第9話「思い浮かぶのは」
遅くなってすみません……
翌日、私は墓参りに来た。
「母さん、久しぶり」
エルフの墓は、人間が良くする石を積み立てるたようなものではない。ただ、土に埋めてそれっぽく木を刺しただけのものだ。
「私も、人間と関わるようになっちゃったよ」
墓の前に座り込んで、家から持ってきたお酒の封を開けた。
「この匂いも随分と久しぶりだろ。少しだけ話そうか」
母は昔、不思議がる私の前で人間と接していた。
人間の作った家具や食事、服、様々な文化を楽しんで好んでいた。今でもその気持ちはまだあまりよく分からない。
でも、セツカと会ってからは少しそれが分かってきた気がする。
「母さん、人間って面白んだな」
酒瓶を墓前に置いて寝ころぶ。
「エルフ、私一人だってさ。強いのも、長寿なのも、辛いものだね」
母が返事をしたかのように、私のすぐ横に小鳥がやってきた。
静かで柔らかい風が私の顔を撫でていく。
のどかだね……
小鳥に手を伸ばしながら、私はそのまま目を瞑っていた。
瞼の裏にリエやタクマ、セツカの笑う顔が浮かんできて、私も不意に微笑んだ。
昼になったので、今日も人間界の方へやってきた。
「リエ、来たぞ」
「あ、ミラちゃん。今お昼持ってくるわね」
「うむ」
やはり、今の人間界には何の恐怖もないようだ。
今日もリエは幸せそうな顔を浮かべて歩いて行った。
魔族も私がしっかりと根絶やしに出来たのだろう。無限に出てくる魔物もちょくちょく倒し続けているし、きっと人間界に魔物は出現していないのだろう。
昔の人間とエルフが望んだ平和は、私によって終止符を打たれた。
ただ、そうなると私の攻撃魔法は一体何のために生きているというのか。私たちエルフ族の犠牲はなんだったんだろうか。
私がもっと早く行動していれば、親も友達も死なずに済んでいた。
頑張って旧友や親の顔を思い出そうとしても、名前だけが頭に浮かぶ。
「“忘れた”か……」
少しすると、リエがいつも通り、沢山のご飯を盛った皿を机に置いて席に着いた。
「はい。今日は魚だよ」
「お、魚は好きだぞ」
「それはよかった!」
魚に箸を伸ばした私を見るリエの顔で、思い出そうとする友達の顔がまたどんどん霞んでいった。
食事を済ませたらいつも通り、私は魔法を披露しにいく。
「見てびっくり―」
「ミラさん!!」
そしていつも通り変人が会いに来る。
「お前も懲りないな」
「そりゃ、君に会うのに理由なんていらないさ」
無駄にキラッとした顔をして、私の手を取ろうとしてくる。
墓参りに行ったからか、この平和ボケした世界に違和感しか持てない。
「今日は、君をもっと論破しに来たんだ」
「なんだか知らんが、邪魔だけはするなよ」
睨んでいるというのに、変人は嬉しそうに私を見つめる。
「今日も俺の華麗な頭脳を披露してあげよう」
そう言って変人は私の近くに寄ってきた。
「邪魔だ」
「まあまあ」
変人は私の頬に手を添えて、その手を私の髪に動かした。
「なんだ」
「かわいい……違う。やっぱりね」
「なんだ」
「ミラさんの髪は、とてもいい匂いがする!!」
「は?」
変人は私の髪の毛を鼻に付けて、一気に息を吸った。
「お前……まじか」
「引いてくれるなよ。これはミラさんが可愛すぎるからだめなんだ……!」
腕を広げて、私に振り下ろそうとしているように見えた瞬間に、私はしゃがみこんで空中にカボチャを浮かせた。
「いっ……」
カボチャに顔面をぶつけ、声を抑えて私の前にしゃがみこんだ変人はかぼちゃを掴んだ。
「ミラさん、これもマジックなのかい……」
「そうだけど?」
「そんなピンポイントに出来るものかい……」
「そうだけど?」
目に雫を浮かべて、鼻を痛そうに触ってこちらを向いて、かぼちゃに目をやって哀れな様子で口を開いた。
「ミラさん……これも好感度の表れだったりするかい?」
「違うけど」
「そこはそうだけどって言ってよ……」
「嫌だ」
「はぁー……」
溜息をカボチャにぶつけて、何気なく私の方に近寄ってきた。
「近寄るな。変人」
「そりゃ無理な話だよ。七年も研究し続けたエルフが目の前にいるんだからね」
研究なんて、魔族くらいしか使ってこなかったな……
「分かった。分かった。じゃあ、普通の友達として接する。これでどうだい」
「言い訳ないだろ」
「なんでだい! あの小娘と私の違いなんてないだろう!」
「ありまくるから拒否してるんだぞ」
「言ってみなよ」
「私の事を研究対象として見てることだな」
「だから、その部分をなくして近づこうって言うんだよ!」
「どうせそういう目で見るんだろ」
「み、見ないさ」
変人はどこにも落ち着かない手を私の方に近づけてくる。
「お前はセツカのように落ち着いていない。その手、私に向けて近づけてくるな」
「なっ……」
「髪を吸うな。頬を触るな。抱き着こうとするな。まじまじ見るな。私の前に現れるな」
「そ、そこまで……」
「とにかく。私の中でお前はよく分からん変なやつとしか見ていない。友達になんてなれんな」
「……分かったよ。じゃあ俺と、一日だけデートしてくれないかい」
「だから、嫌だと」
「君の欲しい物でも、何でも、私が買ってあげよう。行きたい所に連れて行ってあげよう」
「ふむ……」
変人は私がいつも貰っている駄賃の紙切れを何枚も出した。
「五百万までなら、ミラさんのために使える!」
値段は分からんが、欲しい物をか……ここで人間らしいところを見せられたら、私は自由になれたりしないだろうか
そう考えついた私は決断までに時間はかからなかった。
「一日だけなら、良いぞ」
「よっしゃー……!!」
腕を振り上げた変人は、振り下げた勢いでカボチャを地面に落とした。
「まずはそれを買ってこい」
「あ……そうだね」
でも欲しい物か……
夕方、昨日と同じくらいのタイミングでセツカが手伝いにやってきた。
「昨日ぶり、ミラちゃん」
「ああ。昨日ぶり」
セツカに聞けば何か思いつくだろうか
「セツカ、何かプレゼントしてもらえるなら、いいものってないか?」
「え? プレゼント?」
「ああ。変人が五百マン?までなら欲しい物を買ってくれると言ってくれてな」
セツカは口をあんぐりと開けて固まった。
「どうした? 何かないか?」
「あ、いや……ご、五百万?」
「ああ。よく分からんが」
「へー……え、車も買えちゃうよ……」
「クルマ? なんだそれは」
「あー……なんかさ、四角いのが道を走ってるの見たことない?」
「あー……」
昔に私が魔物と見間違えた人間の兵器か
「見たことあるな」
「あれあれ」
ほう……五百マンというのは、兵器が買えるほどの値段なのか
「でも……せっかくならさ。服とかお菓子とか買ってみたら?」
「服か……」
「私、コーディネイトしてあげようか」
眉をひそめた私に、慣れた様子で笑いながら頷いた。
「ごめん。えっとね、服を私が選ぶの」
「ほう」
「それを、買って着てみるみたいな」
人間はそういうことをするのか……
「分かった。それを頼む」
「うん、任せて!」
セツカの提案を承諾して、いつも通り魔法の披露に夕食とゲームを楽しんだ。
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