内定
「そこの魔法陣の重ね方が甘い!もう1回だ!」
クォーツの声が『扉の空間』に響いた。
ROOKの修行が始まって4日目、勇太はまだROOKを習得できていなかった。
『よし、今度こそ…!』
海斗は2日で習得できたようだった。クォーツはまだ習得できていない勇太に明らかに苛立っていたが、オパールの言葉が効いているのかのどの辺りまで出かかった言葉をおさえ込んでいる様に見えた。
勇太はいくつも重なった魔法陣に思いっきり魔力をこめた。
すると、魔法陣が光を放って爆発した。
「…成功した…?」
勇太は力が抜けてヨロヨロと座りこんだ。
「一応、合格だ。ROOKはかなり魔力を消費するからお前ぐらいの魔力量だと1日1回発動できる程度だろう。今日はここまでだ。」
クォーツがそう言い終わると同時に勇太は研究室の実験台の前の椅子に座っていた。
しかし、力が思うように入らなくて椅子から落ちてしまった。
「中島君、大丈夫?」
近くにいた樹理奈とあきが駆け寄ってきた。
「あはは…大丈夫…」
そうは言っても勇太は自力で立ち上がれなかったので全然大丈夫ではなかった。
「これ食べて。」
あきにいつもの赤い粒をもらってようやく立ち上がることができた。
「どうしたの?」
助手も勇太に近づいてきた。
「あっ、大丈夫です。ちょっとバランス崩してしまって…」
「勇太、痩せたよな?」
お昼ご飯を食べながら海斗が言った。
「僕も思ってた。やつれたというか…クォーツの修行厳しいの?」
貴司も言った。
「そう言えば最近痩せたような気がする。飯はめっちゃ食ってるけど。」
最近、お腹周りが少しスッキリしたように勇太は感じていた。
「魔力は体内のエネルギーから作られるから、中島君の場合は修行が原因ね。魔力切れになって倒れてしまうまで修行させられているのはやり過ぎだと思うけど。」
あきが言った。ペリドットとの修行の時は、休憩もあったしチョコレートもくれていたが、クォーツに変わってからは一切それらはなかった。
『ペリドットとの修行が懐かしいな…』
そう思いながら勇太は買ってきた天津飯大盛りと唐揚げをペロリと平らげた。
帰宅すると母親に1通の封筒を渡された。
勇太は部屋に行きながら封筒を開けてみた。
「あっ、『アイ薬局』…『内定通知』…って…!」
勇太は『アイ薬局』に就職の内定が決まった。
しかし、心の底から就職が決まって喜んではいないように感じていた。
『俺の本当にやりたいことは何だろう…?』
携帯電話を見ると樹理奈からメールが来ていた。
“アイ薬局の内定通知来たよ(^^)d”
勇太も返信した。
“俺も来た!お互いおめでとう(^_^)v”
海斗にもアイ薬局から内定通知が来たことをメールして、勇太は1階に降りて母親にも報告した。
母親は喜んではいたが、勇太は複雑だった。