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最後のエルフ、余生はネオン街でスローライフ  作者: 為世 斐文


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第7話「エルフと人間の違い」

 次の日、またセツカとゲームをするだろうと私は楽しみな気持ちを持って人間界にやってきた。

「リエ、来たぞ」

 店の奥で立っていたリエに話しかけると、リエは私を見て固まった。

「どうした?」

「あ、いや……」

 ぎこちないリエはいつも通り私に昼ごはんを出したが、どこか落ち着かない表情を浮かべている。

「何か変か?」

「ミラちゃん……前に、家は森の奥なんて言ってたわよね」

「ん、ああ」

「それって……設定じゃなくて、本当のことだったの?」

 ん……?

 リエは何に驚いているのか、私には理解できなかった。

「本当だが、どうした? 別に変なことでもなかろう」

 そういうとリエは私の頭に手を伸ばした。

 ん?

「これ……木の枝よね」

「あー、ペットがたまにつけて遊ぶんだ。気にしないでくれ」

「そう……。その、言いにくかったらいいんだけどね」

「ああ」

「お母さん、お父さんって一緒に暮らしてないの?」

「まあ、随分と前に死んでるからな」

 今、この会話に繋がる部分あったのか? まあいいか……

「あら……」

「ざっと、百年前だったか? 生き残っていた母も魔族の手で殺されたな」

「あー……」

 腑に落ちていないのか、リエは眉をひそめた。

「ミラちゃん。辛いことがあったら私たちに言うのよ? 雪華も雅人も、私たちの元離れちゃってねー……雪華はまだ地元に居てくれてるけど、私たち、いつでもミラちゃんの面倒みてあげるから」

 マサトって誰だ……

「あ、そうよね。雅人っていうのはね、うちの息子なんだけどね。今はもう都内の大学に通っちゃって、だからその分、家に空きがあるから、ミラちゃんが使ってもいいのよ?」

 まあつまりは、家に息子がいなくて空きがあると……だがな

「私が人間界に住んでしまうと、色々と問題が起こるのでな。せっかくの話だが断らせてもらう」

「ミラちゃんが困ってないなら、私たちもいいのよ。ただ……」

 そこまで言うとリエは私の手を握った。

「誰も頼れる人がいないのは……悲しいじゃない? 孤独は、辛いでしょう?」

 孤独……か

 エルフ族というのは、ほぼすべてが孤独に生きている。

 結婚するやつなんて、ほとんど存在していない。

 大抵は一生誰とも連れずに一人のんびりと生きていたり、たまに人間などと交流をするもの好きもいるが、私含め一般的なエルフはみな孤独を好む。

 それは関わっても分かりきった運命をたどるだけだからだ。

 短命なものと関わると言うのは、長寿の種においての難敵。だから私もあまり深々とは関わりたくはなかった。でも、私もそろそろ寿命はくる頃だろう。

 だからここまで人間界にやってきている。

「機会があれば来る」

「うん。いつでも待ってるわ」

 人間はいつか死ぬ。

 人間にとっての一年は、私たちにとってわずか一週間ほどにしか感じられない。

 だからリエも、もうじきに死ぬだろう。

 そうすればセツカも今のリエほどの歳になる。

 また私だけが残るのだ。なんの使命もないままに。

 リエの言葉は、私の脳裏に深く焼き付けられた。

「ごちそうさま。マジック披露してくるな」

「ええ。よろしくね」

 この声も、あとどれだけ聞けるか分からない。

 はぁ……


「ミラさん!!」

 魔法を披露して数分も経つと、やはり変人は湧いて出て来た。

「今日と言う今日こそ、話をしようじゃないか!」

 鼻に止血剤だろうか。白い何かを付けて鼻声で喋っている。

 きっと昨日のカボチャで傷でもできたのだろう。

「嫌だ」

「俺は怪しい人じゃない。これまでさんざん見せて来たのに……まだ、まだ許してくれないのかい?」

「自由が……私は人間だからだ」

 本音を言いかけた口を閉ざして、嘘偽りを吐いた。

「じゃあ、俺がもっと君が人間ではなくエルフだということを証明してみせるよ」

「帰ってやれ。ほら、これでも食べてろ」

 昨日同様にリンゴを渡すと、変人はリンゴを元の位置に戻した。

 だめか……

「ミラさん。君にとって人間とはなにかな?」

「その質問に何の意味がある」

「あーあー、やましいことがないのであれば答えられるはずだよ。例え、それが君のいうマジックの最中だったとしてもね」

 はぁ……

「いつのまにか成長する生物だよ」

「ほほぉ……」

「これでいいか」

「そうだねー……それは、君が久しぶりに人間界に来たと受け取れる。君のような高圧的な人は、本来そんな理論的な論理的なことを述べる人は少ないはずだからねー」

「人間によるだろ」

「あーあー、人間は他の人のことを人間だなんて言わないよー。普通は人によるって言うんだ」

 しまった……

「ミラさんが久しぶりに人間界に来たと仮定するとー……例えば車なんて、知らないんじゃないかい? スマホやゲーム、新幹線や電車、あるいは学校なんて行っても伝わらないほどだったりするのかもしれないね~」

 変人はいつにもまして口うるさく私の横で喋りかけてくる。

「知ってるかい? ネットでは今。君と私のやり取りがよく議題にあげられているんだよ」

 私とこいつの話が……何に上がっているって?

「と言っても、ネットが何か伝わらないかもしれないが……まあ、とにかく私はそこそこ名の知れた学者でもあってねー。君が本当にエルフかどうか、みんな知りたがっているんだよ」

 だからか……

 前なら誰かが私に話しかけて来たとき、他の人間たちは「邪魔だ」なんて言葉を吐くやつもいた。

 でも今になっては無口で私と変人の会話を聞いているやつばかり。

 もう魔法の披露も驚かれなくなってきたのだと思っていたが、何かでみんなが私と変人の会話を見る機会が設けられているのだろう。

「別にエルフならエルフでいいじゃないか」

 その通りだ

「何かやましいことでもあるのかい?」

 自由がなくなるんだよ……お前のせいでな

「私は君の事をもう英雄アポストロにしか見ていない。きっと名前は本来ミラだったのだろうね? 昔の話はよく人が肉付けをしたがる。名前もその一例に囚われていてねー。本当の名前とは違う名前を知られているなんてこともなくはないんだよ」

 その通りだ

「ミラさん。無視はひどいじゃないか。私たちの仲だろう?」

「そんな仲はない」

「そう言わずに、さー」

 変人はとてもやっかいだ。

 自由をくれると言うならいくらでも語ってやる。だが、こいつは前に自由がなくなるかもしれないと、自由の保障は出来ないとはっきりと言った。

 困ったなー……

「実を言うとね、君は今の俺の会話中にエルフがよくとる仕草をしていたんだ」

「なんだ?」

「耳をぴくっと動かすんだよ。ほらまた」

 変人の言う通り、私は今、耳を動かしていた。

 これは確かに無意識におこなってしまうことだ。もはや息をするくらいには無意識やっている。

「人間はね、そんなこと出来ないんだよねー。まずまず、コスプレだとするならそれは特殊メイクで施した偽の耳だ。電気を送らない限り動くはずがない。そして、そんな情報をただのコスプレイヤーが知っているわけもない」

 変人は私にぐいっと近づいてきた。

 私の耳はまた無意識に動いた。

「エルフの耳は、虫で言うところの触覚に似ていてねー。何かで体が反応しているときや、近づいてくるものを調べたり、こうやって」

「ひゃっ……」

 変人は私の耳をなぞるように手で触れて来た。

「何かを感じる時にもう動くんだよ」

 変な声出させやがって……

「ミラさん……ここまでエルフの証拠が出てるんだ。いい加減に認めた方が楽なんじゃないかい? 別にやましいことはしないよ。ただ、君について知りたいんだ」

 弾きこまれるような、まるで催眠魔法をかけられているような気分のする目で私をみつめてくる。

「でも人間、人だって……耳を触られると声をあげるやつもいるだろ」

「それはどうかな?」

 私は試しに変人の耳に手を伸ばした。

「ミラさん? んんっ……」

 変人の耳を触ると、変人は少し笑うような、食いしばっているような声を出した。

「ほら見ろ」

「分かった。分かったよ……」

 変人は妙に縮こまって私から距離を取った。

「認めよう……人間も、耳を触られると変な声は出すと」

 ふぅー

 何とか耐えた私は胸を撫でおろした。

「ま、また来る……」

 変によそよそしくなった変人はその場を後にした。

「来るな」

 走り去る背中に杭を打ったが、きっとまた来るのだろう。

 本当に、面倒だ……

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