研究室で
あきがみなに赤い粒を配って、自分も1粒口の中に入れた。
貴司は立ち上がることができるようになり、勇太も元気が出てきた。
『人払い』が解けて、人の往来が出てきた。
みな無言で歩き出した。
校舎に入ってエレベーターに乗っているときも無言だった。
研究室の前に着くと、助手がちょうど研究室から出てきた。
「あら、今日はゆっくりだったわね。」
「あっ、えーっと…」
マーキュリーの奇襲のせいで戻ってくるのが遅くなってしまったことに気づき、貴司は必死で言い訳を考えて口ごもっていた。
「たまにはイイわよ。ちょうど教授もいなかったし。ちょっと用事で出て行くわね。」
そう言って助手はどこかへ行ってしまった。
みな黙って研究を再開し始めたが、10分ほどたったところで樹理奈が口を開いた。
「悔しい!私、何にも役に立たなかった!」
樹理奈は両手を握りしめて椅子に座った。
「魔術があれば何でも自分の思い通りにできるものだと思ってた…でも…私、雅子のときも…何にもできなかった…」
樹理奈の声は震えていた。
「ゴメン…僕もだよ。」
貴司も言った。
勇太も黙って樹理奈たちを見ていた。2人と同じ気持ちだった。海斗も手を止めていた。
「みんなそれぞれできることをちゃんとしていたと思うわ。」
あきが言った。
「それに、闇属性に対抗できる属性は光属性だけよ。」
「ってことは…」
海斗が勇太を見た。
「私を含めてこの中で金属中毒に1番優勢なのは中島君だけよ。」
勇太の防御だけ水銀蟲に効果があった理由が分かったが、
「でも、野上さんの攻撃…あれ無属性の攻撃だったよね?ルーク…だっけ?」
と貴司が聞いた。
「アメジストも以前使っていた術だよね?」
勇太も言った。
「あれは『ROOK』っていう、『対闇属性魔術無属性攻撃魔法陣』。光属性以外の魔術師が闇属性魔術に対抗するために開発された術なの。」
「俺たちにも教えて欲しい。」
海斗が真剣な顔で言った。
「師匠から教えてもらうと思うわ。jewelsになる条件だから。」
あきが答えた。
「それと、気になることがあるんだけど…」
樹理奈が言った。もう声は震えていなかったので少し落ち着いたようだった。
「『フラーレン』って?」
「僕も気になってなんだ。だって『フラーレン』は宝石じゃないよね。ノーベル賞をとった物質だから有名だよね。C60の。」
貴司も言った。
勇太も思い出した。そう言えば学園祭のとき、ルビーが『フラーレン』の名前を出していた。
『フラーレンの調べでは海斗はリチウムの元恋人らしいわ。』
「フラーレンは『ダイヤとjewelsを人間界でサポートする存在』らしいわ。」
「ロードにも聞いたことあるんだけど、ロードは会ったことないから名前しか知らないって。でも、向こうは私たちのことを把握してるだろうって。ダイヤと行動を共にしてることが多いようだって。」
勇太は突然、たくさんの視線を感じ、思わず振り向いた。
しかし、勇太の目に飛び込んできたのは窓から外の景色が見えるいつもの光景だった。
「中島君は分かってきたみたいね。」
勇太の様子を見てあきが言った。
「ジルコニアが復活して私たちを見張っている…敵に中島君のことが分かってしまったからか、もっと強い式神も混じってるわ…まさか、ダイヤの式神なのかも…魔術界も本気になってきたみたいね。」
「結局、あの『星印』は何だったんだ?」
海斗があきに聞いた。
「金属中毒に対しての切り札のようね。陰陽術に関係しているのは分かっているんだけどルビーたちが口をつぐんだままだから調べるのが難しいのよ。マーキュリーの様子だと金属中毒は少なくとも脅威的なものに感じてるみたいだけど…」
あきは勇太をまっすぐ見た。
「中島君は絶対殺させないわ。ダイヤまで出てきたし、私も今以上に警戒するわ。中島君は普通に生活していても大丈夫だから。」
「僕も中島君を守るよ。モリオンに陰陽術を教えてもらって何か手がかりを探ってみるよ。」
貴司も勇太を見て言った。
海斗は勇太の肩に手を置いてニヤッと笑った。
樹理奈も頷いた。
「ありがとう…」
勇太はみなにお礼を言ったが、時間がたってくるとだんだん自分の命が狙われていることに恐怖を感じてきた。
『俺、どうしたらいいんだ…』
手が震えそうになっているのを感じた。
『みんなにこれ以上心配かけられないよな…』
勇太は器具を洗浄しながらいつも通りに振る舞おうと努めた。




