1-14 もう一つの目標
夕方が近づいてきたせいかドベル外周部商業区は様々な匂いに埋め尽くされていた。移動での数日間は、まともな食事にありつくことも叶わず素材を焼くか煮るかの2択で調味料にも恵まれなかった。やっとまともな食事にありつけると思えば財布の紐も緩みっぱなしとなる。まず肉の串焼きに反応したのはフォウだ。普段動かない耳がピョコピョコせわしなく動いている。
「マスター、味の付いたお肉です。是非、是非夕食の一品にどうですか?っていうか今食べたいです。」
珍しく自己主張してくるフォウに、アッシュとサーシャも賛成し夕食を兼ねての屋台の食べ歩きが決定した。タレを付けながら焼いているらしく香ばしい匂いを漂わせている。とりあえず串焼きを3本買い込みその場で齧りつく。少々肉が硬く血なまぐさいがタレの強烈な甘さとフルーティーな香りで誤魔化されている。味の付いた肉は久々だ。アゴルの村でも欠片のような肉の煮込み料理は出たが塊の肉の魅力には敵わない。夢中になって齧り付きあっという間に3人とも間食したがフォウはもう1本欲しがったので追加で買い与えておいた。
サーシャも肉串で弾みがついたのか近くの屋台で小気味よい油の音をさせている揚げ物屋で魚のフライを買っている。ここは3人とも趣味が分かれたのかフォウは魚の練りものの揚げ物を、アッシュはコロッケのような野菜の練り物を頼み思い思いに頬張った。元日本人らしい感想ではあるが調味料が物足りない。こちらでは素材そのものの甘みを活かして食感を楽しむ揚げ物も醤油やタルタル的なものがあれば尚旨いだろう。もしかしたら何処かには求める様な調味料があるかもしれないし、どうにかすれば作ることができるかもしれない。屋台の肉串だって下処理さえ丁寧に行えばより旨いものが食えるし料理のバリエーションも増えるだろう。いつか金銭的に余裕が出来たなら食の探求も悪くないと考えつつ満たされた満腹感により久しぶりの幸福に浸った。サーシャやフォウに関しても好きなものを好きなだけ食べ幸せそうにしている。フォウに至っては口の周りが油でテカっているのが残念だ。明日の朝食用に油で揚げたパンを数個買って宿に戻る事にした。宿へと戻りながら先ほど屋台で思いついたことをサーシャに伝える。
「今日の肉串って何の肉なんだ?ちょっと癖のある感じがしたが」
「多分あれはジャイアントスタンプって魔物の肉よ。この辺りでは食用としてメジャーな魔物ね。何?気に入ったの?」
「明日から仕事するんだろ?どうせなら旨いものが食える仕事の方がやる気が出るだろ?保存食に干し肉なんてあれば、旅しても困らないしさ。」
「まぁ素材採集の仕事は余るほど募集があるけど、稼げないから嫌よ。それにアッシュはここに拠点を築きたいんじゃないのかしら?だったらとにかく稼がないと。」
「マスター、私はジャイアントスタンプ狩りでコツコツと堅実に働く方が宜しいかと。」
「食いしん坊は放っておくにしても無駄に戦闘が出来るんだから稼いで美味しいものを食べればいいのよ。宿代だって馬鹿にならないんだから早く活動拠点を作るべきなの。」
サーシャは引く気が無い様で一蹴されたフォウがシュンとしているがアッシュが素朴な疑問を口にする。
「とりあえず約束のギルドの報告も果たしたし街まで送ってやったろ。俺たちと行動を共にする理由ってサーシャにあんまりないんじゃないのか?俺たちはドベルの街が肌に合わないようならアゴルで拠点を作るってのもありなんだが。」
アッシュの言葉を最後まで聞く気が無いらしく、サーシャはアッシュの胸倉をつかみ揺さぶって来る。
「私だってフォウと一緒に助けられたんじゃなかったかしら?最後まで面倒見てくれてもいいじゃない!?帰るところだってないのよ!??フォウの面倒は見る癖にぃぃぃぃ!!それにどうしてもアゴルに帰るってんなら私もついてくわよ。それにパーティーとしては白髪の私と黒髪のフォウって見栄えも良いでしょ!!」
最後のは理由にもなってないが、とにかくここでお別れっていう選択肢は存在しないらしい。今の所パーティーとしては何の役にも立ってない気がするが何を言っても聞き入れはしないだろうし話が拗れても同じ宿に帰るのだから気まずい。軍資金が無ければ帰ればいいと暗に考えていたが明日から真面目に金策と家探しに励む羽目になったようだ。
「わかったよ。じゃあ今後も助けてくれよな。」
満足そうに頷くサーシャを見ながら何事も諦めると新しい道が開けるものだと実感しながら、もう少しこの街で活動していこうと決めた。明日からは職安もといギルドに通う日々になるのかと思うとため息が出るが、今夜は久しぶりの寝台で眠れる事を思い出して少し心が軽くなるのだった。




