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1-17 下準備

アッシュはリアを膝に抱きながら自分の子供の事を思い出していた。年の頃が同じ子供というのはどうしても自分の子供を思い出させる。もう会うことが出来ない事は分かっているが忘れることは出来ない。時折涙ぐむアッシュを不思議そうな顔でリアがのぞき込んでくるが、その都度リアを抱きしめて誤魔化していた。リアからしてみれば構ってもらえれば問題ない筈なので大丈夫だろう。アッシュからしてみればリアといる一時が唯一安らげる瞬間になっていた。


安らぎを感じられるのも生活の基盤が築けたからこそなのだが、だからこそ光の玉との約束を果たすための準備も着々と進めている。治療院で治療する間も人体の構成を頭に思い描き、癒す部分に魔素を補充するように動かすとより回復効果が高まる事を発見した。それからは絶えず魔素を操る練習をしている。一日の大半を治療院で過ごすため今では自由自在に魔素を動かせるようになった。


サーシャにも協力してもらい、扱える魔法を実際に発動してもらって魔素がどのように作用を及ぼすか研究している。眠りの魔法に関しては頭と体の間に流れる魔素を阻害するところまで解明できたので実際に発動することも防ぐ事も出来るようになった。研究対象がサーシャの魔法しかないので実際に有用なものは少ないのだが、それを言ってしまうとサーシャのご機嫌を損ね協力してもらえなくなってしまうので口が裂けても言わないようにしている。

魔法の研究というわけではないが魔素に働きかけ空気を動かすことに成功してからは空気を圧縮してみたり方向性を持たせて圧力を解放させたりと試行錯誤を繰り返し、今では突風を起こしたり一応飛べるようにもなっていた。ファンタジーの世界で魔法が使えるならば飛ぶことを夢見るのは当然の結果だろう。一応というのは浮遊して自由自在に動けるというものではなく人間砲弾の様に放物線状に打ち出し落ちる前に再度打ち出すといった具合で非常に度胸と根性を試される仕様となっている。圧縮された空気の層を体の周囲に展開させている為、即死こそしないが着地に失敗すれば大惨事だ。

後は念の為にアゴルの村の村長に送った手紙の返事がくれば一安心というところだ。手紙の内容というのは亜人種を含んだ避難民の受け入れ要請なのだが、ギルドに破格の報酬で依頼を出したのでそろそろ返事が来てもいい筈なのだ・・・。


こちらの生活の基盤と言っても商売敵が貴族と教会という一冒険者が相手にするには悪すぎる相手だ。アッシュ一人ならば何とかなる気もするのだがサーシャとフォウがいるし、気の良い近所の連中が巻き込まれたら堪ったものじゃない。一応に安全な逃げ場を確保しておきたいところだ。前回、村長の了承も得ずに送った1号達の働きぶり次第というところだろう。短い間ながら村長といた時間を思い出し問題なく受け入れてくれるだろうと願ってはいるが、確信を得られるまでは行動は起こせない。ここにいても近隣の住民たちには救いがない状況に変わりがないが、後が無い状況ではないのだから虐げられたまま生活していくしかない。希望を持たせ新天地を求めてアゴルへと旅立たせてもアゴルで受け入れが出来ないのであれば死刑宣告と変わりない。

そんなことを考えつつ期日が間近に迫った住居の契約更新についても頭を悩ます。敵に商売内容が知られているのだから立地の良い商業地区で勝負に打って出るという手もあるが、この地で得た、築いた絆を捨てるのも忍びないし手紙の返事を待たず大きなアクションを起こすわけにも行かない。期日ぎりぎりまで待っても返事が無ければギルドで契約更新をお願いしないといけないだろう。一つ気がかりなのは最初にギルドに顔を出してからギルドの仕事をこなしていないので住居の契約更新を渋られる恐れがある。最悪そうなったところで軍資金には十二分な余力があり他で購入しても問題は無いだろう。金貨の偉大さを噛み締めつつリアとおやつの相談を始めた。


一方、サーシャは窮地に立たされていた。

治療院に貴族の使いがやってきたのだ。内容は言われなくともわかっているが使いの者をアッシュと相対させるわけにはいかない。どうにか穏便に対処しなくてはいけないが相手も子供の使いじゃあるまいし不在だから帰って下さいで引き下がるわけもない。


「ええい、アルトリウス様の伯父上様に当たるローギッド卿がアッシュとやらを召し抱えてやっても良いと仰られておるのだ。早々にアッシュなるものを呼んでまいれ。」


さんざん待たされた挙句こちらの言う事を聞かないサーシャに業を煮やした様子で使者が食って掛かる。人の話を聞かない上に高圧的な使者にアッシュが我慢などする筈もないのでサーシャが内密に処理するしかない。うんざりしながらも若干の補足を加えて繰り返す。


「アッシュは往診に出ておりますので戻りましたら必ず伝えておきます。どうか今日の所はお引き取り願えないでしょうか。色よい返事をお屋敷に届けさせて頂きますので。」


サーシャは同じ言葉を繰り返させる使いの者に苛立ちを募らせるがここで表に出してしまってはアッシュと同じになってしまう。なんとか堪えながらこの場を切り抜けようとする。

色よい返事に騙されたのか使いの者は渋々といった感じで引き揚げていく。サーシャはため息をつきながら、とうとう相手が直接的に行動してきたことに焦りを感じていた。



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