1-31 利害一致
夜も更けているというのに酒場兼ギルド支部の前に豪華な馬車が横付けされた。貴族様が庶民の酒場に足を運ぶなどありえないがギルドに用があるとも思えない。場違いな光景は人目を引くが外套を深くかぶった二人組が馬車に乗り込んでいく。酔っぱらいの興味はすぐに失せ目の前の酒の注がれたジョッキへと視線を移す。
「もう何をどうしていいかわかったもんじゃねぇな。」
ルーカスがほとほと呆れ果てたと言わんばかりに愚痴を溢すがアッシュとアルムスには通じていないようだった。
「早速、教会へと馬車を急がせますが貴族の威光も教会にはあまり通じません。僕で役に立てるとは思いませんが出来る限り協力します。」
アッシュに左腕を奪われたとは思えないほど従順なアルムスにルーカスは奇妙な感じを覚えるが馬車に乗り込んだ後ではどうしようもない。
「アルムスは貴族だろ。治せるならどうして腕を元通りにしてもらわなかったんだ。」
「治してしまえば、またアッシュさんに襲われかねないと思ったからです。まぁそれにこのぐらいの怪我が無ければ僕がアッシュさんを雇って家族を殺させたと他の貴族に怪しまれるからというのも理由の一つなんですが。」
「元に戻さない方が良いのか?」
「いえ、やはり不便ですし。財力に不安がない事を証明する為にも早々に元通りにしたいですね。」
「じゃあ全員の利害も一致してるってことで団結して頑張ろうぜ。」
事の発端を作った張本人を白い目で睨みながらルーカスは渋々といった表情で同意する。3人のやり取りが一段落した頃、馬車は目的の場所についたのか動きを止めた。御者が扉を開け教会に到着した事を知らせてきた。
「今回は一応、僕の方から先触れを出しておきましたが夜間の訪問ですので歓迎はされないと思いますよ。」
「気にするな。目的さえ達成できればいいんだからな。」
御者が到着を知らせてくれたのだろう教会からシスターが出てきて中へと案内してくれた。教会内では神官長が待っており表情が伴わない形式上の歓迎の挨拶を告げてきた。
「来訪の内容はアルムスの使いから聞いているかもしれないが、この者たちの腕を癒す方法を教えてもらいたい。無理ならば癒してくれるだけでも構わないが、ここに居ない者もいるので少しご足労願う事になるがいいだろうか?」
「教会の秘儀を教えるなんてとんでもない。それに四肢を復元するような癒しの奇跡を何人にも施すなど常識外れも甚だしい。出直してきなさい。」
夜間の来訪に気を悪くしていたのかアッシュに対してぞんざいな口調で神官長が言い放つ。
慌てたアルムスが援護射撃とばかりに口をはさんでくる。
「謝礼なら十二分に用意させてもらう。今後は何かと教会にも便宜を図ろう。」
「金銭の問題ではありません。俗物には言ってもわからないようですね。信仰無きものは教会から立ち去りなさい。」
神官長の剣幕に隣にいたシスターも縮み上がっているが、ルーカスの視線はアッシュの額の血管に釘付けとなっていた。まさか教会で暴れたりしてくれるなと目の前の教会の神にではなくアッシュに祈っていた。
「俗物か、さすが神官長様だな。お前らの神を信じなければ話すら聞いてくれないとは随分とお前らの信仰する神はケチ臭いんだな。何処の宗教も救済を謳ってるが金が無ければ怪我人を放置しても許されるんだもんな。どちらが俗物なんだろうな?それともお前らの神が俗物の神様なのか?」
「ふざけるな、貴様は我らの信仰を馬鹿にするのか。愚物もここまで来ると救いようがない。」
額に青筋を立てて激昂する神官長を後目にアルムスに向き直ってアッシュが耳打ちする。
「なぁ、貴族のお前にあんな大口叩いたんだ。不敬罪とかで好きにしていいんだろ?」
「アッシュさん考え方が危なすぎますよ。それに教会関係者は貴族と庶民のような関係ではありませんから不敬罪とかには当たりませんが無礼な奴には相応の対応をすればいいと思いますよ。あくまで対等な立場ってことでね。だからアッシュさんを止めたりしませんから自由にして下さい。」
アルムスは神官長に近づいてアッシュについて簡単な説明をした後に一礼して去っていったが、教会の入り口で足を止めシスターに聞こえるように大きな声で叫んだ。
「ちなみに僕とルーカスさんは関係ありませんので、これで失礼いたします。シスターもご一緒に如何ですか?と言うよりもシスターも要らぬスリルを味わうよりも僕たちとお食事でもどうですか?」
シスターはチラリと神官長の様子を伺うが、無言でアルムスの元に走り去ってしまった。残された神官長は冷や汗を流しながらアッシュと2人教会に取り残される形になった。




