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最後のエルフ、余生はネオン街でスローライフ  作者: 為世 斐文


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10/12

第10話「お出かけ1」

 翌日、リエの店に行くと変人がいつもの黒服とは打って変わって、街行く人が着ているような、無駄にひらひらしたような見慣れない服を着て立っていた。

「来たね、ミラさん」

 先ほどまでの真顔はどこへやら、口角を突き上げて私をじろっと見つめてくる。

「変人、セツカも来るからな」

「え、それはあの小娘かい?」

「ああ」

 変人は眉をひそめて、細めた瞳で試すように見つめてきた。

「なんだ」

「ミラさん。二人きりじゃ怖いのかい?」

「いや、別に」

「じゃあなんだい。たっぷりの時間を使ったプランを組んできたというのに、その時間を捨てると言うのかい?」

「知らん」

「そんな非情なぁ……」

 しょんぼりした変人を無視して、私はリエの元に向かった。

「リエ、来たぞ」

「あ、ミラちゃん。いらっしゃい」

 今日も相変わらずの笑顔だ。

「リエ、すまないが。もう一人分だけ貰ってもいいか?」

「あら、お友達?」

「まあ……違うけど、放っておくと面倒な気がして」

 承諾してくれたリエを横目に、私は変人の様子を伺いに外に出た。

 変人は魔族に魂を抜かれた人間のように、口を開けて光のない目をして、遠くを眺めていた。

 つくづく面倒くさいやつだ。

「おい変人」

「なんだい……」

 力なく出て来た声は、私の耳にほとんど届かなかった。

「昼食は食べたのか」

「食べてないさ……あいにく、食べるところからスタートのデートだったからね」

 デートな……

 そんなにデートというのは重要なものなのだろうか。

「セツカとやら小娘はいつ来るんだい? プランを練り直すよ」

「知らん」

「ええ……じゃあ、どうするのさ」

「セツカが私の服を選んでくれるそうだ。それを買う」

「え、それ俺がいる意味ある?」

「知らん」

 変人は自分にさした指をだらんと振り下ろした。

「え、俺ただのヒモってことじゃん……」

 納得のいっていない顔を浮かべてはぐちぐち喋られるのが面倒で、私はリエの元に帰った。

「リエ、昼食は用意できそうか?」

「大丈夫よ。もうちょっと待っててね」

「うむ」

 机で頬杖して溜息を一つ吐く。

 なんか、昔にデートしようなんてこと言われたことあったっけか……

 そう言ってきたやつの名前も顔も、エルフなのか人間なのかも思い出せない。

 でも楽しかったという気持ちだけは残っている。実に妙な気分だ。

「はい、ミラちゃん」

「ありがとう」

「お友達は、もういるの?」

「友達ではない」

「そうなのかい?」

「ああ。もう外にいる」

「じゃあ、お友達の分も並べるわね」

「任せた」

 その言葉を喋った瞬間、若々しい男性の顔が脳裏をちらついた気がした。

 笑顔で、私の名前を呼んで、私の髪を触って。

 いや……気のせいか

「おい、変人」

「なんだい……」

 しゃがみこんで動く気配がなかったので手を掴むと、変人は変な声と同時に顔を気持ち悪い顔に歪めた。

「セツカが来るまでは、昼食食べて仕事の手伝いでもしてくれ」

「するよ! 俺、君のためになるならなんだってするさ!」

 じゃあ消えてくれよ……

 そんな言葉は言わないでおいた。どこかこの気持ち悪い感じが懐かしく思えたから。


 昼食を食べ終わってから少しするとセツカはやってきた。

 変人と同様に、いつもの服ではないひらひらしていてふわふわしているような、いい感じの服を着ていた。

「お待たせミラちゃん」

「うむ。待ったのは変人だったがな」

「あ、そうだったね。ごめんなさい待たせちゃって」

「仕方あるまい……何の連絡もなしにここまで集まれたのでよしとしよう」

 連絡ならしただろ……

 変人の言い分を馬鹿にする心でいると、セツカがスマホをちらつかせた。

「なんだ?」

 意味が分からず声をだすと、セツカは口を耳元に持ってきた。

「人間は、スマホでいつでも連絡を取れるの」

「なっ……」

 いつでも、連絡を……そんな、どうやって?

 既存の魔法でもそんな魔法はない。

 やるとしても転移魔法を使って喋るくらいだろうか。

 意味が分からないと困惑している私の前で、セツカと変人は互いに軽く会釈して自己紹介を始めたようだ。

「私は雪華。えっとー、高校一年生で、めっちゃ絵を描くよ!」

「高一か」

「うん」

「俺は、夜津谷 凪。研究員兼、組織の社長をしている」

「え、すごい!」

「だろう?」

 変人はセツカに話しながら、ちょくちょく私を見てくる。

 まるで自慢しているみたいな顔だ。

「連絡先交換しない?」

「あー……それなんだけどね。今、スマホをなくしてしまっていてね」

「え、そりゃ大変な」

「森にある見慣れない一軒家の調査の時に、どこかに落としたみたいでね」

 ん……

 何か、曖昧な記憶が思い出されるようで出てこない。

「あの周辺には魔法の痕跡もあってね……どこかに魔法を使える何かがいるに違いないんだ。しかも、あの家の特徴はエルフが好む家の特徴と合致していてねー……ねえミラさん」

「知らん」

 表面上では真顔を貫く私だが、内心とても焦っている。というか驚いている。

 こいつ……なんでここまでエルフのことと、魔法のことを知っているんだ? 魔法はきっと結界のことだろう……しかも、あのダンジョンの魔物から逃げ切ったのか?

「なあ変人」

「そろそろ……名前で呼んでくれないかい?」

「嫌だ」

「くっ……」

「それよりも、お前はどこでそんなエルフとか魔法の知識を得てるんだ?」

「ん、なんだい。ミラさんもやっぱりそういうのには目がないのかい?」

「まあ」

 変人は誇ったように鼻を高くした。

「それなら、また今度二人でデートしようじゃないか」

 こいつ……

 本当に面倒なやつだ。

「分かった。ただ、ちゃんと話してもらうぞ」

「いいのかい!?」

 言い出した本人が承諾されたと同時に、声を荒げて私に飛んで近づいてきた。

「ああ」

「よしっ。これはもう、結婚だな」

「せん」

「まあいいさ。いずれミラさんの体、隅々まで調べつくすからね」

「死んでくれ……」

「冗談さ」

 はぁ……

 この人間の知識を得ている元を知るためには仕方ないが、こうも調子に乗られると面倒だ。

「まあ、服選びに行こうよ」

 セツカはにこやかな表情で私の腕を掴んだ。

「ああ。行くか」

「ちょっと待てぇい」

 変人は歩き出した私たちの肩を掴んだ。

「なんだよ」

「お、俺も、手を繋ぎたい」

「嫌だ」

 変人はまたしょぼんとした顔を浮かべた。

 面倒だ

「行こうセツカ」

「え」

 変人を気にするセツカをよそに、私はずいずいと前に歩き出した。

 変人は後ろをとぼとぼ歩いて、まさに群れの長を聞くときに人質として捕まえたゴブリンのそれだった。

※この作品は他サイトでも掲載しています。

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