1-26 オーガ2
アッシュがオーガと共に彼らの集落に向かっている頃、森の入り口では1号たちが頭を悩ませていた。
「やべえな。あれ絶対オーガを見つけて追っていったんだよ。サーシャさんたちに報告した方が良くねぇか?」
「やめとけって!話を大事にしたらアッシュの旦那に後で怒られるぜ。それにフォウちゃんには一人で行かせたって責められることになるんだからよ。あの化け物じみたアッシュの旦那ならオーガの首持って帰ってくるだろうよ。俺たちは昼寝でもしながらのんびり待ってようぜ。」
一部弛緩した状態の者と、アッシュの身に何か起こった後に訪れる自分たちの不幸を考えて震えあがる者たちとで微妙な鬩ぎ合いを見せつつも、暫くの間は帰りを待つという事で落ち着いていた。
オーガの集落に到着したアッシュは驚きを隠せなかった。
オーガの数こそは少なく50人に満たないほどだが小川のそばに作られた集落は綺麗に整えられ、体の大きさに合わせて作られた大きな家が集中して建てられていた。農作物も栽培しているようで縮尺は違うものの初めて訪れた時のアゴルに似ているかもしれない。只、住人のオーガたちが着ているものは動物や魔物の毛皮で作られた簡単な腰巻だったりと野性的な印象を窺わせる。見た目からは想像できないほどに落ち着いた雰囲気を持っている。
アッシュが集落に足を踏み入れた事によって一部緊張したままの者もいるが連れてきてもらったオーガが言うには思念の共有でアッシュを連れて帰る事を一応皆に知らせてくれていたらしい。大元の祖先がゴブリン種で奴らが繁殖した時に稀に人の因子を色濃く持つものが現れて独自の進化をしていった結果、鬼種の亜人オーガとなった。ゴブリンの持つ意識共有の能力を受け継いでおり、同じ集落の者同士は離れていても簡単な意思疎通が可能らしい。便利な能力だと感心していると家の中に案内されサイズの合わない大きな丸太に腰を掛けた。オーガに勧められた果汁の飲み物に口をつけると程よい酸味が乾いた喉に染み渡り一息ついたアッシュはオーガに改めて向き直った。
「今更だが、俺はアッシュ。お前の名前は何て言うんだ?」
「オーガでも構わないが我の名前はドゥームだ。」
アッシュが握手の手を差し出すがドゥームには意味が伝わらないらしくアッシュが手を掴みに行き強制的に握手をした。
「これが宜しくって意味の挨拶だ。宜しくな。」
微妙な顔をしたドゥームの手を離すと丸太に座り直したアッシュは表情を改めた。
「改めて交渉を始めたいんだが俺たちは木材の安定した供給として、お前たち集落との交易を望んでいる。もちろん見返りとしてドゥームたちの必要なもので、手配できるものがあれば手配するがどうだろうか?」
「お前はオーガと呼ぶ我らと取引がしたいというのか、木材ならば今まで通り勝手に持って行っても問題ない筈ではないのか?」
「まぁドゥームたちが住んでる森から木材をもらうんだから集落として見返りを要求しても普通だろ。それに出来るだけ円満に解決できれば皆、満足だしな。生きて行く為に敵を作るより友人を作った方が有利だろ?」
あっさりと笑って言うアッシュを見てドゥームの人族への認識はあっさりと崩れ去った。今までに会った人族が全てであるとは思ってもいなかったがアッシュほどに正反対の反応をする者もいなかったし最初から亜人扱いをされたのも初めての経験だった。だがアッシュだけを見て村人全てを信用するわけにも行かない。
「アッシュ、我らはお前個人となら取引に応じてやっても良い。だが他の人族までは信用できぬ。」
「それじゃ困る。俺だけでなくアゴル村として取引に応じてもらいたい。それについて良い考えがあるんだけど一応確認なんだけどさ、ドゥームたちって人族食ってたりする?」
「我らの祖先は好んで人族を食していたようだが今となっては好んで食うものも少ない。手間がかかる割に不味いし食う肉も少なくてな。」
ドゥームのあっさりとしたカミングアウトに若干引きそうになるが、何とか気持ちを持ち直し新たな提案を持ち掛ける。
「俺としては今後、この集落の者全員がアゴルの者を食わない、傷つけないと約束して欲しい。他の人間は約束の範囲外だ。食うなり甚振るなり好きにしてくれて構わないがアゴルの村人に手を出せば俺はお前たちの事を敵と認識する。決して容赦はしない。約束できるか?」
少々殺気が混ざった言葉にドゥームも返答に詰まる。意識共有で確認でも取っているのだろうか目を閉じ暫くの間を開けてゆっくりと口を開いた。
「約束しよう、お前の村の者に手を出す事は無い。だから我らにも手を出すな。」
ピリついた空気に緊張しながらドゥームが言葉を絞り出したのだが、それを聞いたアッシュは破顔した。
「それじゃあ決まりだな。他の人族が信じられないってんなら俺たちの村に実際に来て自分たちの村に必要なものがあるかどうか確認してくれよ。交渉はそれからだな、早速アゴルまで行こうぜ。」
立ち上がるアッシュにドゥームは待ったをかけるがアッシュの耳には届かなかった。焦る3m近い緑の巨人を引きずりながらアッシュはオーガの集落を後にした。




