Bar 蒼い石
母親がしばらく病院の父親の病室で寝泊まりするとのことなので勇太はその間、研究を早くあがらせてもらうことにした。
今日の分の実験ノートを書いて、研究室を出た。
『帰って父さんと母さんの着替え取ってくるのか…何でもいいかな。』
そう思いながらエレベーターホールでエレベーターを待っていた。
「中島君。」
助手が勇太を追いかけてきた。
「少し時間ある?」
「あっ、はい…」
さっきの病院での出来事を聞いても良いのだろうかと勇太が悩んでいると、エレベーターが到着して2人は乗り込んだ。
「さっきは突然そちらに行ってビックリしたでしょ?ごめんなさいね。」
助手は勇太に笑いかけた。
『やっぱり、あれは夢じゃなかったのか…でも、あの男は一体…』
エレベーターが止まり、2人はエレベーターを降りた。
「あれ…?」
勇太は1階に到着したと思っていたが、見覚えのない暗い廊下に立っていた。
赤いカーペットが敷かれていて、奥の方に小さな看板が光っていた。
“Bar 蒼い石”
『何で大学の中にバーなんて…しかも見たことないし…』
「こっちよ。」
助手がバーに向かって歩き出した。
「あのっ、先生?」
勇太は訳が分からなかったが、助手について行った。
助手がバーのドアを開けた。
「まだ開店時間じゃ…あら、いらっしゃい。」
中にいた白いレースがあしらわれた青いドレスを着た女性が言った。
「ラピスいる?」
助手が女性に聞いた。
「奥のVIPルームに行ったわ。」
「そう、ありがとう。お邪魔するわ。中島君、こっち。」
そう言って助手は奥へと向かっていった。
助手がVIPルームのドアを開けた。
中のソファーで金のスパンコールがキラキラと光る青いドレスを着た女性が座っていた。
「ラピス、お久しぶりね。」
助手が言った。
「ダイヤから話は聞いたわ。とりあえず座って。飲み物は何が良いかしら?」
ラピスと呼ばれた女性はソファーの前のテーブルに置いていたお酒のビンを見ながら言った。
「ジュースで良いわ。まだ勤務中だし。」
助手が言った。勇太は状況が飲み込めずにいた。
「初めまして。jewelsのラピスラズリと言います。以後お見知りおきを。」
ラピスラズリは勇太に笑いかけた。
「Jewels…って…えっ?!」
なぜ魔術師がバーにいるのか、それに助手の前で堂々とそのことを明かしていることに勇太は混乱した。
「ここで働いているのはみんなjewelsよ。さっき入り口にいたのはカイヤ。カイヤナイトよ。」
ラピスラズリが言った。
『カイヤナイト…あれっ、どっかで聞いたことあるような…』
ラピスラズリがじっと勇太を見た。
「なるほどね。」
ラピスラズリが空のグラスを手に取ると、みるみるグラスに青いキラキラ光る水のようなものがグラスの底から湧いてくるように現れ、グラスを満たした。
勇太はそれに見とれているとグラスを持ったままラピスラズリが立ち上がっていきなりグラスの中の液体を勇太の頭にかけた。
「うわっ!」
ビックリして勇太は立ち上がってしまった。
視界が突然灰色になった。
ボトッと音がして何かが足元に落ちた。
「何だこれ?!」
灰色のスライム状の物体だった。突然視界が灰色になった原因がこれだと分かったが、
「ラピスラズリさん、これは一体…」
「呪いよ。強力なのがかけられてたのね。」
ラピスラズリが言った。
「“ヤツ”よ。さっき中島君に接触してきたの。」
助手が険しい顔で言った。
「でしょうね。」
ラピスラズリはそう言ってグラスの口をスライム状の呪いに向けた。すると、呪いがグラスに吸い込まれた。
「一応、呪いは全部回収したわ、フラーレン。」
「フラーレン?!…先生が?!」
勇太は驚いと叫んでしまった。
ラピスラズリが、
「あっ、言っちゃダメだった?」
と助手の方をイタズラっぽくチラッと見た。
助手がため息をついた。
「中島君には遅かれ早かれ明かさなきゃいけなかったからいいわ…そう、私はフラーレン。jewelsと人間界をつなぐ存在。そして、」
助手は真剣な顔で勇太を見た。
「あなたたちjewels候補を監視するのが役割。」
勇太は驚きすぎて声が出なかった。