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父、倒れる

勇太はいつものように研究をしていた。

そして、10時30分になったらクォーツにみっちりしごかれてフラフラになって人間界に帰ってきては、あきにこっそり赤い粒をもらって昼休みまで研究に没頭した。

昼ご飯はみなで大学の外に食べに行って研究室に戻って来て、勇太は自分のデスクの上に置いていた実験ノートを手に取って読んでいた。

デスクの上に置きっぱなしにしていた携帯電話のバイブレーションが鳴った。

「ん?」

母親からメールだった。


“父さん、会社で倒れて七里(ななざと)中央病院に入院”


よく見ると勇太が昼ご飯を食べている間、母親から5回も着信があった。

「そんな…」

「どうした?」

勇太の様子を見て海斗が近づいてきた。

「父さん、倒れたって。七里中央病院に入院したって。」

「えっ?!中島君、行ってきたら?」

貴司も心配そうに言った。

「そうだね…」

勇太は冷静になろうと必死だった。

「七里中央病院だったら電車より自転車で行った方が速いかもな。俺の乗っていけよ。俺は歩いてでも帰れる距離だし。」

「先生たち、お昼行っているみたいね。中島君の早退言っておくから。」

海斗と樹理奈が言ってくれた。

「ありがとう…」

勇太は海斗の自転車に乗って急いで病院に向かった。

『よりによってたまたまケータイ持っていくの忘れてた日に…』

勇太は携帯電話をデスクに置きっぱなしにしていたのを後悔しながら自転車を走らせた。

20分程で病院に到着して、ナースステーションで父親の所在を聞いて病室へ向かった。

「勇太、来てくれたの。」

母親は父親が寝ているベッドの横に座っていた。

「父さん…大丈夫…?」

勇太は全速力で自転車を走らせてきたので息が上がっていた。

「えぇ、同僚の方がすぐに父さんを運んできてくださって、お陰でしばらく入院してればいいみたい。」

「そっか…」

勇太も椅子に腰かけた。

「最近、血圧高くてここの病院に通ってたんだけど、やっぱり仕事無理してたみたい。」

「えっ?!病院通ってたって?!」

勇太は父親が通院していたのは初耳だった。

「勇一と勇太には黙っておいてくれって言われててね。息子たちに余計な心配かけたくなかったのよ。

勇一は週末帰ってくるって。」

母親は勇太に冷蔵庫に入れていたペットボトルのお茶を差し出した。

「父さんに内定出たこと言ってなかったでしょ?父さん、安心してた。一応、就職はできるって。でも、本当に勇太がしたい仕事なのかって言ってたわ。

ただ、周りが就職してるからとりあえず受けただけじゃないかって。」

図星だった。勇太はお茶を飲まずに両手でペットボトルを握りしめていた。

「父さん、勇太は研究始めてから忙しそうだけど、生き生きしているって言ってたわ。良い研究室で良い仲間に出会えて良かったわね。」

勇太は目頭が熱くなってきたが、涙を必死でこらえた。

父親はちゃんと自分のことを見てくれていた―ものすごくうれしかったが、もっとちゃんと研究室のこと、就活のことを話しとけばと何となく父親を避けていたことに後悔した。

「父さんが元気になったらいっぱい話したら良いわ。お酒を飲みながら。」

母親がニッコリ笑って言った。

「血圧高いのに、禁酒だろ。ウーロン茶にするよ。」

勇太も笑った。

母親は一晩病室に泊まるとのことなので、勇太は海斗に自転車を返すために病院を出ようとした。

「いっそのこと、父親が死んでくれた方が楽か?」

後ろから声がして勇太は振り返った。

首から聴診器をぶら下げた白衣を着た長身の男が不適な笑みを浮かべて立っていた。

『医者…?でも何て不謹慎なこと言う医者なんだ…』

男が近づいてきた。

「父親の死がよりお前を強くする。どうだ、俺たちの元に来るか?」

男は手を勇太に差し出した。

『何だ?!…あれっ?この人、誰かに似てる…えーっと…』

「中島君!」

勇太は呼ばれた方に振り向いた。

助手が険しい顔で立っていたが、

「良かった、無事ね…お父様の容態はいかがかしら?」

といつもの優しい笑顔に戻って言った。

「あっ、大丈夫でした。しばらく入院してれば良いって。」

わざわざ自分の父親が心配で来てくれたのか―勇太は不可解だったが、

「すいません、ありがとうございました。」

とお礼を言った。

ふと不審な男のことを思い出して振り返ったが、男はいなかった。

『あれっ?いない…』

助手の方を振り返ったが、今度は助手の姿もなかった。

『なんだったんだ…?』

勇太はとりあえず大学に戻った。

「勇太!」

「海斗、自転車貸してくれてありがとう。父さん、大丈夫そうだった。しばらく入院だって。」

勇太は海斗に自転車の鍵を返しながら言った。

助手は自分のデスクに座ってパソコンで何か作業をしていたがチラッと勇太を見ただけで、何も言わなかった。

『さっきのは夢だったのか…』

勇太はそう思いながら事情を説明しに教授室へ向かった。

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