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最後のエルフ、余生はネオン街でスローライフ  作者: 為世 斐文


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第5話「変人」

 あれから一日経過した。

 変人はどうやらこの店の常連客になるようだ。

「ああ、これも貰おうか」

「帰れ」

「いいじゃあないか。俺と君の仲だろう?」

「ミラちゃん、彼氏いたのね」

「あ、おばあちゃん。俺、女です」

「あら」

 はぁ……

 リエのような人間はこういう変な人間を何とも思わないのか、普通に接して笑顔を作る。

 私には理解が出来る気がしない。

「ねえ、ミラさん。ばいばい凪ちゃんって言ってくれないかなー?」

「断る」

「お願いだよ~」

「い、や、だ」

 変人は私の腕を掴んでニコッと笑った。

「やっぱり、君はエルフだね」

 耳元で不気味に囁いた。

「違う」

「人間でこんなに体温が低い人はいないんだよ。俺を舐めないでね」

 ……そんなことないだろ

「エルフは長生きするからね。体温でエネルギーを使わないんだよ。さあ、ばいばい凪ちゃんって言いたまえよ」

 こいつは私を捕まえたいのか、言われたいだけなのかどっちなんだ……

「人間でも、私ほどの冷たさをもったやつはおるわ」

「あー……昔はそんな人間も居たのかな?」

 そうして私の頬に手を置いた。

「あつ……」

「あーあー、人間は人の体温に熱いなんて言わないよ」

「……いや、言うだろ」

 この人間は思っていたよりも賢いようだ。

 もう、完全にばれてるのか……?

「ばいばい凪ちゃんって言えばいいんだよ」

「はぁ……。ばいばい、ナギちゃん」

「ああ、ばいばい」

 そう真顔で言いながらまた小鹿のように足を震わせて、別の人に肩を預けて消えていった。

 本当に意味が分からないやつだ……

「ミラちゃんにもちゃんとお友達がいたのね」

「いや、私に付きまとう変なやつだよ」

「そうなのかい?」

「ああ。ほんとによく分からん人間だよ」

 魔法の披露に戻ったがやはり黒服の人間たちは私を観察することはやめないようだ。

 せめてバレバレの位置から見るのはやめろよ……

 前まではまだ遠く離れたところから私を観察していたのに、あのやたらと凪ちゃん呼びを強要する変人が私の前で手を振ったり、魔法を使った瞬間に私に指先を向けたり、それをやるたびに別の人に連れていかれている。

 懲りないな……

 実害が及んでいないからいいけど、もし本当に私の自由がなくなるのであればそれは面倒くさい。

 まあ、今はいいか……

 溜息をこらえて再度魔法を使おうとした時だった。後ろから肩を叩かれた。

 ん……別に変なことはしてないはずだぞ

 後ろを見ると、そこにはタクマが立っていた。

「ミラちゃん、ちょっと裏来てくれるか?」

「ん、よいが」

 タクマに連れられて私は裏の方にやってきた。

 そこにはリエと親し気に喋る私と同じほどの身長の女の人間がいた。

「あ、すごい! 本物だ!」

 その女性は私の方に駆け寄ってきては手を握って、見たこともないほどの笑顔を浮かべた。

「えー、本当にコスプレには見えない! すごいね、いつもこれやってるんでしょ~。その才能うらやましー。え、てかてか。めちゃくちゃ体冷たくない? ねえお父さん、ミラさんずっと外に出してるんじゃないの? ねえ、お母さんもちょっとは気遣ってあげてよー。今頃ちょっと寒くなってきたんだからさ~。でも、いいなー。それなんて色のカラコン使ってるの? 耳もすごー! もうまるで本物」

「待て……」

 何も喋らないでいるとずっと喋ってきそうで、少し身を引いて接した。

「タクマ……これは誰だ」

 女子はリエに引き取られた。

「いきなりすまないな。俺たちの子供、雪華って言うんだ」

 セツカ……か

「それで、私はどうすればいい」

「ああ、ただ仲良くしてくれたら嬉しいなと思ってな。ちょっと通ってる高校的にいない日もあるんだがな。大体はいる日が多いから」

 コウコウ……いる後攻。じゃないな……なんだそれ

「ああ、そうか。分かった」

 とりあえず話だけ合わせておいた。

「よろしくねミラさん!」

「ああ」

 まあ別にそこまで気にすることもないだろう。

「ミラさん、ちょっと後でね」

「ん、うん」

 後で?

 よく分からず、首を傾げながら私はまた魔法の披露に行った。

 まだいるのかよ……

 あの変人はまだいるようで、私が出て来たからか手を振っている。

 はぁ……気にしない、気にしない……

 まるでハエのように視界をぴょこぴょこ動くから見たくなくとも、意識が少し引っ張られてしまう。

 面倒だ……

「ミラさんおまたせ!」

「ん」

 どうやらセツカはここで働いているようだ。

 リエたちが着ている服と同じような服を着ている。きっとこの服がこの店の売りの一つなのだろう。

「セツカは何をするんだ」

「え、もう名前呼び……話聞いてたけど、やっぱすごいなー……。私もミラちゃんって呼んでいい?」

「まあ、構わん。好きに呼べ」

「やった~」

 セツカはまた先ほど同様に満面の笑みで手を握ってきた。

「やぱ冷たい。カイロ持ってきたんだ。寒かったら使っていいよ」

「カイロ?」

 なんだそれ……

「そうそう、もう秋なっちゃうんじゃん。だからカイロ買っておいたんだ」

 買うもの……寒かったら使いたいものか……

「今はいい。そんなに寒くないしな」

「え、じゃあさじゃあさ。あとでダーゲンハッツ食べない?」

「なんだそれ」

「え」

 ああ、しまった……

 セツカから聞こえてくる言葉は半分以上が分からない言葉過ぎて思わず聞き返してしまった。

「アイスだよアイス」

 アイス……氷? 今の人間は氷を食べるのか……

「そこらにあるやつと何が違うんだ? それ」

「あ、もしかしてミラちゃん高いから買いたくない派でしょ」

 高いのか……分からんんし合わせておこう

「まあ」

「いるいる。でも、一度食べちゃったら美味しくて手止まんないよ~」

 氷がな……信じがたい。

 そこまで言われると食べてみたくなるものだ。

「分かった。食おう」

「お、これでまたダーゲンハッツ好きを増やせる。絶対気に入るから」

「うむ」

 少しわくわくした気持ちを持ちながら前を見ると、そこには変人がいた。

「なんで戻ってきた」

「いや、なんで俺よりも親しい子がいるんだよ!」

「いつから私はお前のものになったんだ」

「昨日だよ!」

「なってない」

 はぁ……

「え、だれだれ? 彼氏さん?」

「違う……」

「俺は女さ」

「えー……顔立ちかっこいい!」

「ん、だろう? なあ、カッコいいよなミラさん」

「知らん」

「ミラちゃん色んな友達いるんだね」

「友達でもない」

「なっ……!?」

 はぁ……

 さっきからため息しかでない。

 勘弁してくれ……

「お前、ずっと私を見てきて鬱陶しい」

「なっ……」

「ハエみたいだ」

「ぐはっ……!」

 変人は目の前で倒れ込んだ。

 後ろから急いで別の黒服の人が現れた。

「あ、そいつすぐに引き取ってくれ」

 黒服の人は頷いて変人を担いだ。

「ミラさん、ミラしゃ、ミラさん……ミラさーーーん……」

 私の名前を連呼しながら今度こそどこかへ消えていった。

「なんか、嵐みたいに去っていったね」

「おお……その通りだな」

 人間はそんな言葉も生み出しているんだな。感心だ……

 セツカが野菜を整え始めたから私も魔法を披露することにした。

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