良いじゃないか。俺に話したってことはお前もそう思っているって事だろ?それにお前がやったところで今より最悪にはならんだろ。」
アルムスは見透かされたことに戸惑いを見せ簡単に言ってのけるアッシュに言葉を失った。
「ギルドとしても薬品も治療費も馬鹿高くて差別の激しい街じゃあ発展は望めないし、冒険者に危険な仕事をさせるわけにはいかんからな。まぁリスクを考えて簡単な仕事しか受けられなかったら日銭すらも怪しいもんだぜ。」
ルーカスは愚痴を言ってのけると注いであった酒を飲み干し、新しい酒を注ぐこともせずにラッパ飲みを始めた。
「まぁアルムスがギルドの支部長と犯罪者の俺の前でこんなことを言い出したんだ、何か計画があるんだろ?乗るかどうかは約束できないが時間はたっぷりある。説得してみろよ。」
ルーカスから酒瓶を奪ったアッシュは自分のグラスに注ぐと、次はアルムスの順番とばかりに酒瓶を押し付けた。




