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前世剣神だった悪役令嬢は、婚約破棄で自由を謳歌する~ドレス?宝石?そんなものより強者をください~  作者: 涙目


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第十二話 強くなる為には

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

「まずは」


パチンッ。


指が鳴る。


その瞬間だった。


アルマは反射的に飛び退く。


ついさっきまで自分が立っていた場所。


そこに。

自分の身体を模した水が浮いていた。


思わず剣へ手が伸びる。


アシュリーは楽しそうに笑った。


「ふふ」


まるで悪戯が成功した子供のように。


「大丈夫よ」


肩を竦める。


「ただ洗うだけだから」


殺気は無い。

最初から無い。


それが一番怖い。


アシュリーという人間は。

殺気が無いまま殺しに来る。


だから怖い。


普通の敵よりも。

ずっと。


「大人しくできないなら」


アシュリーが首を傾げる。


「大人しくさせるけどどうする?」


アルマは黙る。


数秒だけ考え。


ゆっくり手を下ろした。


「いい子ね」


次の瞬間。

大量の水が出現する。


ぐるりと身体を包み込む。


本能的に身構える。


だが攻撃は来ない。


ばしゃっ。


水が全身を流れる。


泥。


汗。


血。


汚れ。


全てが剥がれていく。


気付けば身体が驚くほど軽い。


綺麗になっていた。


そこで。

アルマはふと思った。


「ご主人様」


声はまだ少し掠れている。


だが言葉になる。


「何かしら?」


「ご主人様は」


少し迷いながら続ける。


「指を鳴らさなくても魔法を使えますよね?」


アシュリーの笑みが深くなった。


「そうよ」


軽い返事だった。


あまりにも軽い。


だからこそ疑問が残る。


「なら」


アルマは尋ねた。


「なぜわざわざ指を鳴らすのですか?」


アシュリーは即答した。


「ふふ」


満面の笑み。


「かっこいいじゃない?」


アルマは無言になった。


かっこいい。


ただそれだけ。

そのためだけ。


思わず溜息が漏れる。


やはり狂人だ。


だが。

直後。


アシュリーが笑う。


「なんてね」


アルマの眉がぴくりと動く。


「う・そ」


イラッ。


本気でイラッとした。


(落ち着け)


(狂人に付き合うな)


自分へ言い聞かせる。


視線を逸らす。


だが。

楽しそうな気配はさらに濃くなった。


アシュリーは完全に面白がっている。


「そうよ」


今度は真面目な声だった。


「観察しなさい」


アルマが顔を上げる。


「自分で考えるの」


アシュリーは続ける。


「誰かに教えてもらった答えなんて意味ないわ」


木へ寄り掛かる。


「その場限りになるだけだから」


正論だった。


痛いほど。

身をもって理解している。


たった一晩。


たった一晩で。


自分は死線を越えられるようになった。


見せられた正解を観察し。


模倣し。


自分で考え続けた結果だ。


正論。


至極当然。


否定できない。


けれど。

感情は別だった。


アルマは奥歯を噛む。


そして。

低い声で告げた。


「いつか必ず……殺す」


殺意。


憎悪。


反骨心。


闘争心。


全部乗っている。


アシュリーは数秒黙る。


そして。

笑った。


心の底から。

本当に嬉しそうに。


「そう」


一歩。

アルマへ近付く。


「その目よ」


アルマが思わず後退った。


本能が警鐘を鳴らしていた。


危険だと。


目の前の女は危険だと。


「奴隷市で見た時から気に入っていたの」


アシュリーはしゃがみ込む。


視線を合わせる。


「死にたくない」


指を一本立てる。


「強くなりたい」


二本目。


「負けたくない」


三本目。


そして。

口元が歪む。


「殺したい」


アルマの背筋に寒気が走った。


「最高じゃない」


本当に。

心の底から。


嬉しそうだった。


アルマは理解する。


やはりおかしい。


強いからではない。


考え方が。

根本から違う。


「覚えておきなさい」


アシュリーが立ち上がる。


「強くなりたいなら」


振り返る。


「憎みなさい」


平然と言う。


「恨みなさい」


当然のように続ける。


「怒りなさい」


そして。


「全部使って強くなりなさい」


アルマは絶句した。


騎士はそんなことを言わない。

神官も言わない。

教師も言わない。


けれど。

目の前の女だけは違う。


「私はそうやって強くなったから」


さらりと言う。

天気の話でもするように。


嘘ではないのだろう。


「さて」


パンッ。


手を叩く。


空気が切り替わる。


「朝食にしましょう」


そして当然のように続けた。


「その後はゴブリン討伐よ」


アルマは空を見上げた。


やっぱり狂人だった。


けれど。


「……はい」


返事をしてしまう。


なぜなら。

この女が自分を拾った理由が。


同情でも。

慈悲でも。


憐れみでもないと分かったから。


この女は。

本気で。


自分が強くなれると思っている。


だからこそ。

いつか殺してやる。


その思いだけは。

昨日よりもずっと強くなっていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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