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1-23 いざアゴルへ

アッシュらが移住の準備を進める頃、領主アルトリウス・ド・ネル・ローウェルの元にローギッド卿、殺害の報がもたらされていた。


「伯父上の事だ。欲に目がくらんで他の貴族にでも暗殺されたか?」


豪華なソファーに転がり果実酒をグラスで煽りながら興味なさげに呟く。


「大変申し上げ難い事ですが冒険者に殺されたようです。」


報を知らせた騎士は跪いたまま顔を上げずに答えた。


「冒険者にだと。そこまで判っておりながら何故その冒険者とやらを捕まえて来ぬのだ。」


「ローギッド家より被害の報告が出ておりませぬ故、衛士としても動きが取れません。」


アルトリウスによって床に叩きつけられたグラスは粉々に砕け中身の果実酒を飛び散らせた。そばに控えた侍女が無言で素早く片づけ新たなグラスに果実酒を注ぎテーブルにそっと用意する。


「被害の届など関係ない。王家の血統にあたるこの俺の伯父上が殺されたのだぞ。領主に弓を引いたのと同じだ。即刻捕らえて、その冒険者の首を俺の前に持ってこい。もたつくようであれば貴様の首を晒してやる。」


アルトリウスの剣幕に騎士は無言で頷き部屋を後にした。齎された報に苛つきを隠せないアルトリウスは果実酒を飲み干すと騎士が出て行った扉にグラスを投げつけた。


アルトリウスの部屋を出た騎士は馬鹿馬鹿しいとばかりに小声で悪態をついた。


「珍しく貴族側が非を認めて不問にするって言ってんのに我らの阿呆は救えないね。」


彼の名前はパウル・ウェスレー。

彼は騎士にしては珍しく庶民の出身であった。彼の産まれた村は貧しく働く為の奉公先もないような村だった。天候悪化による作物の不作が続き、ついには10歳の時に口減らしの為両親に兵士にされた。子供に兵士の訓練はきつかったが毎日食事が食べられただけ村にいた頃よりましだった。それからは20年生きる為にがむしゃらに働き数々の武勲を上げ一代限りではあるが騎士爵を陛下より賜った。

そこまでは良かったのだが爵位を持ってしまえば剣を振るっているだけでは生きてはいけない。慣れない貴族との付き合いで下手を打った挙句、阿呆のお守を押し付けられてしまった。所属は一応国軍となっているがアルトリウスの私兵を預かっている為に領主に都合よく使われていた。


パウルは詰め所に戻ると他の隊員の目を気にすることなく長椅子に横になって不貞寝を決め込んだ。正直な所、パウルの所にアッシュの話が上がってくるまでに随分と時間が経っている。さらに真偽の確認の為にローギッド邸に足を運び当主代行のアルムスと話をしてからアルトリウスへと報告に行ったのだ。余程の馬鹿でもない限り、これほどの事をやらかして未だに家でのんびりしている奴なんている筈も無い。とっくに街どころか国を出ているのが当然なのだ。

それを探し出せというならドベルの位置関係上、隣国まで捜索することになる。商人が行き来する分には何の問題もないが兵士が隊を率いて越境などすれば戦端を開くことになりかねない。我らの阿呆には思慮が足りないと思わざるを得ないが、それを言えないのだから不貞寝するしかない。かと言って何もしませんでしたは彼の首を危うくすることも知っているので数名の兵士には個々に情報収集を命じている。パウルは知らせの兵を待ちながら眠りに落ちて行った。



その頃アッシュはフォウとサーシャによって吊し上げを食らっていた。当初アッシュはフォウとサーシャは住民たちと共にアゴルに避難してもらうつもりだったが、伝えたとたんに2人からの猛反対に遭ってしまった。


「マスター。その命令は何があっても聞けません。首を刎ねられても無理です。」


「私もフォウに賛成だわ。無謀過ぎっていうか、馬鹿すぎるわよ。ハッキリ言ってアッシュには選択肢なんてないの。一蓮托生って知ってる?」


「だからずっとって訳じゃなくて追手を減らすか解決するまでだって。」


「マスター。死にたいんですか?自殺志願ですか?なら私もご一緒するべきですよね?」


「そりゃアッシュは強いけどローギッドの私兵程度に傷だらけにされてなかったっけ?一貴族じゃなくて領主だよ。軍隊なんだよ。わかってる?アッシュの苦手な遠距離攻撃してくる弓兵や魔術師だってわんさかいるんだからね。理解したらアッシュもサッサと準備して。」


サーシャとフォウによって無理やりにアッシュの荷物を纏められアッシュ本人は馬車へと押しやられた。


「マスター。私たちが街から出れば全員、無事にドベルから脱出できたことになります。」


「急ぐわよ。」


他の住民たちに至っては準備が出来たものから順次出発しており街から少し離れた場所で合流する手筈になっていた。未だ本格的な検問などは設けられておらず意外とすんなり街を出ることができた。アッシュに至っては未だに馬車の荷台で不平を漏らしていたが3人は一安心しながら合流地点を目指し、馬を急がせた。合流地点ではギルドから派遣された冒険者によって住民たちが護衛されており周りから見れば大集団といった様相を成していた。


「護衛ご苦労様。ここからは俺が加わるからここまでで良いよ。ルーカスに礼を伝えておいてくれ。」


アッシュは護衛の冒険者たちに礼を告げて解散させた。何かあった時の護衛なのだが長い間、拘束するのも悪いし移動の間位なら自分とサーシャで何とかなるだろうと考えていた。

それにルーカスには目的地を知られているが名も知らぬ冒険者にまで目的地を教えてやることもない。アゴルに到着早々落ち着く間もなく襲撃されるのは御免被りたいし情報はいつか漏れるのは想定内だが、駄々洩れでは意味がない。

去っていく冒険者を見送ってアッシュたちはアゴルへと移動を開始した。



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