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前世剣神だった悪役令嬢は、婚約破棄で自由を謳歌する~ドレス?宝石?そんなものより強者をください~  作者: 涙目


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第六話 自由にできること

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

冒険者ギルド。

昼過ぎの酒場兼受付は、それなりに賑わっていた。


依頼へ向かう者。

依頼から帰ってきた者。

昼間から酒を飲んでいる者。


いつも通りの光景だった。


だからこそ。


受付前に積み上がった討伐証明部位の山へ、多くの視線が集まっていた。


ゴブリンの耳。

森狼の牙。

コボルトの首輪。

牙猪の牙。


机の上には討伐証明が山のように積まれている。


受付嬢は一つ一つ確認していった。


次第にその動きが遅くなる。


数が多すぎるのだ。


やがて最後の確認を終えた受付嬢は、大きく息を吐いた。


「……確認できました」


ギルド内が静まり返る。


「ゴブリン討伐、達成」


ざわり。


「森狼討伐、達成」


ざわざわ。


「コボルト討伐、達成」


誰かが息を呑む。


「牙猪討伐、達成です」


完全な静寂。


昨日登録したばかりの新人冒険者。


その新人が一日で終わらせるには、あまりにも異常な量だった。


だが証明部位は本物だ。


偽装の痕跡もない。


受付嬢は恐る恐る尋ねた。


「本当に、お一人で?」


「ええ」


アシュリーは頷いた。


「問題でも?」


本気で不思議そうだった。


受付嬢は言葉に詰まる。


昨日の試験を見ていなければ、彼女も疑っただろう。


だが実際に見てしまった。


木剣で木剣を断ち切る光景を。


「いえ……問題ありません」


そう答えるしかなかった。


その時だった。


「おいおい」


酒臭い声が響く。


大柄な男が立っていた。


赤ら顔。


片手には酒の入った木杯。


誰が見ても酔っている。


「こんな細っこい嬢ちゃんが一晩でか?」


男は鼻で笑う。


「あり得ねぇだろ」


周囲から苦笑が漏れる。


「証明部位は全て確認済みです」


受付嬢が言う。


「だから買ったんだろ」


男は机を指差した。


「新人がこんな量集められるもんかよ」


ざわつく冒険者達。


常識で考えれば分からなくもない。


アシュリーは男を見た。


そして。


くすりと笑った。


「あら」


楽しそうに。


本当に楽しそうに。


「試してみます?」


男の眉が吊り上がる。


「へへ」


下卑た笑い。


「嬢ちゃん、痛い目にあわねぇと分からねぇみたいだな」


アシュリーの笑みが深くなった。


「あってみたいですわね」


その言葉に男が顔を歪める。


「なら決闘だ」


酒杯を置く。


「文句はねぇな」


受付嬢が慌てて割って入った。


「ま、待ってください!」


男は振り返りもしない。


「決闘は自由だ」


ギルド内では珍しい話ではない。


双方が同意すれば成立する。


それがルールだった。


受付嬢がアシュリーを見る。


止めてください。


そう言いたげだった。


だが。


アシュリーは心から楽しそうに笑った。


「あるわけございませんわ」


即答だった。


「自由」


ぽつりと呟く。


「いい響きですわね」


王城では無かった。


学園でも無かった。


王妃教育でも無かった。


誰かの都合ではない。


誰かの期待でもない。


ただ戦いたいから戦う。


それだけだった。


「へっ、威勢だけは立派だな」


男が剣を抜く。


周囲に人が集まり、人垣ができる。


アシュリーは静かに観察した。


足運び。


握り。


重心。


呼吸。


数秒で十分だった。


「ゴンズか」


誰かが呟く。


それなりに名の知られた冒険者らしい。


少なくとも新人が勝てる相手ではない。


普通なら。


「始めるぞ!」


ゴンズが踏み込む。


真っ直ぐな斬撃。


アシュリーは半歩ずれる。


空振り。


突き。


身体を捻る。


掠りもしない。


横薙ぎ。


首を傾ける。


避ける。


避ける。


避ける。


ただそれだけ。


まるで最初から軌道を知っているようだった。


「どうした嬢ちゃん!」


「全く手も足も出ねぇじゃねぇか!」


「行けゴンズ!」


「やっちまえ!」


ヤジが飛び交う。


ゴンズも笑った。


「ははっ!」


押している。


誰が見てもそう見えた。


だが。


「ふふ」


アシュリーが笑う。


「ハンデですわ」


「……なんだと?」


ゴンズの顔が歪む。


「酔っていらっしゃるでしょ?」


アシュリーは人差し指を一本立てた。


「私は指一本で相手をして差し上げます」


一瞬の静寂。


そして爆笑。


「ははははは!」


「聞いたか!」


「指一本だとよ!」


「馬鹿にされてるぞ!」


ゴンズの顔が真っ赤になる。


「後悔するなよ!」


踏み込む。


今までより速い。


怒りが体を動かしていた。


アシュリーは静かに観察する。


重心。


踏み込み。


呼吸。


見えてきた。


どうやら、これが全力らしい。


少しだけ。


本当に少しだけ残念だった。


「もう終わりですのね」


ぽつり。


ゴンズの背筋が冷えた。


理解してしまった。


目の前の女は。


最初から戦っていなかった。


遊んでいたのだと。


「ふざけるなぁぁぁぁ!」


渾身の一撃。


全体重。


全力。


会心。


その瞬間。


アシュリーの人差し指が伸びた。


ただ一本。


剣先へ。


軽く。


本当に軽く。


触れる。


カン。


乾いた音。


それだけ。


次の瞬間。


ゴンズの剣が宙を舞った。


くるくると回転し。


訓練場の端へ突き刺さる。


静寂。


誰も動かない。


ゴンズも。


冒険者達も。


受付嬢も。


ただ目を見開いていた。


アシュリーだけが、


立てたままの人差し指を眺めている。


そして。


満足そうに微笑んだ。


「ほら」


まるで約束を確認するように。


「指一本でしょう?」


静寂が続く。


その中で。


「……おいおい」


聞き覚えのある声が響いた。


試験官ギルバートだった。


彼は額を押さえながら呟く。


「本当に新人かよ」


ギルド中がその言葉に頷いていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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