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前世剣神だった悪役令嬢は、婚約破棄で自由を謳歌する~ドレス?宝石?そんなものより強者をください~  作者: 涙目


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第十四話 鉄は熱いうちに打て

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

アシュリーはミッフィーへ跨っていた。


その横をアルマが走る。


走る。


ひたすら走る。


街を離れ。


森を抜け。


草原へ出る。


理由も説明されていない。


目的地も知らされていない。


さすがに限界だった。


「どこに行くんだ?」


アルマが眉を顰める。


「ご主人」


アシュリーは上機嫌だった。


「まだ内緒」


にっこり笑う。


嫌な予感しかしない。


そして。


アシュリーは前方へ視線を向けた。


「それより」


その笑顔のまま。


「そろそろよ?」


アルマも目を向ける。


遠く。


地平線の向こう。


何かが揺れている。


最初は分からなかった。


だが。


地面が微かに震えている。


ドッドッドッドッ──


遅れて音が届く。


そしてようやく気付く。


土煙だ。


大量の何かがこちらへ向かっている。


そう理解した瞬間。


アシュリーがミッフィーの向きを変えた。


「私は避難するわ」


「は?」


「アルマはあれお願いね」


そう言って森へ入ろうとする。


アルマが慌てて振り返る。


「あ、おい!」


その時だった。


アシュリーが思い出したように手を叩く。


「あ、そうだ」


嫌な予感。


ものすごく嫌な予感。


そして。


案の定。


「一匹取り残すごとに罰ゲームね」


満面の笑み。


それだけ言って。


消えた。


「クソがぁぁぁ!!」


アルマの叫びが草原へ響く。



近付くにつれ。


異常さが分かった。


牛型魔獣。


群れでの大移動。


軽く二百頭は超えている。


群れというより災害だった。


村へ向かえば被害は甚大だろう。


だが。


問題はそこではない。


「全部私かよ!」


叫ぶ。


当然返事は無い。


あの狂人は逃げた。


本当に逃げた。


そして。


何より問題なのは。


罰ゲームだった。


内容を聞いていない。


聞かなくてよかった。


あの狂人の考える罰ゲームだ。


ろくなものではない。


それだけは断言できた。


「くそっ!」


アルマは地面を蹴った。


群れへ飛び込む。


一閃。


首が飛ぶ。


二匹目。


三匹目。


四匹目。


次々に切り伏せる。


だが。


減らない。


全く減った気がしない。


群れは流れ続ける。


終わる気配が無い。


「ふざけるな!」


さらに加速する。


魔力を脚へ流す。


もっと速く。


もっと強く。


もっと多く。


十匹。


二十匹。


三十匹。


倒す。


それでも。


終わらない。


「はぁ……はぁ……!」


息が乱れる。


脚が重い。


腕も痛い。


まだ半分も減っていない。


いや。


半分どころではない。


このままでは。


先に潰れるのは自分だ。



アルマは初めて足を止めた。


肩で息をする。


汗が目へ入る。


剣が重い。


その時だった。


脳裏に。


アシュリーの剣が浮かぶ。


無駄が無い。


大振りもしない。


力んでいない。


必要な分だけ。


必要な動きだけ。


「……なんでだ」


思わず漏れた。


自分も剣を持っている。


腕も二本ある。


同じように振っているつもりだ。


なのに違う。


決定的に違う。


何が違う?


分からない。


全く分からない。


だが。


考えている暇は無かった。


「くそっ!」


再び群れへ飛び込む。


今度は大振りしない。


できるだけ小さく振る。


すると。


少しだけ楽だった。


「これか!」


思わず叫ぶ。


だが。


直後。


牛型魔獣の角が肩を掠めた。


「あぐっ!」


吹き飛ばされる。


地面を転がる。


痛い。


失敗した。


今度は力を抜くことばかり考えていた。


避けることを忘れていた。


立ち上がる。


また飛び込む。


今度は避けながら斬る。


だが。


今度は別の失敗。


斬撃が浅い。


倒し切れない。


傷を負った牛が暴れる。


後続とぶつかる。


余計面倒になる。


「違う!」


また飛び込む。


また失敗する。


また修正する。


また失敗する。


四十匹。


五十匹。


六十匹。


何度も転がった。


何度も吹き飛ばされた。


何度も踏まれそうになった。


その度に考える。


考えて。


考えて。


考えて。


それでも答えは分からない。


ただ。


アシュリーの剣を思い出して真似する。


また失敗する。


もう一度真似する。


また失敗する。


七十匹目を斬った頃だった。


ふと。


気付く。


吹き飛ばされる回数が減っていた。


息が続いている。


脚もまだ動く。


剣も重くない。


「……あれ?」


思わず呟く。


理由は分からない。


何が正解なのかも分からない。


何を掴んだのかも説明できない。


けれど。


さっきまでより楽だった。


明らかに。


さっきまでより。


身体が動く。


昨日まで出来なかった。


今まで知らなかった。


何度も失敗した。


何度も転んだ。


何度も吹き飛ばされた。


ただそれだけなのに。


不思議だった。


「なんだこれ……」


まだ分からない。


分からないまま。


アルマは次の牛へ向かって走った。


まだ群れは残っている。


だが。

最初ほど絶望していない自分がいた。


「本当にクソだな……!」


悪態を吐く。


悔しい。


腹立たしい。


けれど。


少しだけ。


ほんの少しだけ。


楽しかった。


昨日より。


確実に強くなっている。


それだけは分かった。



森の木陰。


ミッフィーは草を食んでいた。


その横で。


アシュリーが寝転がっている。


水の鏡。


水魔法。


遠くの景色を映し出していた。


アルマが走る。


斬る。


転ぶ。


また立ち上がる。


失敗する。


修正する。


また失敗する。


「ふふ」


アシュリーは笑う。


昨日より少し鋭い。


一週間後にはもっと。


一ヶ月後にはさらに。


竜人族。


才能あり。


負けん気あり。


殺意あり。


実に素晴らしい。


「頑張りなさいな、アルマ」


本人が聞いたら激怒しそうな声だった。


穏やかで。


優しくて。


期待に満ちている。


「いつか私を殺すのでしょう?」


アシュリーは本気だった。


冗談ではない。


本当に。


心の底から。


その未来を期待している。


だから見守る。


だから育てる。


だから強くする。


全てはアシュリー自身が強くなるために。


殺し合いというアシュリーの訓練相手を育てる。


遠く。


アルマの罵声が風に乗って聞こえてきた。


アシュリーは満足そうに目を細める。


「良い声ね」


そして再び寝転がる。


雲ひとつない空だった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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