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1-16 闇治療院開店

真っ白な貫頭衣に頭には同じく白い髪留めを付けたサーシャがナースの様に家の中で患者を案内してパタパタと走り回っている。フォウは同じデザインの黒の貫頭衣に、同じく黒の髪留めを付けて新たに来る患者を順番通りに並ばせたり椅子に座らせたり寝かせたりしている。もちろん怪我の優先度によっては順番などではなくアッシュの所に直接連れて行ったりもしている。2人とも良く働くものだと家の奥まった一画で椅子に腰かけた状態で一服しながらアッシュは呟くが、彼も休憩などしているわけでなく十分に働いていた。

それこそ朝から食事を取る暇も無いほど煙草を吸い続け世界一のヘビースモーカーとなり、なんならこっちが気分悪くなるほどである。アッシュの服も新調されていて、ゆったりとしたデザインの上下ともに黒で統一されたものに変わっていた。施術院なら色は白だろうとの意見もあったのだが主に扱うのが外傷患者なので血などがついても目立たない黒が選ばれたのだ。色だけは指定したが他は近所の奥さんに完全にお任せしたのでこちらの街でも違和感のない服装に仕上がっていた。


大繁盛を窺わせるアッシュの治療院だが地域の住民への還元は忘れてはいない。アッシュの服もそうだが看板の製作や家の改装、サーシャやフォウが着ている服に至るまで近隣住人に発注し用意したものだ。しかも相場より色を付けて注文しているので少々騒がしいくらいでは反感すら抱かれない。恩恵は近所の子供たちにまで及んでいる。食事の宅配サービスなどない世界でアッシュやサーシャとフォウが食べるものを注文する度、食べたい子供たちが自分たちの物と一緒に買って届けてくれるのだ。しかも日中はゆったりと食事を取る暇もないものだから3人の注文が同じタイミングになる事もないので回数も品数も自然と多くなってくる。

次第に子供たちの中で待機する順番も決まっていき、品物によっては希望する子供に振り分けられるといった独自のシステムも数日のうちに構築されていた。開店当初の数日間は重症患者が多くアッシュが夜も往診に赴き眠る暇も無いほど忙しくしていたが、徐々に落ち着きを取り戻していった。


しかしこれだけ繁盛すれば隠しているようでも噂が立つ。たまに嫌がらせを何処かの誰かに依頼されたのか馬鹿が絡んでくるようになった。治療院前で騒ぎ立て治癒に不備があっただの無能だと口にする数人の馬鹿にはアッシュが実演という形でパフォーマンスを行っていた。咥え煙草で奥から現れ、誰が見てもわかるように手足を折っていく。人体の構造上曲がる筈のない方向に曲げられた手足を見た者たちと曲げられた者が悲鳴を上げるがアッシュによって一度は治療される。そして効果を確認させた後、再度折りたたんで懇意の施術院にでも教会にでも行くように言い含められ追い出されるといった事が数回繰り返されていた。

そういった荒事より治療院を始めてアッシュが最初に困ったことが地域の住民や患者の識字率が想像以上に低かったことだ。まず自分の名前を書いて順番を待ってもらうだけの事も出来ない。人数が増えれば増える程負担になって来て単純な説明でも1人1人に毎回しなくてはならなければサーシャとフォウだけでは捌き切れるわけもない。塵も積もれば何とやらで大きな負担になるのだ。さらに困ったことにフォウも文字が読めない事が分かった。ギルドの掲示板の前で難しい顔をしていたのは単に文字が読めなかったからだった。

今後の事を考えサーシャと話し合い午前中の診療の前に毎朝1時間、臨時の文字の学校を開校することになった。フォウに文字を教える手間も他の者に教えるのも大した変わりはないので無料で授業している。

講師はサーシャにお願いしているが、意外に人気があるらしく近所の子供から大人まで通って来る人気ぶりだ。サーシャから教えてもらったが学校など大きな商家の子供や貴族でもない限り通う子供はいないらしい。それにこちらの学校というものは完全寄宿生の閉鎖的なものが一般的なのだとか。朝は学校を開き、その後に治療院という生活が続きアッシュたちもすっかりこの生活に馴染んでいった。

近所の住人達も少々リスクのある仕事でも死にさえしなければアッシュに何とかしてもらえるという安心感から積極的に仕事に取組むようになった。そうして金回りが良くなった事から宴会の頻度も上がってきた。


学校を開校したおかげか治療院に待機していた子供たちが増えた気がする。その中でも特にアッシュになついているのがリアというネコ科の亜人の子供だ。本人に言わせれば4歳らしいのだが、体が小さく他の亜人より獣の特徴が濃いせいで人型のネコと言った方がしっくりくる。アッシュが椅子に腰かけていると自然とアッシュの膝の上でくつろいでいる。ふかふかの毛並みを撫でながら休憩をするのが最近のアッシュの癒しになっているほどだ。リアの家族は母親一人しかおらず父親はリアが生まれてすぐに病で亡くなったらしい。母親が働きに出ている間は一人で帰りを待っているのだが寂しさに負けて近所の子供たちが集まっている治療院に来るようになった。

亜人と言っても本当に様々な種がいてフォウの様に人間に耳と尻尾が生えているだけの場合もあればリアの様に動物に近い場合もある。総称として人語を理解できる人型の種を亜人と総称しているだけで隣国アンセム共和国では種族ごとに纏まって暮らしているらしい。


アッシュたちが来てから貧民街は少しずつ変わり始めていた。住民たちの鬱屈とした感情は和らぎ道に座り込み絶望するものも減った。偏見を持つこともなく望めば仕事が与えられることは希望をもたらした。アッシュとしても施しを与える気は更々なく、働く気のあるものは優遇するが絶望したまま立ち上がる気の無いものには手すら差し伸べない。それでも住民たちとの関係は良好な状態を保っていた。アッシュたちはやっと手に入れた安定した生活をしばしの間、満喫することにした。



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