↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世剣神だった悪役令嬢は、婚約破棄で自由を謳歌する~ドレス?宝石?そんなものより強者をください~  作者: 涙目


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/19

第十話 買った理由

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

「さて、剣を構えなさい」


食事を終えた直後だった。


食器を片付けたアシュリーは、森の少し開けた場所まで少女を連れてきた。


そして開口一番、それを告げた。


少女は無言で剣を構える。


まだ喋れない。


だが言われた意味は分かった。


対して。


アシュリーの手には木の枝。


その辺に落ちていたものを拾っただけだった。


少女の額に青筋が浮かぶ。


馬鹿にしているのか。


そう思った。


当然だろう。


自分は剣。


相手は枝。


戦いにすらならない。


その顔を見て。


アシュリーは笑った。


「いいわね」


口元を歪める。


楽しそうに。


本当に楽しそうに。


「まずは実力差を知るところからね」


瞬間。


アシュリーの姿が消えた。


少女の呼吸が止まる。


視界から消えた。


そう認識した時には。


首筋へ。


枝先が触れていた。


冷たい。


いや。


冷たい気がしただけだ。


本当はただの木の枝。


それなのに。


どんな名剣よりも恐ろしかった。


動けば死ぬ。


理屈ではない。


本能がそう告げていた。


冷や汗が全身から噴き出す。


身体が動かない。


指先すら。


アシュリーは笑う。


愉快そうに。


満足そうに。


そして。

教師が生徒を見るように。


「今、何を感じた?」


少女は答えられない。


喉はまだ声にならない。


だが瞳だけは大きく揺れていた。


恐怖。


動揺。


絶望。


その全てを読み取ったアシュリーは満足そうに頷く。


「そう」


枝を離す。


「それでいいわ」


少女は大きく息を吸った。


気付けば呼吸を止めていたらしい。


肺が痛い。


心臓も激しく脈打っている。


「勘違いしているみたいだから教えてあげる」


アシュリーは枝を肩へ担いだ。


「力の差というものはね」


一歩下がる。


「技術の差だけじゃないの」


さらに一歩。


「筋力の差だけでもない」


もう一歩。


「経験の差だけでもないわ」


少女は剣を握り直した。


震える指。


悔しさ。


恐怖。


様々な感情が混じっている。


アシュリーはそれを見て少し笑う。


「全部よ」


少女の瞳が見開かれた。


「あなたはまだ弱い」


事実。


ただそれだけだった。


容赦もない。

配慮もない。

慰めもない。


「だから死にかけていた」


森を風が吹き抜ける。


木々が揺れる。


静かな夜だった。


その中でアシュリーの声だけが響く。


「けれど」


少女が顔を上げる。


「才能はある」


即答だった。


迷いはない。

躊躇もない。


だからこそ重い。


「だから買った」


少女の胸がざわめく。


同情ではない。

慈悲でもない。

哀れんだわけでもない。


この女は本気なのだ。


本気で。

自分に価値があると思っている。


「来なさい」


アシュリーが枝を構える。


酷い構えだった。


隙だらけに見える。


だが今なら分かる。


見えるだけだと。


少女が地面を蹴った。


一直線。


最短。


最速。


今出せる全力。


剣が走る。


アシュリーは動かない。


剣が届く。


その直前。


コツン。


枝が手首を叩いた。


剣筋が逸れる。


身体が流れる。


そして。


コツン。


額を叩かれた。


少女が固まった。


負けた。


また。


何が起きたのかすら分からない。


アシュリーは小さく頷く。


「悪くないわ」


そして少しだけ真面目な顔になる。


「もう一回」


少女は唇を噛んだ。


悔しい。


悔しくてたまらない。


剣を握り直す。


アシュリーは満足そうに笑った。


そう。


その顔だ。


死にたくない顔。

負けたくない顔。

強くなりたい顔。


奴隷市で見た時。


この少女の目に残っていたもの。


アシュリーが買ったのは竜人族だからではない。


奴隷だからでもない。


その目だ。


「何度でも来なさい」


枝を構える。


月明かりの下。


元剣神は笑う。


「夜まで付き合ってあげるわ」


少女は再び剣を握り直した。


今度は迷わない。


地面を蹴る。


何度でも。


何度でも。


その背中を見ながら。


アシュリーは楽しそうに笑っていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。