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1-32 神の奇跡

教会の祭壇の前で冷や汗を流しながら立ちすくむ神官長に向かってゆっくりとアッシュが歩み寄る。


「さぁて神官長様の信仰する神様とやらは信者の窮地を救って下さるのか見ものだな。アルムスの奴から何を聞いたかは知らんが俺は目的を果たすまでは諦めないし手を緩めるつもりも無い。」


アッシュの手がゆっくりと伸びて神官長の肩を掴む。


「ご・・・・、ごめ・・・・んなさ・い。」


神官長は震えながら尻もちをつく。アルムスから子爵一家を惨殺した悪魔の正体はアッシュだと伝えられ惨たらしい死体を思い出してしまったのだ。正視することも躊躇うほどの遺体。神官長も今まで殺害された被害者の遺体ぐらいは見た事はあったのだが、あれほど遺体の損傷の激しいものは見た事が無かった。自分の体も同じ運命を辿るのかと思うと咄嗟に神に祈るより先に目の前の殺人鬼に屈してしまった。立場上、害される事などありえないと考えていたが、貴族を躊躇いもなく惨殺し剰え親を殺し腕迄奪っておきながらアルムスを傀儡の様に扱うアッシュは神官長の常識で測れる存在ではなかった。一度折れてしまった心は教会の中であっても戻る事はなく、アッシュの望む全てを差し出した。


神官長曰く四肢の再生に関しては高位の治癒術師数人がかりで行う必要があり、更に封印された魔核が必要との事だった。魔核で魔素を操り欠損部分を補完するように補って傷口に再生を促せば自ずと再生されるとの事だった。種が知れてしまえば何のことは無い、アッシュが普段やっている治癒に毛が生えたようなものだった。そもそも人間では自在に魔素を操ることが出来ないらしく自我を破壊された魔族の核を使用して魔素を操っているという事だった。


「じゃあ神官長様、しっかりとコツを教えて頂きたい。実際に神官長には神の奇跡とやらを体験して頂くわけだが途中で気絶すれば俺の自己流となるので結果には期待しないでもらいたい。麻酔なんて気の利いたものは無いが信仰で何とかなるだろ。」


嘘偽りが無いか念の為に神官長で本番に備えて実演させてもらっておいたのだが、切断されたままの状態で意識を失う訳にもいかずアッシュに必死で再生のコツを教えていた。右腕から始まり左腕の再生。それが終われば右足から左足と切断と再生を繰り返すうちに何時の間にか神官長が祈りを捧げる相手がアッシュにすり替わっていたのは言うまでもない事だった。


教会の外には馬車が待機していて、アルムスが合流場所へと集合する為に手配しておいてくれたらしい。神官長に礼を言ってアッシュは馬車に乗りこんだ。御者が目的地へと馬車を走らせると教会の前に五体投地でアッシュを見送る神官長の姿だけが残された。


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