第6話「初めてのゲーム」
仕事の休憩にとセツカが何やら紙製の丸い箱を持ってきた。
「はい、ダーゲンハッツ」
ふむこれがか……
「ありがとう」
これが氷とは思えんな……
様子見をしようとセツカを見ると、セツカは紙製の丸い箱の上部を取った。
「ぬ……」
「どうしたの? 溶けちゃうよ」
「あ、ああ……」
包み紙ならぬ、包み箱だったのか……でも中身は氷じゃないな……
何やら白い味噌のような何かが詰まっているように見える。
セツカはそれをスプーンですくって口に入れた。
ほう……スプーンですくって食べる氷……か?
笑顔を見せたセツカを見て、私もスプーンですくってみた。
かた……くない
「ちょっとだけ溶けてる方が美味しいから、若干溶かしておいたんだけど、いいかな」
「あ、ああ」
氷を解かしたら……もはやそれは水になるはずで……水はおいしいけど、そこまで笑顔になるものでも……
恐る恐る口に含むと、私の口内に旨味成分がぶわっと広がった。
「な、なんだこれは……」
「美味しいでしょ」
「美味い……氷がこんなに美味くなるとは思わなかった」
「氷? は使ってるのかな」
「アイスだろ? 氷じゃないか」
「え、なになにダジャレ?」
セツカは私の言葉に笑ってまたひとすくいした。
「やっぱ、何も変えてないバニラもたまにはいいなー……」
頬に手を添えて、嬉しそうに体を揺らす。
人間は氷をここまで美味しくできる知恵を手に入れたのか……知らなかった
人間界に来てからは驚いてばかりだ。まるで昔の人間が欲しがった魔法をいとも簡単にやってのけている。
「人間の知恵は、凄い、なー」
この氷を食べる手が止まらなくなるほどには、感心する。
「喋りたいなら食べないで喋りなよー」
「ああ、すまない」
「ふふっ、ミラちゃんって面白いね」
「そうか?」
「うん」
「そうか……」
私には魔法を基礎として使っている人間の方が面白いがな
氷を食べてからはいつも通り、魔法の披露に入った。
「見てびっくりー」
タクマから適当にこんなの喋ってくれと、文字が書かれた紙を渡されたが、こんな言葉を喋ったところで人は増えるのだろうか。
「ミラさん!」
「黒服の変人は求めていない」
この人間は暇なのだろうか。
「少しお話がしたい」
「仕事してるから」
「あの子とはどういう関係なんだい。あの子もエルフなのかい?」
「いや、知らん。エルフではないだろ」
「見たことがないってことかい?」
「そ……」
まて、それを私が肯定でも否定でもすれば私がエルフという証拠になってしまう……!
「知らん。リエとタクマの子供らしいぞ」
「それは……この店主のことかな?」
「ああ」
「じゃあ、店主はエルフ族ではないってことかい?」
「知らん。私と同じ人間だ」
この変人はいつまでこれを繰り返すつもりだろうか。
いい加減に諦めてくれ……
「そうか。人間というなら、家に遊びに行きたいねー。どこに住んでいるんだい?」
「嫌だ。お前を家に招待する義理はない」
「俺たちの仲じゃないか」
「そうだな。お前が一方的に私をエルフだと確定させて、好き好き言っているだけの関係だな」
「そんなことは言わないでよー……」
仕事の邪魔すぎる。
「これで売り上げが落ちたらお前のせいだからな」
「……それは」
「押し付けるのは違うぞ」
適当にそこらへんにあったリンゴを浮かして、変人の手に渡した。
「買ってこい」
「これは……私への愛の印? 真っ赤で情熱的な」
「ようわからんが違う」
変人は私に腕を広げて走ってきた。
「マイ・ラブ・エルフ・ミラ!!」
軽く横に避けて、変人はそのままリエの方へと走っていった。
はぁ……ひっつき虫みたいなやつだ
「ミラちゃん、結構ばっしりと切り捨てるんだね」
セツカが苦笑いを浮かべて私の方へやってきた。
「ああいう変な奴は、大体がちゃんと言わないと聞かないからな」
「たしかに」
おお、共通する常識もあったか
セツカは苦笑いを続けたまま変人を見て、また持ち場に戻っていった。
それでも諦めないやつだから、困ったもんだ……
「ミラさん、俺たちの愛の印」
背後から喋りかけられた私はとっさに魔法で浮かしたカボチャを変人の頭にぶつけた。
「ああ、すまない……」
鈍い音が響き、変人は頭を支えながら私を見た。
「痛いじゃないか……。でもそれが、エルフの婚姻の印と本で見たことがあるぞ!」
そんな訳ないだろ……
「エルフ族は不老だから、一生残る傷を付けて、それが愛の印だと! さあ、ミラさん。俺と結婚しよう! 思う存分、研究させてくれ!!」
また飛びついてきた変人の前に、カボチャを置いて横に避けた。
変人はカボチャに顔から当たっては地面に倒れた。
はぁ……
「見てびっくりー、まるで魔法のマジックタイムだよー」
倒れたまま動かない変人を無視して魔法の披露に移った。
そんなこんなで今日も日が暮れていった。
「ミラちゃん、今日の晩御飯はカボチャの煮つけとカボチャのグラタンと、カボチャのスープね」
カボチャ尽くし……
「ミラちゃん、晩御飯はここで食べてくんでしょ? ちょっとだけ遊んでいかない?」
「遊ぶ?」
「うん」
「いいが、何で遊ぶんだ? 下級の魔物でも倒しに行くか?」
「まだ設定続けるんだね」
セツカは笑いながらカボチャの煮つけに手を伸ばした。
「普通にゲームだよ。今新作のゲームが楽しくてさ!」
ゲーム……試合? シンサク、芯を裂く試合か……
「いいぞ」
今頃の人間も、ちゃんと戦闘面を考えてはいたんだな
「やったー」
食べるスピードを上げたセツカに合わせて、私も少しだけ食べるスピードを上げた。
食べ終わったセツカに案内されて、私はセツカの部屋にやってきた。
「じゃじゃーん」
セツカはスマホよりも大きい、四角のものを見せて来た。
周りには何やらキノコみたいなものが二つ付いていて、碁石のようなものもついている。
「なんだこれは? 新しい武器か?」
「武器? んー、ゲーム機。知らないの?」
「まあ……」
試合をするわけではなかったのか……
「知らなかったんだ。今頃珍しいね」
「そ、そうか?」
「うん。私の周りの子、みんな知ってる」
「も、森の方で暮らしてたからな。ここら辺のことはあまり良く知らないんだ」
「あ、そうなんだ。田舎住みってこと?」
イナカ……?
「あー、ああ」
よく分からずに私は肯定だけしておいた。
「じゃあ説明するから、一緒にやろー」
「ああ。よいぞ」
セツカは碁石に手を置いた。すると、四角の表面にスマホのように何かが現れた。
ぬ……
「どうしようかなー、やっぱり最初ならこのゲームかな。ほのぼのしてるからミラちゃんに似合いそう」
「なんでもよいぞ」
セツカは淡々と表面に現れる動く写真を変えていく。
魔法か……? だが、これほどまでに繊細で早く動かす魔法なんて知らないぞ……。このセツカという人間は、私よりも精密な幻影魔法の使い手だったのか?
「えっとね、じゃあこのボタンでジャンプね」
「ん」
言っている意味が理解できないから、とりあえず言われた通りの碁石に触れた。
すると、ゆっくりと中に入り込み、表示されている誰かが上に飛んだ。
「おお……」
これは完全独立型の魔法だったのか……
「それで、このスティックで移動してー」
「ふむ」
このキノコはスティックと言うのか
言われた通りに触れると、今度はスティックというものが横に動いた。
そしてそれに合わせて先ほど上に飛んだ誰かが横に移動した。
「おお……」
「やばい、その顔すごい好き」
セツカは驚いている私の顔を見て笑った。
「あ、敵きたよ」
「敵だと」
周りを見渡した私に、セツカは腹を抱えて笑った。
「ちがっ、違う。ミラちゃん、画面内に敵来てるの。天然って言われない?」
「分からん」
セツカは笑いながら、指をさした。
「これ、こいつに触れたら死んじゃうから、ジャンプして避けるか、踏みつけて殺さないとだめなの」
「ほう……なんと殺伐とした」
「このゲームにそんな感想抱く人初めて見た」
またセツカは笑った。
それがちょっと楽しくて、私も笑みが零れた。
「あ、ミラちゃん踏みつけて」
「あ、ああ」
ぎこちなく碁石を押したが、どうやら別の碁石を押してしまったようで、敵に突っ込んで死んでしまった。
「あー、それはね走るボタンだよ」
「走る」
ああ……ボタンが碁石の事だったのか
「全部のボタンの説明が欲しい」
「任せて」
そこからはセツカに色々と教えてもらいながら、ゲームというものを楽しんだ。
四角い表面に世界が現れて、そこの中で人間やら何かを操作する。やはり、人間はいつの間にか魔法を習得していたようだ。
「楽しかった。またやろう」
「うん! 明日も来るんでしょ?」
「ああ」
「じゃあ明日もやろー」
「分かった。色々と教えてくれ」
「うん、もちろん!」
セツカと別れ、ほわほわした気持ちで今日は家に帰った。
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