1-13-2 ギルド支部 2
少しばかりの休憩の後サーシャの案内でギルド支部を目指す事になった。フォウは頑なに留守番を申し出たが、この街の様子から目の届かない所で面倒ごとに巻き込まれてもたまらないので連れて行くことにした。街は外周部が商業区画となっており内部に軍事施設、及び居住区、中心部に貴族たちの屋敷や領主の城といった構造になっている。内部に進むにつれ亜人の姿も少なくなり、アッシュたちに向けられる視線は厳しいものとなった。当のフォウは何処吹く風と気にする様子もないのだがアッシュは不快感を募らせる。
サーシャに言わせれば内部に奴隷の亜人がいたところで然程気にも留められることもないのだが奴隷でもない亜人が内部に入れば隣国の間者の様にみられるのは当然の事らしかった。もちろん服装などで奴隷を見分けることも可能なのだが、趣味の悪い事に街の内部にいる奴隷には男女問わず鉄の首輪が付けられており中には子供の姿もあった。アッシュからしてみれば胸糞の悪くなる光景で、どうにかしてやりたいという気持ちもあるが全てを救えるわけもなく視線を落とし足早に目的地を急いだ。居心地の悪さからサーシャやフォウとも言葉を交わすことなく、しばらく歩きギルド支部の建物に着いた。
外観としては巨大な酒場といった様相だが周りの建物に比べ2階分ほど高さがある。サーシャに連れられ中に入ると酒場のようではなく、まるっきり酒場だった。バーテンのいるカウンターとは別に店の反対側にギルドの受付カウンターが設置してあるらしく、まるでパンツスーツのような服に身を包んだ妙齢の女性が受付に座っていた。サーシャが手短に用件を伝えると2階にある応接室で待つよう指示されるがついでとばかりにアッシュの冒険者登録も同時にお願いする。アッシュとしてはフォウも登録しておきたかったのだが身分が奴隷ということもあり冒険者登録は出来ないと受付嬢に笑顔で断られた。受付嬢の終始一貫した笑顔での対応により不快になる事もなくスムーズに事が運び書類に名前を書き血判を押すといった驚くほど簡単な事で登録手続きは完了した。
「アッシュさんをこれより冒険者として登録させて頂きます。階級は最下級の星1つシングルスターです。依頼をこなして頂きギルドへの貢献度を高めて頂ければ昇格していくというシステムです。逆に依頼を続けて失敗したり、違反事項を犯せば降格、取り消しといった処分もあり得ます。」
「続けて失敗しただけで降格とは聊か厳しいんだな。」
「ええ、そう思われるかもしれませんが失敗してお亡くなりになる方がほとんどですから2度続けて同じ失敗をする様なら救いがありませんので。」
笑顔のまま淡々と恐ろしい説明をする受付嬢をプロだなと感心して眺める。
「一度取り消し処分になったものはいかなる場合も再度冒険者の資格を有することは出来ませんのでご了承下さい。違反事項というのは基本的にギルドからの命令に背かない事です。命令と言っても強制的に依頼を与えられる場合があるといったぐらいです。あと常識の範囲で各国の法に従っていれば罰されることはありませんのでご安心ください。ちなみにギルドへの報告は嘘が通用しませんのでご覚悟ください。審問官が真実を見抜く能力を身に着けております。以上で説明は終わりですがご不明な点はございますか?」
「今のところ大丈夫だ。また困ったら聞きに来ることにする。」
「それでは2階の方へご案内させて頂きます。」
3人は受付嬢について2階の応接室に向かう。扉を開けた部屋の中は大きな机が奥に一つあり手前にテーブルとそれを挟むように3人掛けくらいのソファーが2つ置かれていた。ソファーに座って待つように言い受付嬢は部屋を出た。アッシュとサーシャはソファーに腰を下ろすがフォウはソファーの後ろに立ったままだ。アッシュが座るように促すが
「相手を不快にさせるかもしれません。私は平気ですので気にしないで下さい。それに避けられる揉め事の種は無い方が良いですから。」
宿屋の一件でアッシュの行動に危機感を覚えたのか先手を打って行動する。フォウの言い分に一理ある事もあり何とも言えず了承して待つことにする。先ほどの受付嬢の説明からも意外に依頼失敗のペナルティは大きなものなのかもしれない。サーシャが報告に俺を連れてきた理由もそこにあるのかもしれないと考えているとノックが3回ほど響き、扉が開く。
「どうも、待たせたみたいだな。ここのギルド支部管理官のルーカスだ。後ろの細いのが審問官のゴートだ。早速だが時間もない事だから始めさせてもらうぜ。」
ルーカスと名乗った男は身長が低く1.5m.ほどしか身長はないが鍛えられた筋骨隆々とした体が歴戦の勇士といった姿を思い起こさせる。歳は50歳ぐらいだろうか髪に白い物がチラホラと混ざっている。一方ゴートは身長は1.7m.ほどだが痩せており線の細さから身長より高く見える。黒色のローブを羽織っており見た目からして陰気な雰囲気を纏っている。さらに銀縁のメガネから趣味の悪さを伺える。ルーカスは奥の机で事務処理を始めゴートはアッシュたちの向かいのソファーに腰かけた。抱えてきたファイルをめくりゴートは目的のページを見つけサーシャとファイルを見比べるように視線を動かしながら口を開く。
「サーシャさんは現在、連続で依頼を失敗しており、しかもランクがシングルであることから資格停止処分待ちの状態ですね。何か申し開きがございますか?」
「ちょ、ちょっと待ってください。任務失敗はあくまで私の責任じゃありません。ロベルトさんの回復役として参加しただけですから失敗の責任は彼にあるんです。彼はゴブリンに襲われ死亡しちゃいましたけど。」
ロベルト?初めて聞く名前にアッシュが首を傾げているとゴブリンの巣で無残にも死亡していた先輩冒険者がいた事を思い出した。死人に口無しとは言ったものだが形は違うがサーシャの役に立っていることで何とか浮かばれないだろうかと心の片隅で冥福を祈っておいた。
「それに貢献でいえばゴブリンの巣を壊滅させた事で十分に報いてると思います。逆に臨時ボーナスを要求したいくらいです。」
キッパリと言い放つサーシャに良い性格してるなと感心するアッシュだった。
「あなた方だけでゴブリンの巣を壊滅させたのですか?到底シングルの冒険者に出来る事ではないのですが、一応、虚偽の報告ではないようなので資格剥奪は今回見送る事にしましょう。ただ報奨に関しては依頼失敗の違約金と相殺という形にさせて頂きます。ところでアッシュさんと言いましたか本日冒険者登録をなさったようですが、あなたが巣を討伐なされたのですか?」
「ああ、そうだ。」
「どのようにか伺っても?」
「単純に焼き払った。」
「火攻めで壊滅させたって事でよろしいので?」
「ああ、そうなるな」
ゴートがルーカスに目配せすると豪快に笑い声を上げ事務仕事をしていた手を休めてアッシュたちを見据える。
「面白そうな新人が入ってきたもんだな。単身でゴブリンの巣を壊滅させるなんてベテランでも1人じゃ手こずるぜ。まぁ今後もこの街にいるようなら色々と期待させてもらうが、あんちゃんも性悪に使い潰されねぇように気を付けな。聞き取りは以上だ。帰って良いぜ。帰りに冒険者証を持って帰るのも忘れるなよ。」
豪快なルーカスに圧倒されつつも応接室を後にしたアッシュたちは受付で冒険者証を受け取りギルド支部を後にした。ギルドの連中にも性悪と認識されているとは一体ここまで何をやらかしてきたのかとサーシャを見るが本人は悪びれる様子もなくフォウと夕食の算段に夢中である。店で食事を取ることも考えたが要らぬ問題を避ける為、商業区の屋台を目指し歩くことにした。




